ベルリン関連のニュースで、少し前くらいから「スタートアップ」という言葉を頻繁に耳にするようになった。IT系ベンチャー起業の拠点として、欧州の中で今ベルリンが注目されているのだそうだ。
と、言葉を並べてみても、ピンとくる方は少ないかもしれない。1990年代、ベルリンの壁崩壊後の混沌とした雰囲気や極めて安価な家賃でアトリエを借りられるとの理由から、世界中のアーティストがこぞってベルリンにやって来た時期があった。それと同じようなことが今、IT分野でも起こっていると考えれば分かりやすいだろうか。当時に比べると家賃はかなり上がったものの、パリやロンドンに比べると生活費は依然として安い。ベルリンでは英語も比較的通じるし、プログラミングやデザインの技能があれば、ITベンチャー事業の立ち上げには元手があまり掛からない。ゆえに、EU諸国や米国の若者たちが夢を求めてベルリンに集まって来るというわけである。
そんな中、今注目されているのがコワーキングスペースだ。先日、ベルリンでもこの分野で最大級の「ベータハウス」を訪れた。場所は、近年再開発が進んだ地下鉄U8モーリッツ広場駅近く。一度は通り過ぎてしまったほど目立たない外観だが、中へ入ると空気は一変する。
地上階はカフェになっており、ゆったりとしたスペースの中でPCに向かって作業している人の姿が見られる。建物の1階から5階には、アトリエ、大小様々のオフィス、ワークショップが行われるイベントスペースなどが備わっている。照明のデザインが面白い。壁や机には木材が多用され、居心地は良さそうだ。もちろん全館Wi-Fi完備。1カ月の利用料は159ユーロで、別料金で郵便の受け取りサービスもある。プログラマーやデザイナー、建築家、ジャーナリストといった職種の人がちょっとしたオフィスを構えることを考えれば、魅力的な条件かもしれない。掲示板には、フリーランサーの名刺やスタートアップの人材募集といったチラシがそこかしこに貼られていた。コワーキングスペースは、仕事の情報交換やスカウティングの場としても機能しているというわけだ。
かつてベルリンの壁が建っていたベルナウアー通りの一角では、欧州におけるITの大規模なハブとなる建物「Factory」の建設が進んでいる。その工房は、米グーグル社が100万ユーロ(約1億4000万円)の投資をしたことでも話題になった。もっとも、プラス面の話題だけではない。家賃が急激に高騰している現在のベルリン。IT関係者の流入による物価上昇に伴い、活発な不動産投機が追い討ちを掛けて、今後家賃がさらに上がる可能性もある。そうなると、ITのハブは東欧方面に移っていくかもしれない。
ベルリンのITシーンの面白さに惹かれ、2012年にこの街に移住してきたフリーランス・イラストレーターの高田ゲンキさんは、「シリコンバレーに代表される北米のストイックな文化とベルリン特有の緩い空気が、今後どのように混ざり合っていくのか興味深い」と語る。2014年もベルリンのITシーンは流動的であり続けるだろう。多種多様な人と文化の融合に、今後も注目していきたい。
(ドイツニュースダイジェスト 2月7日)
Information
ベータハウス
Betahaus
2009年にオープンしたクロイツベルク地区のコワーキングスペース。興味のある方には、毎週火曜17:00と木曜の11:30に行われる無料の見学ツアー(英語)がお勧め。情報交換のための朝食会も定期的に開催。ベルリンのスタートアップの分布を示したマップ(http://berlinstartupmap.com)を参照すれば、この街における現在の活況を実感できる。
オープン: 月~金8:00~20:00
住所: Prinzessinnenstr. 19-20, 10969 Berlin
ザンクト・オーバーホルツ
St. Oberholz
地下鉄U8ローゼンターラー広場駅の目の前に位置し、ベルリンではWi-Fi無料カフェの先駆けとして知られる。天井の高い1階と2階では常にPCで作業する人で賑わっており、まさにコワーキングな雰囲気。2011年からは、その上階にあるオフィス、アパートメントを貸し出すサービスも行っている。
営業: 月~木8:00~24:00、金土8:00~翌3:00、日9:00~24:00
住所: Rosenthaler Str. 72a, 10119 Berlin
電話番号: 030-2408 5586