9月14日、曇り空のブランデンブルク門前に行くと、大勢の人が集まっていた。「反ユダヤ人感情は我々を脅す」「我々の名を使って戦争をするな」「ロシアとの平和を!」などと書かれたプラカードを横目に見ながら中央へ行く。ちょうどベルリンのヴォーヴェライト市長の演説の最中だった。
7月に始まったイスラエルとイスラム原理主義組織ハマスの戦闘によって、パレスチナ人自治区のガザで大きな被害が出た。ドイツで反イスラエルのデモが活発化した際、一部から反ユダヤのスローガンが叫ばれたことから、ドイツ政府は事態の深刻さを受け止め、反ユダヤ主義に抗議する今回の集会(主催はユダヤ中央評議会)に、メルケル首相やガウク大統領、シュタインマイアー外相ら閣僚も参加したのである。この日の集会には、約6000人の市民が集まったという。
首相の演説も聞きたかったが、私はもう1つ訪れたい場所があったので、ここで退出した。この週末は文化財に指定された建物の多くがドイツ中で一般公開される、年に一度のオープンデー。向かった先はヴィルマースドルフ地区のモスクだった。自宅から近い場所に立派なモスクがあるのは知っていたが、それがドイツ最古のものだとは知らなかった。
Sバーンのホーエンツォレルンダム駅から10分程歩くと、閑静な住宅街に突然ミナレットとドームを備えたモスクが姿を現す。外壁が崩れている箇所も目立ち、保存状態は良好とは言いがたいが、インドのタージ・マハルをモデルにしただけあって壮観だ。
入り口で靴を脱ぎ、集会所の中に入る。天井の窓からの光が、赤と橙色の壁に柔らかく放射する。直線と曲線が織りなす幾何学的な模様が美しい。この日、案内役を務めていたパキスタン出身のアハメドさんによると、「ベルリン市内には約80のモスクがありますが、多くは住居の中に作られた簡素な形態で、モスクとして造られた施設は3カ所」とのこと。彼は訪れていた人々に向かって、「これからお祈りを始めますので、ぜひご覧になってください」と声を掛けると、滑らかな朗詠が高い天井に響き渡った。今も世界では宗教に起因した争いが繰り返され、また宗教の名を借りた殺りく行為が公然と行われているという現実を一瞬忘れさせるほど、穏やかで神妙な時間だった。
舞台は再びミッテに戻る。かつてゴシック様式の教会がそびえていたペトリ広場に、世界に類を見ない宗教的対話のプロジェクトが実現されようとしているのをつい最近知った。「ひとつの家」という名のこの施設には、キリスト教の教会、ユダヤ教のシナゴーグ、イスラム教のモスクが、まさに1つの屋根の下に同居し、それぞれの祈祷の場だけでなく、「第4の部屋」としてそれぞれの宗教の信者が交流する場も作られる予定だという。世界の現状を思うと半ば信じられないようなプロジェクトだが、宗教の寛容と破壊、その両方を経験したベルリンにおいて、新たな対話の第一歩が踏み出されようとしている。
(ドイツニュースダイジェスト 10月3日)
Information
ヴィルマースドルフのモスク
Wilmersdorfer Moschee
1928年に完成したドイツ最古のモスク。「ベルリンのモスク」「アフマディーヤ・モスク」とも呼ばれ、高さ32mのミナレット(塔)と26mのドームを持つ。第2次世界大戦で大部分が破壊されたが、戦後、連合国の支援や一般からの募金により再建された。毎年9月の文化財オープンデーや10月3日のモスクのオープンデーなどで一般公開される。
住所:Brienner Str. 7-8, 10713 Berlin
電話番号:030-8735703
URL:www.aaiil.org/german
ひとつの家
House of One
2006年、ミッテ地区のペトリ広場に中世以降の5つの教会の遺跡が発掘された。同地区のグレゴール・ホーベルク牧師は「この場所に新たに建てられるべきは、宗教間の対話と共存を重視した施設」と考え、彼の考えに賛同したユダヤ教とイスラム教のグループと共に、「ペトリ広場の祈りと学びの家」協会を設立。2015年に建設開始予定の施設の費用は、公的支援に頼らず、クラウドファンディング(インターネットなどで不特定多数の賛同者から資金を調達する)を通して集められる見込み。
URL:http://house-of-one.org
関連記事:
“The House of One” – Ein Gotteshaus, drei Religionen (Der Tagesspiegel, 2014-06-03)
ベルリンで宗教間対話の先進的なプロジェクトが始動(IPS Japan)