自分の書いたものが誌面に掲載されるのはいつも嬉しいものですが、今回は少し特別です。7月7日に発売になった岩波書店の『世界』8月号に「ダニエル・バレンボイム、『西東詩集』オーケストラの夢を語る」という記事を寄稿させていただきました。 ダニエル・バレンボイムという人の音楽のみならず、その「言葉」に興味を持つようになったのは、2013年に朝日新聞に掲載されたロングインタビューが1つのきっかけでした。その後、彼がこの20年近く取り組んでいるウェスト=イースタン・ディヴァン管弦楽団の音楽アカデミー「バレンボイム・サイード・アカデミー」がベルリンに作られることを知り、昨年12月にオープン。今年の3月にはアカデミーの建物内にピエール・ブーレーズ・ザールが開館し、このタイミングでまとまった記事を書きたいと思っていました。
とはいえ、バレンボイムのインタビューのアポを取るのは大変難しいこと。結果的にこちらが希望していた単独でのインタビューは実現しなかったものの、少数のジャーナリストを前にしたインタビューの場に招いてもらい、そこで様々なお話を聞くことができました。他の方々がヨーロッパ諸国の出身だったので、中東やパレスチナ問題に加えて、今のヨーロッパについても多くを語ってくれたのは良かったです。他にも、このオーケストラの夢、ベルリンに完成した新ホール、教育と文化の価値に至るまで、話題は多岐に及びました。
バレンボイムのお話で特に印象に残っているのは、中東の不和、特にパレスチナ問題を語る時に彼が見せた怒りとやるせない感情です。中東の問題というのは一般的に日本から見たらとても縁遠いテーマですし、かつては私もそうでした。ドイツに住んでいると、大分「近くに」感じられますが、それでもこのテーマを「自分の問題」としてこれだけの気迫をもって語る人の言葉に触れるのは初めての経験でした。このバレンボイムのインタビューに前後して、友人の紹介でベルリン在住のパレスチナのガザ出身の学生さんに知り合う機会があり、彼が詳細に語ってくれたガザの現状にも心が揺さぶられました。今回の記事では直接触れていませんが、この原稿をまとめる上で何かしらのエネルギーになったように感じています。
当初はもう少し短い記事になる予定だったのですが、編集長のご理解により、結果的に15ページの長い記事になりました。バレンボイムのインタビューに加えて、ブーレーズ・ザールの音響設計を手がけた豊田泰久さん、ベルリン・シュターツカペレのクラリネット奏者マティアス・グランダーさんの言葉も紹介しています。インタビューの翻訳には複数の言語に堪能な友人の助けも借りました。バレンボイムの言葉やディヴァンの取り組みは、音楽、政治、教育といった垣根を越えて、示唆に富む内容だと思っています。ご一読いただけると幸いです。
中村さま
また一つ大きな仕事を成し遂げられたという感じですね。おめでとうございます。今回はとくに関心があるテーマなので、「世界」をぜひとも購入したいと思います。
エドワード・サイード先生(サイードのことはどうしても「先生」と呼びたくなる)のパレスチナや中東問題に関する評論を生前ずっと愛読していまして、バレンボイムさんのこともしばしば言及されていました。バレンボイム・サイード・アカデミーも演奏を聴いてみたいし、ピエール・ブーレーズ・ザールにも訪れてみたいものです。
中村さんのブログを読むと、ドイツで行きたいところがどんどん増える。
ウニオン・ベルリンのスタジアムは小さいし、ほとんどが立ち見席なので、改修は喜ばしいニュースです。今のままでは、1部に昇格しても施設の設置基準を満たしていないのではないかと思います。
折井さん
熱いコメントをありがとうございました。
折井さんがエドワード・サイードを「先生」として慕っていらっしゃるとは、(中東問題に興味がある方だったら決して不思議なことでも何でもないのですが)私にとっては嬉しい驚きでした。今回の「世界」の記事をお読みいただけたら大変嬉しく思います。
今回バレンボイムの生の声を聴けたのはとても貴重な機会でしたが、この2人の友情から生まれたオーケストラやアカデミーのことを深く知るにつれ、サイードが早くに亡くなったのがつくづく惜しいことだと思います。秋に一時帰国することになったので、日本で出ているサイードの本をぜひ手に取ってみたいです。
ウニオン・ベルリンのスタジアムは想像以上に小さいのですね。来シーズンはかつてないほど年間チケットが売れているというニュースを最近耳にしました。中心部から離れているのはしょうがないとはいえ、外部の人ももう少し気軽に行けるようになるといいのですが。