マリアンネン広場にて(3月14日)
前回お話した三角農園を後にしてから、私たちはそのすぐ南のマリアンネン広場に面したトーマス教会、そしてかつての病院で現在はアートセンターとして知られるようになった「ベターニエン」などを見て回った。
1988年夏(メヒティルトさんの写真より)
縦に長く伸びるマリアンネン広場を抜けると、やがて雑然としたクロイツベルクの街並みが見えて来た。そこからほど近いところ、住宅不法占拠時代に「われわれはここに留まる」と壁に書かれたアパートは今もそのままだ。この散策でいろいろな時代を駆け巡ってきたが、ようやく現在に近いところに帰って来た。
コトブス門の駅でメヒティルトさんと待ち合わせてから、かれこれ2時間半が経っていた。実際の時間以上に多くのものを見せてもらい、またよく歩いた気がした。体も冷えてきたので、オラーニエン広場の一軒のカフェに入る。「クーヘンカイザー」(直訳すると「ケーキの王様」ということになろうか)という名のこの店は、土曜日の午後ということもあってかなり賑わっていた。
クーヘンカイザーは古いカフェらしく、メニューにはこの店の歴史が載っていた。それによると創業は1866年。当時はカフェ、ケーキ、パン屋を兼ね、従業員は100人以上、同じ建物内のアパートに寝泊りしていたという。常連客の中には、有名なマーチ「ベルリンの風」で知られる作曲家のパウル・リンケがいた。この近所に住んでいたリンケは、よくここでスカートというカードゲームに興じていたのだそうだ。入り口にはクーヘンカイザーの在りし日の大きな写真が掲げられていたが、この時空散歩の後に眺めると何だか少し身近に感じられた。
とてもおいしいケーキとコーヒーをごちそうになり、幸せな気分になる。落ち着いたところで、メヒティルトさんがふとこんなことを言った。
「実は今日は、私の父の命日なのよ。父が亡くなったのは1989年の2月24日。(その9ヵ月後の)壁の崩壊を見届けることができなかったのは本当に残念だった。でも、こういう日に父のゆかりの場所を一緒に見て回れたのはよかったし、あなたは熱心にたくさんのことを知ろうとしてくれたわね」
メヒティルトさんと歩いて回ったベルリン・クロイツベルクは、歴史のドラマが幾重にも重なったひとつの世界だった。
全16回(インタビュー8回、時空散歩8回)に及んだ、生粋のベルリーナーのメヒティルトさんにまつわるお話はこれをもって終わりとなります。自分にとってもいい経験となりました。この場を借りて、私の取材に全面協力してくれたメヒティルトさんには心より感謝申し上げます。
(了)
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メヒティルトさんとクロイツベルクに行かれた日もそのような日だったんですね。
共時性とかカイロスとかとういう種類の時間ってあるんだろうなと改めて思いました。
気分的にはのび太の引き出しに入ってシューっと色んなと頃に移動した気分です。
おもしろかった!
そして、まさとさんがこういう体験をしたってことも時間の一部になるんでしょうね。
楽しみましたよ。ありがとうございます。
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>Kenさん
ご感想ありがとうございます。ようやく書き終えました。
>のび太の引き出しに入って
まさにタイムマシンですね。そういえば、昨年夏にベルリンをご案内した日本の大学生の方が、「ベルリンって、街の至るところにタイムマシンがある感じですね」と言っていたのを思い出しました。
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今日偶然このカフェの前を通り過ぎようとしたら
「ケーキの王様」というここで読んだフレーズがふと蘇り
ふらっと入ってしまいました。
ランチしなきゃいけない時間だったけどケーキ食べないでどうするとおもい
ついケーキ。美味しかったです!しかし私も暇人ですね。やばいやばい。
フライトお疲れ様でした~♪
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>にわやまさん
いつも熱心に読んでくださりうれしいです。過去ログへのコメントもまたお気軽にどうぞ!