数年前にベートーヴェンの後期弦楽四重奏曲のCDを聴いて以来、一度ライブで体験したいと思っていたハンガリーのタカーチ弦楽四重奏団を聴く機会がついにやって来ました。プログラムが決まった半年前から楽しみにしていたコンサートです(20日。コンツェルトハウス小ホール)。
冒頭のモーツァルトはいい意味で予想を裏切られた感じでした。CDで聴いたときはどちらかというと「シャープで洗練された響きのグループ」という印象だったのですが、聴こえてきたのは実に濃厚でロマンチックなモーツァルト。音の最後までしっかりビブラートをかけ、彼らが1つ1つの音をとても大切にしていることがすぐにわかります。モーツァルトにしては珍しい短調で書かれた作品ということもあったのかもしれませんが、むせぶような切々と迫ってくる演奏でした。
次のヤナーチェクのカルテット第2番「ないしょの手紙」は、第1番の「クロイツェル・ソナタ」と並んで、私を魅了してやまない音楽の1つ。チェコの作曲家ヤナーチェクがこの曲を書いたのは、1928年の1月から2月にかけてで、当時73歳だった彼が想いを寄せていた37歳の人妻カミラとのいわば「不倫愛」から生まれた音楽です。ヤナーチェクはその半年後の8月に突然の死を迎えることになるので、人生の最晩年の作品ということになりますが、実に不思議な音楽なのです。まず、全体にみなぎる異常なまでの「熱さ」は、一体どこから来るのか。テンポは目まぐるしく変わり、幻想の中をさまよっているような静かなふしがあるかと思えば、突然爆発的な感情のほとばしりが襲います。ヤナーチェクが最初に考えていた曲のタイトルが「ラブレター」だったことを思うと、この強烈な音楽の背景にあるものもそれなりに理解できるのですが、人生の終焉が近付いている人の書く作品とはとても思えません。形式はあるようでないようでありながら、4つの楽章を聴き終えた頃にはがっちりと1つの枠の中に納まった印象を受けるのも不思議。CDで聴いても面白い音楽ですが、ライブで聴くと4つの楽器のやり取りが見た目にも一段と刺激的で、しかもそれがタカーチのものすごい技術と集中力の中で交わされるものだから、まさに息つく暇がありません。
休憩の後にドヴォルザークの「アメリカ」。耽美的なまでのモーツァルトとちょっとエキセントリックなヤナーチェクを聴いた後だと、ドヴォルザークの音楽というのはいい意味で中庸というか、それでいて豊かな歌とリズムにも事欠かず、前半よりもリラックスして楽しむことができました。この人の音楽も大好きだなあ・・・。
アンコールはショスタコーヴィッチが25歳のときに書いたという「ポルカ」。ユーモアと諧謔味にあふれた小品で、メンバーもここぞとばかりそういう面を強調するものだから、お客さんからも笑いがもれます。小さなホールでタカーチ四重奏団の響きに浸れる、まことにぜいたくな時間でした。
今日(土曜日)はフィルハーモニーの室内楽ホールで、タカーチと並んで現代屈指のカルテット、ハーゲン四重奏団が(偶然なのか?)ヤナーチェクとモーツァルトの全く同じ曲を演奏します。個人的にはタカーチとの聴き比べも楽しみで、興味のある方には強力におすすめしたいと思います。
DI 20.11.07 | 20:00 Uhr | Kleiner Saal
Takács Quartet
Wolfgang Amadeus Mozart Streichquartett d-Moll KV 421
Leos Janácek Streichquartett Nr. 2 (“Intime Briefe”)
Antonín Dvorák Streichquartett Nr. 12 F-Dur op. 96 (“Amerikanisches”)
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まさとさんの音楽に向ける眼差しは、ステキですね。
なんだか、無邪気な子供のような、情熱的な大人(大人ですけど。。)のような。
純粋に楽しめた様子がうかがえますね。
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>Tilさん
いつも新鮮な気持ちで音楽を聴くというのは、なかなか難しいものです。受けた感動を言葉にして人に読んでもらうのは、もっと難しいかも・・・
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音楽を聴いて笑いがもれる。。。なんだか高度な感じ~!
でも、そんなふうに音楽をつかめたら面白そう!
ヤナーチェクとショスタコーヴィチ、聴いてみたくなりました♪
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>shioさん
>なんだか高度な感じ~!
そんなことありません。shioさんもあの場にいたら、つい笑ってしまうと思いますよ。どちらもおすすめの曲です。
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行けなくて本当に残念です!
また良いコンサートがあれば教えて下さいね。
今、本当に忙しくてゆったりと音楽を楽しめる状況でないのが悔やまれます。
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>zaichikさん
先日は残念でしたね。
なんだかとてもお忙しいようですが、またロシアものとかのいいコンサートがあったら行きましょう。