The Westin Grand(8月31日)
秋に日本に一時帰国した際、このブログで以前数回に分けてご紹介した山根寿代さんに再会する機会がありました。変わらずお元気そうだったことにまず安心し、今回もまたいろいろと興味深い話を伺いました。世界中を旅行されている山根さんですが、その中でもとりわけ私にとって印象深かった、1989年10月に団体ツアーで東ベルリンを訪れた時の話をご紹介したいと思います。夏にいただいた手紙の中から大部分を引用し、実際に聞いた内容も加えて構成しました。
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最後の訪問地ベルリンへ行く朝、確かライプチヒだったと思いますが、泊まっていた駅前のホテルの窓を開けて外を眺めましたら、朝早いにも関わらず沢山の若者が集まって居りました。後で知ったところによると、東ドイツの建国40周年記念が行われるベルリンでのパレードに参加する為でした。私達はバスで東ベルリンの町へ入りましたが、余りの人でバスが動かず途中下車となり、グランドホテル迄荷物を持って歩きました。ホテルの前も人で溢れ、今も目に浮かびます。
夜も松明行列で壮観でした。今思えば東ドイツ最後の年だった訳です。私達は15人のツアー。ホテルでは、我々を見たピアニストが突然『上を向いて歩こう』を弾きはじめ、歓迎してくれました。その後、駅名は忘れましたが、二駅ほど電車に乗ってパレードの見える広場へ行き、殆どがソ連の戦車や大砲の行列を眺めました。
背伸びしないと見えない程の人垣でしたが、そこに何の為かコンクリートの四角い塊があり、その上に若い親子が乗っていて、狭いところなのに私にも乗れと引っ張り上げてくれました。その時私が“Can you speak English?“とききましたら、“No“とのことでしたが、すぐ彼が“I am Berlin“と云ったので私も“I am Tokyo“と答え、この単純な面白い会話を今も覚えて居ります。(その短いフレーズだけで)東ベルリンに住むドイツ人とわかったのですから、何でも声を出してみるものですね。私のことも日本人と思ったことでしょう。因みに世界中とは少々大袈裟ですが、殆どの国の人が“Tokyo“は知って居りました。
翌日帰国するという前夜、隣が劇場でしたので、お芝居を観に行きました。ところが出演者が風邪をひいたので病気で中止と言われました。日本語が流暢な現地のロシア人ガイドさんが、それでは劇場内が美しいから見学しようという事になりましたが、それも断られました。翌日帰国だし、鞄の整理の事もあるからと諦めて部屋に戻ったのでした。
帰りの飛行機の中で知ったのですが、その時劇場内では集会が開かれて居り、出演者云々の事は口実だったそうです。恐らく壁の崩壊の1ヶ月前ですから、各地で集まっていたことでしょう。ホテルに戻ります時、警官が多いなとは思いましたが、帰国後きっかり1ヶ月目のあの壁のTVを観ました時は、涙で霞む程の感動でございました。誰も怪我をすることなく、ベルリンが一つになったのですから。あの夜は本当に静かなクーデターのようでした。チャーリーポイントを通った時のことも忘れられないことでございます。
(注)
山根さんが宿泊された「グランドホテル」は、その2年前フリードリヒ通りにオープンした当時東ベルリンの高級ホテル(現The Westin Grand。上の写真)。「2駅ほど電車に乗って行った」のは、アレクサンダー広場。「ホテルの隣の劇場」とは、コーミッシェ・オーパーに間違いない。
山根寿代さんについては、この夏に書いた以下の記事もぜひご覧ください。
– ベルリンで出会った一枚の写真 – (2008.08)
– 祖父山根正次 –
– 森鴎外からの手紙 –
– ベルリンの恩師との再会 –
– 仕事、旅、そして人生 –
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この東ドイツ最後の国際ホテル・グランドは鹿島建設が作って、ちょうど同じ時期に北京ダックの店もオープンしたのですが、東ドイツ政府は何を考えて、財政逼迫の折りにこんな贅沢なホテルを建てたのでしょうか。
壁崩壊後には007シリーズでしたか、スパイ活劇映画の舞台にもなりました。
外貨ショップの中に、外国人が東ドイツ・マルクでも買える工芸品があって、帰国直前に仕方なく机に溜まっていた東ドイツマルクを全部はたいて、ワイン・カットグラスや手袋等高価な土産品を買い込みました。
もちろんチェックポイント・チャーリーを通過する時に示す正規の購入証明書を付けさせましたが。
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やはり人の体験談というのは迫力、というか「想像させ力」とでもいうか、
とにかく強烈ですね。しかし山根さんとの出会い、やこの話を
まさとさんが聞いたことまで、偶然ってすごいもんですね。
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前回の山根さんのお話も感慨深く読ませていただきましたが、まだまだいろいろなお話しがあるのですね。 是非またmasatoさんがお聞きになった内容を読ませてください。
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>第三市民さん
さすが、この時代のベルリンにお詳しいですね。貴重な声をありがとうございます。私の友達の中に当時グランド・ホテルでウェイターとして働いていた人がいますが、彼の話も実に面白く、いずれ何らかの形で紹介したいと思っています。
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>Kenさん
「想像させ力」、なるほど確かに。
特に私は山根さんの話に出てくる場所を全て知っているので、情景がさらに目の前に浮かんでくるようでした。
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>galahadさん
ありがとうございます。山根さんとは、今後も手紙のやり取りなどさせていただくかもしれません。機械があったら内容はまたご紹介します。