7月末、「マカビ」という聞き慣れない言葉がベルリンのメディアに頻繁に登場しました。正式には「欧州マカビ競技会」と呼ばれるユダヤ人のスポーツ大会が、ホロコースト以降ドイツで初めて開催されるということで、大きな話題を呼んだのです。
マカビとは、紀元前2世紀、ユダヤの独立運動を指導したユダス・マカベウスに因んだ世界規模のスポーツの祭典で、1932年に最初の大会がテルアビブで開催されました。1953年以降は4年に一度、イスラエルでマカビ競技会が、そして2年間の間隔を置いてやはり4年周期で欧州マカビ競技会が行われています。
今年、欧州マカビ競技会がドイツで初めて開催されたのは、第2次世界大戦の終結70周年、さらにドイツとイスラエルの国交樹立50周年など、いくつかの歴史の節目が重なったことによるもの。36カ国から約2000人ものユダヤ人アスリートが参加し、全19の種目にはサッカー、水泳、フェンシングといったオリンピックの定番競技から、ボーリング、チェス、スカッシュなども含まれていました。
象徴的だったのは、メイン会場が西の郊外のオリンピアパークだったことでしょう。ナチス政権下の1936年、ベルリンオリンピックはここで開催され、多くの競技においてユダヤ人選手は排除されました。7月28日にヴァルトビューネ野外劇場にて行われた開幕式にはガウク大統領も参加し、華やかなムードの中で大会は始まりましたが、同時に厳戒な警備体制も敷かれ、ユダヤ人を取り巻く世界情勢を反映した形となりました。例えば、開幕ゲームとなったサッカーのドイツ対メキシコ戦の前には、黙祷が捧げられました。今年1月の「シャルリー・エブド」事件の際、食料品店への襲撃で犠牲になったヨハン・コーエンさんは、パリ郊外の町サルセルでマカビのスポーツクラブに所属していたといいます。
シャルロッテンブルク区の体育館で行われた、バスケットボールのドイツ対アルゼンチン戦を見る機会がありました(全試合、入場無料)。マカビ競技会は年齢によって3つのカテゴリーに分けられ、私が見たのはジュニア部門。入り口での厳重なセキュリティーチェックもあり、やや身構えて中に入りましたが、試合が始まると10代の若者が目まぐるしいスピードでコートを動き回る展開に魅了され、私は純粋にスポーツの試合を楽しみました。
ユダヤ人の大会ゆえ、彼らの安息日である土曜日はすべての競技がお休みです。選手の宿泊先となったノイケルン区の大型ホテルには、安息日の礼拝に2322人もの人々が集まりました。この数はそれまでのギネスブックの記録2226人を上回る新記録となり、参加者は歓喜の声を上げたそうです。「スポーツという枠を超えた」(地元紙)スポーツの祭典は、戦後70年のベルリンの夏を彩りました。
(ドイツニュースダイジェスト 8月21日)