今、ベルリンでは中国の現代美術家アイ・ウェイウェイ(艾未未)の展覧会“EVIDENCE(証拠)”が開かれています。同氏の個展としては世界的に類を見ない規模である上、4月3日のオープニングからわずか2週間で訪問者数が6万人を超えるなど、話題性は十分。週末には長い行列ができると聞いていたので、平日の午後、会場のマルティン・グロピウス・バウに足を運んできました。
中へ入ると、いきなりインパクトのある展示が目に飛び込んできます。屋根付きの中庭に、6000脚もの木の椅子がぎっしりと敷き詰められています。これは、明の時代に実際に使われていたものだそうで、私はなんとなく中国という国の広大さを実感しました。
1957年北京に生まれたアイ・ウェイウェイは、中国政府へ批判の声を上げ続けていることで知られています。2008年の北京五輪では、「鳥の巣」と呼ばれる北京国家体育場の建設に携わりましたが、後に五輪の政治プロパガンダ性を批判し、開会式を欠席。彼は当局から繰り返し圧力を受けながらも、作品を生み出し続けています。
18の部屋、3000㎡におよぶ展示の規模は壮観。いくつかの作品には、彼の歩んできた道が生々しい形で刻印されていました。ある部屋の真ん中には、「81」という名の仮設住宅のようなインスタレーションが置かれていました。11年4月、アイ・ウェイウェイは北京空港で当局により拘束されますが、これは彼が81日間の刑務所生活を送った独房を再現したインスタレーションなのです。内部には監視カメラが仕組まれ、彼が1日24時間監視下にあったことが暗示されています。
別の部屋には、ねじ曲がった鉄骨を使ったオブジェがいくつも置かれていました。08年の四川大地震では5000人以上の児童が校舎の下敷きとなって死亡しました。中国政府が被害の全貌を明らかにしなかったことに対し、アイ・ウェイウェイは自身のブログを通して独自の調査を試みましたが、やはり当局からの激しい妨害を受けることになります。彼は作品を通して犠牲者を追悼し、建築構造のずさんさとその背景にあるものを告発しているわけです。
さらに進むと、島の地形を再現したような大理石のオブジェに出会いました。これは、日中間の争いの焦点になっている尖閣諸島をモチーフにした作品。島の周りは海域を模した線によって仕切られ、そこを越えて足を踏み入れると、係員から注意されてしまいます。
随所で中国の伝統的な素材を用いながらも、作品には中国の今日の姿が浮かび上がり、観る者は表現の自由という問題に直面するでしょう。同展のパンフレットの言葉を借りるなら、この展覧会は中国と西側世界の対話を呼び掛ける作家自身からの“Flaschenpost(海に流された瓶入りの手紙)”と呼べるのかもしれません。今も中国政府の監視下にあるアイ・ウェイウェイ本人が、ベルリンでのオープニングに姿を現わすことはありませんでした。
開催は7月7日まで。www.berlinerfestspiele.de
(ドイツニュースダイジェスト 5月16日)