サッカースタジアムの芝生に所狭しと並んだ無数のソファ。人々はまるで自宅のリビングにいるようにくつろぎながら、スクリーンに映し出されるブラジルでの試合に見入る……。
ワールドカップ開幕後、ベルリンでのそんなユニークなサッカー観戦がテレビやインターネット上で話題になった。サッカーに特別興味がなくても、「何だか楽しそう!」と思った方は多いのではないだろうか。私もそんな1人。実際に体験してみたくなり、グループリーグ期間中の日曜日、東の郊外のケーペニックへ向かった。
Sバーンのシェーネヴァイデ駅からトラムに乗って約10分、Alte Förstereiという停留所に着いた。初めての場所だが、サポーターの後をついて行くと、「旧営林署員所脇のスタジアム」という名の、森に囲まれた競技場がすぐに見えてきた。
ここを本拠地とするブンデスリーガ2部のFCウニオン・ベルリンは、ユニークなサッカーチームだ。近年、旧東独時代からのくたびれたスタジアムを大改築した際、資金不足を補うために、サポーター自らが無償で工事に加わって完成させたのだという(もっとも、とてもそんな風には見えない立派なスタジアムなのだが)。今回の試みを主催したゲラルド・ポネスキー氏によると、サポーターと選手の結び付きが家族のように強いチームゆえ、そこから巨大リビングを作るという発想が生まれたそうだ。
入り口からいきなりフィールドの中に入ると、ビニールカバーで覆われたソファがたくさん置かれている。ここにある約750台のソファは、抽選で選ばれた人々が自宅から自分で運んで来たもので、大会期間中は同じ席で楽しめる。ゆえに、外部の私は通常の観客席で試合を観るしかないだろうと思っていたのだが、「本日はサポーターの皆様をソファにご招待します。空いているお好きな席にお座りください!」という、嬉しいアナウンスが場内に流れた。雨上がりでそれほど人が多くなかった上、ベルギー対ロシアというやや地味なカードの試合だったことも幸いしたようだ。
一緒に行った友人と、雨水がたまった重いビニールを外して、どなたかのソファに腰掛ける。当然のことながら、座り心地は最高。肌寒い日だったけれども、屋台で買ったビールと焼きソーセージを片手に、目の前の大きなスクリーンで試合の行方を追っていると、「これ以上、何を望もうか」という気分になってくる。
ふと、自分が足を置いている天然芝は、シーズン中はウニオンの選手が駆け巡っているピッチなのだと思い至る。試合中も、スクリーン真横のスペースでは、子どもたちが草サッカーを楽しんでいた。なかなか贅沢だ。珍しい機会なので、私は試合そっちのけでスタジアム内を歩き回り、ピッチの1段窪んだ位置にある選手や監督の席に座っては、彼らの緊張感までもちょっぴり味わった。
ドイツでワールドカップを観るようになって、いつの間にかもう4大会目。今回の私の関心は、ドイツが決勝まで進めるかどうかに絞られつつある。この記事が誌面に載る頃、三色旗のサポーターによる熱狂は、この「リビング」でも続いているだろうか。
(ドイツニュースダイジェスト 7月4日)
Information
ヴェー・エム ヴォーンツィマー
「ヴェー・エム」はドイツ語でワールドカップの略称。「ヴォーンツィマー」はリビングの意味。ワールドカップ・ブラジル大会の期間中(~7月13日)、「ドイツで最もクールなリビング」の触れ込みで、前例のないパブリックビューイングが実現した。下記サイトのTickets bestellenをクリックすると、予約のページに移る。入場無料だが、手数料として1枚につき2ユーロ掛かる。ソファのオーナーが現れなかった場合は、そこに座っても良いそう。
電話番号:030-6566 88106
URL:www.compact-team.de/wmwz/#24
シュタディオン・アン・デア・アルテン・フェルステライ
ブンデスリーガ2部FCウニオン・ベルリンの本拠地スタジアム。旧東独のチームゆえ、旧西独のヘルタ・ベルリンへの対抗意識が強く、ヘルタが2部に降格した際に実現した「ベルリン・ダービー」では異様な盛り上がりを見せた。公共交通での行き方は、SバーンのSchöneweideからトラム63か67、もしくはSバーンKarlshorstからトラム27に乗り、Alte Förstereiで下車すぐ。SバーンKöpenickからは徒歩15分程。
住所:An der Wuhlheide 263, 12555 Berlin
電話番号:030-6566 88165
URL:www.altefoersterei.berlin
さて、今晩はいよいよ準々決勝のドイツ対フランス戦。
勝利の女神はどちらに微笑むか・・・。