昨日の日曜日は早稲田大学交響楽団のフィルハーモニーでの本番だった。それは期待以上にすばらしいものだった。普段ベルリンという「音楽の都」で足繁くコンサートに通っても、めったに味わうことのない種類の感動だったし、音楽とはどうあるべきなのか、そんなことまで考えさせられてしまった。
ベルリンにはベルリン・フィルを始めとしてすばらしいオーケストラがいくつもあるが、一期一会と言えるようなコンサートに出会うことは年に数回あるかないかだ。こういう言い方はちょっと失礼かもしれないが、プロのオケは大抵の本番において、80~85%ぐらいの力で演奏しているような印象を私は受ける。プロはまず本番の数が違うし、次から次へと新しいレパートリーをこなさなければならない。1つのプログラムだけで2回も3回も本番があることも多いので、力をセーブしなければならないのはある意味当然のことといえる。だがそれが時としてマンネリにつながってしまうこともあるのかもしれない。上出来とは言い難い現代曲を演奏している時の奏者の顔は楽しそうではないし、指揮者との愛称が悪いとぎくしゃくしたまま本番が終わってしまうこともある(もちろん、プロとしてオケで演奏できるなんて本当にうらやましいことだと思うが)。
昨日のワセオケ(このオーケストラの愛称)のコンサートはその意味で対極的だったのかもしれない。メンバーのほとんどは音楽を専門にしない早稲田大学の「普通の」学生。彼らはこのヨーロッパツアーで演奏する曲にほぼ絞って、1年間(ひょっとしたらそれ以上?)の厳しい練習を積んできた。このフィルハーモニーを始め、今回のツアーの公演地であるムジーク・フェライン・ザール(ウィーン)やゼンパー・オーパー(ドレスデン)といった輝かしい舞台で演奏できるのも、ほとんどのメンバーにとって最初で最後だろう。音楽の伝統が宿るそのような場で、十分に練り上げてきたレパートリーを聴衆の前で披露できる喜び。そして彼らには若さがある!
それがどういった形になって聴衆の耳と心に届くのか、久々に思い知らされることになった。一曲目の「ドン・ファン」の出だしから心を掴まれた。不覚にも、音楽を聴いて久々に涙が出てきた。コンサートの詳細は省くが、アンコール最後の「ベルリンの風」の後、フィルハーモニーでも珍しいスタンディング・オーベーションが起こったことが、この日のお客さんの素直な気持ちの反映だろう。こんなに褒めまくりだと自分でもちょっと恥ずかしくなってくるが^^;)、一緒に聴いたドイツ人の知り合いの方や音大生の友達たちも社交辞令でない賛辞をおくってくれたし、何より心から楽しんでくれたようだ。終演後、興奮気味に楽屋を訪ねてみたら、もうみんな普通の学生に戻っていた。それにしても、ベルリンの町を案内したあのフルート吹きの子たちが、あんなすごいことをやってのけるなんて・・
ところで、この公演にはかのヴァイツゼッカー元大統領が聴きに来ておられた(昨年早稲田大学はこの元連邦大統領に名誉博士号を贈ったとのこと)。戦後ドイツの偉大な政治家の一人であるヴァイツゼッカー氏も、この4月で86歳になるという。足取りは少々おぼつかなくなっていたが、あの鋭い眼光は健在だった。
オケのメンバーはこの日の午後、ドレスデンに向けて旅立って行った。ちなみにこの後の予定は、7日ドレスデン、8日ライプチヒ、10日アーヘン、12日パリとのことで、現地にお住まいの方はよかったら聴きにいらしてはいかがでしょう(詳細はこちら)。
久々に心ときめく音楽を聴かせてくれたワセオケのメンバーに心から感謝し、ツアー後半の成功を祈りたい。
Waseda Symphony Orchestra Tokyo
Masahiko Tanaka DIRIGENT
Nana Murata ORGEL
Taiko-Trommler
Richard Strauss Don Juan op. 20
Camille Saint-Saëns
Symphonie Nr. 3 c-Moll op. 78 »Orgel-Symphonie«
Richard Strauss Tanz der sieben Schleier aus Salome op. 54
Maki Ishii »Mono Prism« für japanische Trommeln und Orchester
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おぉー、ベルリン公演、良かったみたいですね。
これはパリも期待大か!?(^^;
ちなみにパリも指揮は田中先生だそうですw
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(素人耳ですが)2月のオペラシティも、よく吹き込んでいる感じが
して、ツアーへの意気込みを感じましたが、ベルリン公演でも
目に見えないパワーさえもが聴衆の心に訴えたようですね。
今日はゼンパーオーパーでサロメ。。。何度見ても溜息の
出る講演スケジュールです。引き続き良い演奏旅行となります
ように。それと、la_vera_storiaさんのお話、私も拝見させて
頂きました。私のワセオケ生活は短かったのですが、それでも
心が熱くなるものがありました。このお話を知ることができて
とても良かったと思います。
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良かった! 無事にベルリン公演が終了したようで、ひとまず安心しました。
写真も当家二人とも食い入るように見つめてしまいました。
マサトさんは現役さんと現地で会われたのですね。
なんて頼りになるOBなんでしょう!
