天使の降りた場所(7) – マリオンのサーカス小屋 –

Theodor-Wolff-Parkにて（7月16日）
ベルリン･ミッテにあるフリードリヒ・シュトラーセ（フリードリヒ通り）というと、一般的にはどういうイメージが強いだろうか。一時代前なら東西の検問所があった通りとして、今なら目新しいオフィスビルやブティックなどが並ぶ中心部の華やかな通りというイメージかもしれない。観光ガイドにもそのように紹介されている。
オフィス街としてのフリードリヒ･シュトラーセは、フリードリヒ･シュトラーセの駅からチェックポイント・チャーリーのあるコッホ・シュトラーセとの交差点で終わる。フリードリヒ･シュトラーセはさらに、前回お話したメーリンク広場まで続いているのだが、そこから先は大分雰囲気が変わってくる。
まず観光客の数がめっきり減り、通りを歩くのは外国人住民の割合が高いのに気付く。緑豊かな公園が通りに面していたり、一歩横道に入ると空き地が残っていたりと、急にのどかな感じになってくるのだ。建物の90%以上は戦後に建てられたあまり美しいとはいえないもので、そこから10分ほど南に歩いたところにある、私が住むシャミッソー広場界隈とは全く町並みが違う。これは何を意味しているのだろうか。
1945年のこの地図を見ると、メーリンク広場以北とそれより南とでは、戦争の爆撃で被った被害の度合いが天と地といっていいほど違うのが一目瞭然でわかる。とりわけ、メーリンク広場以北のフリードリヒ･シュトラーセ周辺の惨状は目に余るほどで、建物の90%以上が倒壊。ほぼゼロから街を作り直さなければならないという状態だった。
しかし、戦後16年経つと今度はこの地域のすぐ北側に壁が作られた。近くに忌まわしい壁があっては、周辺の再開発はなかなか進まない。そして、こういう場所に好んで住みたがるドイツ人はそういない。よって、クロイツベルクの他の界隈と同じく、この過去の傷跡の深い地域にはトルコ人をはじめとしたガストアルバイターの人々が多く住みつくようになるのだった。
今回ご紹介するのは、天使ダミアンが空中ブランコ乗りのマリオンに出会うサーカス小屋の撮影に使われた場所だ。当時はただの空き地だったわけだが、「ベルリン･天使の詩」においてとりわけ生への意思を強く描いたサーカスのシーンが、こういう歴史背景を持つ壁のすぐ南の空き地で撮られたというのは（今となっては）強い必然性を感じる。
現在はTheodor-Wolff-Parkという名前のこの公園、図らずも私のブログで過去に一度、写真でご紹介したことがある。よかったらこちらをご覧いただきたいが、ロマン派の作家アーデルベルト・フォン・シャミッソーは19世紀前半、この公園のすぐ北側にあったアパートに住んでいた。
「ベルリン･天使の詩」の終盤のシーンから。アレカン・サーカス団は前夜の公演を最後に解散。小屋をたたみ他のメンバーが車に乗って帰って行く中、マリオンだけは残り、空き地の中央でたたずむ。
2006年9月11日、ほぼ同じ角度から撮ったものだが、20年前の名残はまだそれなりに残っている！この場所がただの住宅街にならず公園として残ったことに、個人的にはうれしく思う。
上の写真ではわかりにくいが、右手の２つの建物に見られるカラフルなペインティングは20年前と変わっていない。
フランス人のマリオンが暮らす移動式住居。
20年後の夏、その前は子供たちの遊び場になっていた。21世紀のベルリンの天使？
この公園にいる約8割は外国人といってもいいほど。
もし機会があったら、コッホ･シュトラーセからフリードリヒ･シュトラーセをさらに南へ歩いて、この公園の横を通ってみてはどうだろう。メーリンク広場のすぐ北側でもあり、ユダヤ博物館からも歩いて5分ほどの場所だ。オフィス街のフリードリヒ･シュトラーセとはまた違った街の顔が見えてくるかもしれない。

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