「ベルリンで、じっくり味わう」をキャッチコピーにした、ベルリンを舞台にした新作映画が間もなく東京で公開されます。
ヤン・オーレ・ゲルスター監督の『コーヒーをめぐる冒険』(原題は”oh boy”)。同監督の長編デビュー作品にも関わらず、本国ドイツを始め、すでに数々の賞を受賞したことでも話題になりました。
主人公のニコ(トム・シリング)は2年前に父親に内緒で大学を辞め、どっちつかずの日々を送っている20代後半の青年。そんな中、アパートの隣人、俳優業を営む友人、かつての同級生ユリカとの再会、そしてナチス時代を生き抜いた老人等々、様々な人々と出会う波乱の1日を通して、ニコが何かを見つけて行くという作品です。
ミッテやプレンツラウアー・ベルクを舞台にしたモノクロの映像とジャズの軽快な音楽が非常に心地よく溶け合っており、コメディーでありながらも、メランコリックな雰囲気やドイツの負の歴史をさりげなく盛り込むなど、奥行きのある作品に仕上がっています。また、「コーヒー」が映画の重要なモチーフに使われており、ラストシーンでの後味はとても印象深いものでした。
昨年夏、私は近所の映画館でこの作品を初めて観て、ベルリンを舞台にした映画に一つお気に入りが加わったことを喜びました。その後、ご縁があって、この映画のプログラムにエッセイを寄稿させていただくことになり、そのときは飛び上がりたくなるほど嬉しかったです。が、いざ書いて提出すると、「もっと中村さんの主観を出して書いてくださって結構です」とのお返事。この映画の世界(例えば、登場人物のぶっきらぼうな話し方だったり、アパートの隣人との関係性だったり、歴史が突然向こうからやってくる感覚だったり…)はベルリンに短期間でも住んだことのある人には多分すっと入っていけるのですが、そうでない日本の大部分のお客さんにはちょっとわかりにくい要素があるのも確か。ならば、自分が13年間住んできたベルリンの生活実感を絡めながら、観る人がこの映画の背景や街の魅力を知るのに少しでもお役立てできるようなエッセイを書けないかと考え、一から書き直しました。結果的に、こちらの方を掲載していただけたのは自分としてもよかったと思っています。その他、「ベルリンをよく知るためのキーワード集」と「ニコと歩くベルリンマップ」も執筆させていただきました。映画と合せて、ご一読いただけると幸いです。
こうして書いているうちに、久々の映画のサントラを聴きたくなって、棚から取り出してCDをかけています。ゲルスター監督のインタビューによると、国際映画祭への出品が決まる1ヶ月前になっても、まだ確信を持てる音楽が決まっていなかったそう。ちょうどその時、4人のジャズを勉強している学生に出会い、「彼らにマイルス・ディヴィスが『死刑台のエレベーター』のオリジナル・スコアを3日で書いたというエピソードを語ってプレッシャーを与え」、一気に曲を完成させたのだとか!しかしこれが、見事に功を奏したと思います。ちなみに、私が持っているサントラ盤では、最後にトム・シリングが自作の(?)歌を披露していて、これもなかなか味わいがあります。
3月1日より渋谷シアター・イメージフォーラムにて公開。詳細はwww.cetera.co.jp/coffeeをご参照ください。
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こんばんは。
映画、ぜひ観てみたくなりました!真人君の記事がたくさん載っているプログラムもぜひ手に入れたくなりました!あ、ちょうどオラフが日本にいるときです…渋谷で観てきてもらうことにしましょう!
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この映画、公開を楽しみにしていました。パンフレットも今から楽しみです!サントラの裏話もありがとうございます。
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maikoさん
コメントありがとうございます。お2人にはぜひとも見ていただきたい映画です。ある友人が言っていましたが、ベルリンのあるある満載の映画なので、郷愁をそそられることになるかも。
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tsubuさん
毎回反応してくださり、ありがとうございます。tsubuさんだったら、こちらの映画も楽しんでいただけそうです。ベルリンの知っている風景がたくさん出てくると思いますよ。
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はじめまして!
本とブログのファンです。
わたしはたった半年ですが、ベルリンに住んだことがあります。
言葉もできない私ですが、それでも仰るとおりこの映画はベルリンあるある満載!短いながらも「住む」とちう経験で見て聞いて感じたいろんなことに、そして多分こんな感じ?と思ってたことに、やっぱりね!と字幕がついたようでした。
この映画は少しでもベルリンを知ってる者、ベルリン好きにとっては「けして良いとは言えないけど好き!」な、とても懐かしいベルリンの日々の感覚が戻る映画でした。今さら中村さんのこの記事を読んで、パンフレットを買わなかったことが悔やまれます。
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mioさん
はじめまして、コメントをありがとうございます。
『コーヒーをめぐる冒険』のご感想、うれしく拝読しました。この映画は特にベルリンに短期間でも住んだことのある方にとっては、五感のどこかが刺激される作品ですよね。「けして良いとは言えないけど好き!」の気持ちもなんだかわかります(笑)。私のエッセイ、いずれ何かの機会に読んでいただけると幸いです。