5月半ばのある日、日本から訪れた知人と飲んでいて、ふとこんな話題が私の口を衝いて出た。「ベルリンにも日本人サッカー選手が来ればいいのにね」。
この数年間、香川真司選手(現マンチェスター・ユナイテッド)や長谷部誠選手(現1.FCニュルンベルク)がドイツに移籍したことで、ドルトムントやヴォルフスブルクといった地味な町に(と言っては失礼だけれど)どれだけの日本人ファンが訪れたことだろうか。対する我がヘルタ・ベルリン。町としてははるかに大きく、見どころの多い首都のサッカークラブであるにもかかわらず、リーグ全体ではどうも影が薄い。ここ数年は1部と2部の間を揺れ動き、今年50年を迎えるブンデスリーガの歴史の中で優勝経験も当然ない。2000年以降、日本人選手加入の噂は何度かあったが、噂以上にはならなかった。「いつかベルリンから日本への直行便が飛べばいいのにね」というフレーズ同様、実現の見込みがあまりない漠然とした希望として私は口にしただけだった。
そのわずか数日後、「細貝萌選手がレヴァークーゼンからヘルタ・ベルリンへ完全移籍」のニュースが伝えられた。びっくりした。そして嬉しかったが、この数年間、レギュラーに定着せずにドイツのチームを去った日本人選手は何人もいる。とにかく試合に出られるようにと、私は願った。
そのヘルタは開幕戦でいきなり爆発し、フランクフルトを相手に6-1と大勝。細貝はフル出場し、何とマン・オブ・ザ・マッチに輝いた! 私は居ても立ってもいられなくなり、第3節のホームゲーム、久々に本拠地のオリンピアシュタディオンに駆け込んだ。
正面の席につくと、鮮やかな緑の芝生とそれを縁取るブルーの陸上トラックが目の前に広がる。そして、隙間が全くない密度でスタジアムの東側に陣取るサポーターの大合唱。何度来ても心躍る、この巨大スタジアムの魅力だ。
この日の相手はハンブルガーSV。ブンデスリーガの歴史で、一度も2部に落ちたことがない古豪だ。細貝はボランチで先発出場。前半は両者とも攻め手を欠いたが、後半開始早々、ヘルタの若手DFニコ・シュルツが左サイドを駆け上がると、ワンツーで一気にシュートチャンスまで持って行った。この試合で初めてワクワクする攻撃だった。
その期待感が現実のものとなる。74分、再び左サイドでボールを持ったシュルツが、中央の位置から前線に絶妙の長いボールを蹴る。MFベン¬=ハティラがキープする間、勢いよくゴールに向かって走り込むシュルツへボールが渡った! 決めたのはコロンビア出身のFWラモスだったが、完全にシュルツがお膳立てしたゴールだった。これがヘルタ2勝目の決勝点となる。
精力的に動き回った細貝だったが、この日はどちらかと言えば攻撃と守備とをつなぐ職人的な仕事に終始した。が、大きなミスもなく、チームの信頼を勝ち得てきていることは、試合後にチームメイトと談笑する様子からも伺えた。
開幕3戦はチーム史上最高のスタートを切ったヘルタだったが、その後2連敗。さて、ここからどう踏ん張るか。来年の5月まで一喜一憂することになるだろうが、細貝選手の加入は、ベルリン生活に新たな楽しみをもたらしてくれた。
(ドイツニュースダイジェスト 10月4日)
Information
ベルリン・オリンピアシュタディオン
Olympiastadion Berlin
1936年のベルリン五輪に合わせて建設された石造りのスタジアム(収容は7万4200人)。試合やイベントが行われない日はスタジアムと周囲のオリンピックパークの見学が可能。これだけでも雰囲気は十分に味わえる。少し離れた所にある鐘の塔Glockenturmは、屋上からの眺望が素晴らしい(見学は7ユーロ。+3ユーロで日本語オーディオガイドも)。
オープン:月〜日9:00〜19:00(試合やイベントの開催日を除く。冬期は10:00〜16:00。詳細は下記URLを参照)
住所:Olympischer Platz, 14053 Berlin
電話番号:030-2500 2322
URL:www.olympiastadion-berlin.de
ヘルタ・ベルリン
Hertha BSC Berlin
ベルリンに本拠地を置くプロサッカークラブ。創設は1892年。2000年代はブンデスリーガ1部で安定した成績を残してきたが、その後2度の2部降格を経験。今季から再び1部でプレーしている。チームのマスコットは、ブラジル出身のゆるキャラ(?)ヘルティーニョ。ファンショップは市内に数カ所あり、以下はヨーロッパセンター前の店舗情報。
営業:月〜土10:00〜20:00
住所:Am Breitscheidplatz, 10789 Berlin
電話番号:01805-1892 00
URL:www.herthabsc.de