地下鉄U3のティールプラッツ駅から徒歩5分の距離にあるダーレム地区のイエス・キリスト教会は、数あるベルリンの教会の中でも独自の道を歩んできた場所です。1930年に完成したこの教会は、ナチス時代、反ナチ運動を担った組織「告白教会」の中心的存在となりました。戦後は、その優れた音響からクラシック音楽の録音会場として、フルトヴェングラーやカラヤン指揮のベルリン・フィルをはじめ、名だたる音楽家に愛されてきたことでも知られています。
11月6日、イタリアの名指揮者クラウディオ・アバド(1933-2014)のメモリアルコンサートがここで行われました。長年ベルリン・フィルの芸術監督を務めたアバドは、「あらゆる音楽は室内楽である」という考えをその音楽作りの根幹に置いていました。「編成がいくら大きくても、音楽家一人一人が室内楽を奏でるように互いに音を聴き合わなければならない」という精神です。今回の公演ではアバドと共に音楽を奏でてきたソリストや著名楽団の奏者12人が一堂に顔を揃えました。
日曜夜のコンサートは客席の最後尾まで満員。この日多くの聴衆のお目当ては当代屈指のピアニスト、マリア・ジョアン・ピレシュが弾くベートーヴェン最後のピアノソナタだったと思われますが、残念ながらピレシュは病気でキャンセル。しかし、代役のアレクサンダー・ロンクヴィッヒがシューベルトのピアノソナタ第21番をゆったりと弾き始めると、高い天井にピアノの音が響き渡り、さながら天国を思わせるような時間が到来しました。まろやかにブレンドされていながら、個々の音や声部がくっきりと聴こえるのがこの教会の特徴です。シューベルト最後のピアノソナタをロンクヴィッヒによる熟練の演奏で聴けただけでも足を運んだ甲斐がありました。
ほかにも、ヴィオラのディームート・ポッペンがモーツァルトの短調のソナタで味わい深い抒情を聴かせてくれ、最後のバッハのブランデンブルク協奏曲第2番では、トランペットのラインホルト・フリードリヒがまるでソプラノ歌手が自由自在に歌うような軽やかなソロを披露し、喝采を浴びました。やはりこの教会を愛した、今は亡きアバドの控えめな微笑みが脳裏に浮かんでくるような、幸福な気持ちにさせてくれた一夜でした。
イエス・キリスト教会では、折に触れてコンサートが行われます。例えば、12月はクリスマス・オラトリオ(4日)、IPPNW(核戦争防止国際医師会議)主催のチャリティーコンサート(10日)など※。クラシックファンならずとも、この教会で聴く音楽は素敵な体験となることでしょう。
※ダーレム教会共同体ウェブサイト内「Konzerte」
www.kg-dahlem.de
(ドイツニュースダイジェスト 11月18日)