実は私も現役さんたちにガイドブックや会話集を貸しているのです。
役に立ってるといいな……
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>十三さん
パリ公演もきっといいと思いますよ。ベルリン公演では春祭が聴けなかったのがちょっと残念でした。そのまま一緒にバスに乗ってドレスデンまで行きたかったくらいです(笑)。
>gonta-mausさん
今日のドレスデンでの公演がどうだったか、ちょっと気になっています。まあ、すごいですよね。初演の地でサロメを演奏するなんて・・
>K.D.C.さん
お久しぶり~。コメントありがとう!最後の「ベルリンの風」、私が過去のツアーで聴いたどの演奏よりも口笛の数がすごくてびっくりしてしまいました。K.D.C.さんにもその様子を見せたかった!オルガンのMさんもすばらしかったですよ。
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中央駅さんの記事に煽られて、ライプツィヒ公演を聴いてきました。春の祭典をこともなげに弾いてのける陰には、恐るべき猛練習があったに違いありません。感想ともつかぬものを、自分のHPではない某所に記しました。見つけたら読んでやってください。
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>焼きそうせいじさん
私が煽ってしまいましたか!?わざわざライプチヒまで聴きに行ってくださったとは(笑)、びっくりしました!ありがとうございます。某所でのご感想、大変興味深い内容だったので、また後ほど書き込ませていただきます。春の祭典は、最後に初演の行われたパリのシャンゼリゼ劇場でやるんだそうですよ。
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初めまして。シャンゼリゼ公演も後二日と迫っています。
なんかテレビ中継の特派員のようになっていますが。
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パリからのコメントありがとうございます!パリ公演は日曜日の17時からなのですね。ツアーの最後を飾るにふさわしい演奏になることを願っています。またご感想などお聞かせいただけるとうれしいです。
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ワセオケは来年も欧州ツアーがあるようですね! ベルリン公演もあるようです。なかなか意欲的ですね。カラヤンの生誕100年記念演奏会(今月20日)だけでなく、カラヤンとワセオケをテーマにした企画展示も18日から始まるそうです。名前でリンクさせたページの写真、本当に懐かしいです。 そうです、そうです....これが79年のカラヤンの名誉博士称号授与式でのカラヤンの姿ですよ! あれからもう30年にもなりますか....。 記念演奏会の切符の予約は終了しているみたいですから、この企画展示展だけはちょっと見に行ってこようかと思っています。
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la_vera_storiaさん
情報ありがとうございます!
このオケにかつて在籍していた身としては、79年のこの写真は何度見、また見せられたかわかりませんが(笑)、その時カラヤンの棒で実際に演奏した先輩の話は、飲みの席ながら興奮して聞いたのを覚えています。 来年のツアーのベルリン公演は、また聴くことになるでしょう。その時はご報告しますね。
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大隈講堂でのカラヤンコンサートのチケット、一枚あります。良かったらla_vera_storiaさんに差し上げたく思います。
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junkoさん
その切符をお持ちなら、貴重な機会かもしれませんので是非お聴きになってみて下さい。後日、感想などお書きいただければ幸いです。マサトさんも後輩の活躍の様子をお知りになりたいでしょうから。
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la_vera_storia様
チケットは2枚あります。もちろん1枚は私の分です。ご都合が悪かったら別ですが。来年、ツアーに参加する子の親です。どうぞご遠慮なく。
la_vera_storiaさんのような造詣の深い方にぜひ聴いていただきたく思います。
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la_vera_storiaさん
私の母が突然コメント欄に登場し、失礼しました・・・。
今回はお忙しいでしょうが、また機会がありましたら、ワセオケの演奏を聴いてくださるとうれしく思います。