角田鋼亮さんの卒業演奏会を聴く

2月になると大学の冬学期も終わりに近づき、私の周りでも日本に完全帰国する友達がちらほら出てきましたが、その1人、指揮者角田鋼亮さん(HPはこちら)の卒業演奏会を最近聴いてきました(角田さんと知り合ったのはかれこれ5年ぐらい前で、その間このブログでも何度かご紹介してきました。下記参照)。彼はハンス・アイスラー音楽大学でディプロームを取得した後、国家演奏家資格課程(Konzertexamen)でさらなる研鑽を積み、この度コンツェルトハウスでの卒業演奏会(兼卒業試験)を迎えたわけです。
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指揮者角田鋼亮さんインタビュー(1)(2) (2008.01)
毎年2月に行われる卒業演奏会(Absolventenkonzert)に出演する学生は、コンツェルトハウス管弦楽団という一流のプロオーケストラと共演する機会が得られます。演奏されたのは、ブリテン、コルンゴルト、ショパン、チャイコフスキー。出演者のプロフィールを読むと、1980年前後に生まれた人が多く、国籍はフランス、ブルガリア、中国、ロシア、日本とさまざま。ドイツの音大なのにドイツ人が1人もいないというのには、何とも不思議な気がします。
この日は夕方にもう1つ用事があり、私は後半から聴くことになりました。かなり腕の立つ奏者でも、ステージマナーがまだどこかぎこちなかったりということはあるのですが、オーケストラの人たちはそんな若い音楽家の門出を温かく送ろうとしているのが、よく感じられました。
トリを飾った角田さんの指揮するチャイコフスキー作曲の幻想序曲『ハムレット』は、素晴らしかったと思います。曲全体を把握した丁寧な指揮ぶりは相変わらずで、十分にドラマチックでありながら、伝統的にロシア音楽に強いこのオーケストラから深みのある音色を引き出していたように感じました。
本人から本番後の写真撮影を頼まれ、掲載許可もいただいたので、あと何枚かその時の様子をご紹介します。
見事なオーボエのソロを披露した奏者を立たせる場面。
最後はオーケストラ側からも拍手を受ける。
審査員は、師のクリスティアン・エーヴァルト氏の他、ヴァイオリニストのコリヤ・ブラッハー氏やホルニストのノイネッカー氏など、そうそうたる顔ぶれだったそうですが、結果、最優秀の成績で、ドイツ国家演奏家資格を取得することになったとのこと。素晴らしいことですが、角田さんのTwitterにはこう書かれていました。「とはいえ全く浮かれていられず、『学生』という身分に終止符を打つことになるわけで、一層責任を持って一つ一つの音楽・仕事に向き合っていきたいと思います」。
角田さんと知り合ってから、指揮者という職業の一端を垣間見させてもらう機会がいろいろあったわけですが、印象に残っている彼の言葉の1つが、「どのオーケストラであっても、最初のリハーサルの前夜は緊張で寝られないことが多い。例えどんなに曲の事を勉強していても」というもの。そういえば、最近読んだ佐渡裕さんのインタビューでも、似たような言葉に出会いました。「僕らの仕事は1回ごとに新しいものを創っていく連続なので、根拠のない自信はもてないです」(Skyward誌。2010年8月号より)。
棒1本で世界を渡って行く指揮者という仕事の魅力、そしてその厳しい世界に思いが至ります。実際、例えばこのコンツェルトハウス管弦楽団の定期演奏会に客演指揮者として呼ばれるのは、相当大変なことなのだと想像しますが、現在30歳の角田さんのプロの指揮者人生はまだ始まったばかり。定年のない指揮者の世界では、彼はあと半世紀ぐらい(!)は振り続けることになるわけで、時間をかけてじっくり音楽を熟成させていってほしいと願っています。日本でもヨーロッパでも、またいつか角田さんの創る音楽に耳を傾けるのが楽しみです。まずは、卒業おめでとう!
Absolventenkonzert der Hochschule für Musik »Hanns Eisler« Berlin
Konzerthausorchester Berlin
Adrian Pavlov
Rustam Samedov
Jiannan Sima
Kosuke Tsunoda
Guillaume François Tenor
Alec Frank-Gemmill Horn
Zhijiong Wang Violine
Nadeshda Tselouikina Klavier
Benjamin Britten Serenade für Tenor, Horn und Streichorchester op. 31
Erich Wolfgang Korngold Konzert für Violine und Orchester D-Dur op. 35
Fryderyk Chopin Rondo à la Krakowiak für Klavier und Orchester F-Dur op.14
Fryderyk Chopin Variationen über »La ci darem la mano« für Klavier und Orchester op. 2
Pjotr Tschaikowsky »Hamlet« Fantasie-Ouvertüre nach Shakespeare op. 67



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2 Responses

  1. Ausdrucksvoll
    Ausdrucksvoll at · Reply

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    こんにちは!Alec Frank-Gemmillは何度か一緒になったことがある友人で非常に優秀なホルニストです。彼も一箇所になかなか定住しない質なのですが、まさか今ベルリンにいたとは知りませんでした。知っていたら聴きに行きたかったです。先週末と昨日ベルリンにいました。ホルン絡み素晴らしい演奏会を二件聴くことが出来ました。行く度に思いますが、ベルリンとは本当に刺激的な街ですね。街の雰囲気も、同じドイツとは言え、ハンブルクと偉く様子が違うので本当に面白いです。

  2. berlinHbf
    berlinHbf at · Reply

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    Ausdrucksvollさん
    久々のコメント、ありがとうございます。
    残念ながら、僕は前半を聞けなかったのですが、Ausdrucksvollさんのお知り合いの音楽家とのことで、ちょっとうれしい気分です。やはり音楽の世界はどこかでつながっていますよね。

    細川さんのホルン協奏曲を聞かれたのですね。昨年10月ぐらいだったか、たまたまフィルハーモニーにいたら、何かのリハの休憩中に細川さんとソリスト氏が舞台のど真ん中で稽古をされていた姿に出くわしました。どういう曲が完成したのかとても気になります。近々デジタルコンサートホールのアーカイブでチェックしてみようと思います。

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