音楽都市ベルリンでは、アマチュアのオーケストラ活動も盛んです。今回は私が数年前から所属しているFUユンゲ・オーケストラのことをご紹介したいと思います。
このアマチュア楽団は1994年にベルリン自由大学(FU)の学生によって設立されました。現在も政治、文学、自然科学など様々な分野で学ぶ学生のほか、年齢制限がないために、社会人を含めた幅広い世代の音楽愛好家で構成されているのが特徴です。約70人のメンバーは、学期中の毎週日曜の夜、指揮者アントワン・レープシュタインさんの指導のもと、練習に励んでいます。
この冬学期のメイン演目に選ばれたのは、ショスタコーヴィチ作曲の交響曲第7番「レニングラード」。第2次世界大戦中、ナチス・ドイツによるレニングラード包囲戦の最中に書かれた、上演時間が1時間を優に超える大作です。
今回印象的だったのは、2月1日にコンツェルトハウスで行われた本番の演奏会に、ベルリン在住の難民の人たちを招待したことでした。このアイデアを考えたのが、コントラバス弾きで本業は英語教師のマルクス・フィービヒさんです。
「私は一般的な英語の授業のほかに、難民の人たち向けの補習授業でもドイツ語を教えています。ある日、彼らの一人と電車に乗っていたら、私がたまたま楽器を持っていたので、音楽の話になりました。『そうだ、音楽会に招待したら彼らにとって何か新しい経験になるのではないか』と思ったんです」
オーケストラ側もマルクスさんのアイデアに賛同し、団員を通じて希望者を募ったところ、22人がコンサートに聴きに来てくれることになりました。
2月2日、ベルリン工科大学で行われているドイツ語の授業に顔を出すと、前夜のコンサートを聴いた一人と話をすることができました。シリア出身のラビアさん。2016年に難民としてベルリンに逃れ、現在大学入学に向けた準備をしている方です。
「もともとバッハやシューベルトなどのクラシック音楽が大好きです。ダマスカスにはオペラ座もプロのオーケストラもありますが、これだけの規模の曲を聴けるチャンスはありません。昨日はとても感動しました」
もともとシリアでエンジニアの仕事をしていたラビアさんが国を去ろうと決意したのは、「アサド軍の兵役に就いて、殺人に加担するのがどうしても受け入れられなかったから」。「ドイツでの生活は快適ですか」と尋ねると、それまで快活に話してくれた彼が、表情を曇らせて首を横に振りました。
「私の家族も友人もシリアにいます。戦争が終わったらすぐにでも帰って、国の再建のために力を尽くしたい」
ショスタコーヴィチは「レニングラード」交響曲で、暴力や抑圧体制が生み出す普遍的な悲劇を描こうとしたと言われています。ラビアさんとの出会いを通して、この音楽が突如「いま」のものとして鳴り響いたのでした。
FUユンゲ・オーケストラ:www.junges-orchester.de
(ドイツニュースダイジェスト 2月16日)