シュプレー川に浮かぶSchillingbrückeより。Oberbaumbrücke方面を望む(9月22日)
先週は日本からお客さんが一人ベルリンに見えていて、2日間だけだったが楽しい時を過ごさせてもらった。今日はそのことを書いてみたい。
Aさん(と仮にさせていただく)は日本の某都市の文化事業団に勤務しており、仕事内容は主にクラシック音楽のコンサートの企画・運営という、私から見ればうらやましい職業の方だ。昨年末にオペラの公演でたまたま知り合い、お会いするのは今回がまだ2回目だった。私より若干若いのに、とにかくあらゆる芸術ジャンルにアンテナを張っているという方で刺激を受けっぱなしだった。
Foto: Thomas Aurin
まず21日の夜に、フォルクス・ビューネ(Volksbühne)でフランク・カストロフ演出によるワーグナーの「マイスタージンガー」のプレミエを一緒に観る。楽劇「ニュルンベルクのマイスタージンガー」と、1920年にニュルンベルク(!)で初演されたエルンスト・トラーの革命ドラマを組み合わせた異色作品。
終演後の熱気に包まれる中、プレミエのパーティーに参加することになった。Aさんは働きながらNOVAでドイツ語を勉強しているという。「なかなかレッスンに行けなくてね」とこぼすAさんの話し方は確かに少々たどたどしいのだが、そんなことは気にせずとにかく積極的にしゃべる。これは日本人が普通苦手とするところだ。「普通の聴衆の感想が聞いてみたいですね」「今度は楽器を演奏した人を見つけて話を聞いてみましょうか」「じゃあ今度はカストロフのところに行ってみましょう」「(私)え~!」と、とうとう演出家のカストロフと直々に歓談することとなった。刺激的な作品を次々と世に送り出すカストロフ氏はとても紳士的な印象の方で(その日の客の反応がよくて上機嫌だったということもあるかもしれないが)、Aさんが感想を伝えるととても喜んでいた。実はワーグナーはあまり好きではないとのことだったが(笑)。すぐそばには、ベルリン市の文化大臣Thomas FlierlがビールのBecksを片手に談笑していたし、なかなか面白い場所だった。演劇なりオペラなりを観て、演出家本人と直接話す機会が持てるというのはやはりすばらしいことだ。
翌22日は夕方、先日オープンしたばかりのRadialsystemを訪問(詳しくはこちらを)。ここで行われる夜の公演は他の公演とだぶって見ることができないので、せめてどういうところなのか見ておきたいというAさんの希望からだった。しかし、ロビーで「中を少し見せてほしいのですが」と聞いてみたところ、「前もっての申し込みがない場合は受け付けられません」というドイツ人の典型的なつっけんどんな返事が返ってくる。一度は諦めかけたものの、ドアが開いていたのでそこから勝手に入って中を少し見ることができた。レンガ造りの昔の工場を改造した点といい、川沿いの風景といい、横浜のBankART1929に似ているとAさんはおっしゃっていた。夕暮れ時、運河に面したテラスで飲むビールはうまかった。早くここでパフォーマンスを観てみたいものだ。
その後Aさんはベルリナー・アンサンブルでイプセンの「ペールギュント」を観に行き、私は一旦家に帰ったが、夜の0時近くにシュターツ・オーパー(Staatsoper)で再び落ち合う。こんな時間にオペラ?まさか。
この夜、シュターツ・オーパーのアポロザールというホールはクラブハウスと化し、若者で溢れていた。伝統あるこのオペラ劇場が時々こういう試みをするようになったということは話に聞いていたけれど、それがまさにこの日の夜だったので、一体何をやっているのか覘きに行ったというわけだ。ホールはとにかくすごい数の人で、なかなか前に進めない。ビールを買うのにも一苦労。Aさんは「狭いホールだし、別にここでやらなくてもいいのに」と言っていたが、オペラ座のホールなので雰囲気は確かにある。私は「ベルリン・天使の詩」でニック・ケイブが歌うコンサートのシーンを思い出した。2時ぐらいだったろうか、途中から登場したKOOPというスウェーデンのグループの演奏では大いに盛り上がって、私も十分楽しんだ。ヴォーカルは日系2世のユキミ・ナガノ。日本でもよく知られたグループみたいですね。
それにしても純正のオペラファンがこの光景を見たら眉をひそめるかもしれない(笑)。Aさんは「客の年齢層が意外と幅広いですね」「一体どこが主催しているんだろう」「入場に15ユーロ取って1000人入ったとしても、設営にかなりお金がかかっていそうだから収益は少ないと思う」など、アートマネージャーならではの視点からいろいろと語る。Aさんからは他にもコンサートにおける日独の文化論など、興味深い話を聞かせていただいた。
Aさんはブログで日々の鑑賞記も綴っているのだが、普通に働きながら毎月すごい数の舞台を観ていることにとにかく驚いた。私はそれに刺激を受け、メモ程度でもいいから日々観たり聴いたりしたものをこれからは小まめにブログに書いてみようと思う。続くかどうかはわからないけれど。