夏の季節、地下鉄U3のリューデスハイマー広場から地上に出ると、南ドイツから吹き抜けてきたかのような爽やかな風をいつも感じる。まず目に入るのは、広場の一段高い位置に置かれたテラス。ここに上がると、夏の夕方以降、ベンチに座る人で溢れない日はない。そして、人々が手にしているのは、ビールではなくワイン……。
ベルリン西部のこの広場周辺は「ラインガウ地区」と呼ばれる。リューデスハイムやヴィースバーデンなど、ライン川に面したヘッセン州のラインガウ地方に因んだ広場や通り名が付いているのはそのためだ。この地域とのつながりから(現在は姉妹都市関係で結ばれている)、広場のテラスで「ラインガウのワインの泉」というワイン祭りが毎夏開催されているのである。
テラスの中央にはニーベルンゲン伝説の英雄ジークフリートの像が建ち、右側には父なるラインを擬人化した男の像が、左側にはモーゼル川の寓意であるワインの女王の像が並ぶ。ここの売店で売られているワインやゼクトは、本場ラインガウの醸造所から直送された本格的なもの。ベルリンでぶどう酒を飲み浸るのにこれほどふさわしい場所があろうか。お弁当持参でやって来た私たちも早速席を探したが、テラスは完全に満席の状態。仕方がないので、売店でグラスワインを買い、その下に広がる庭園に腰掛けてピクニックを始めた。
1905年にゲオルク・ハーバーラントによって設計された長方形のこの広場は、ひな段式の美しい庭園を持ち、周りに建つ英国の別荘スタイルのアパート群と見事な調和を成している。キリッと冷えた辛口のヴァイスブルグンダーをここで飲むのも十分に楽しいのだが、向こう側のテラスの上で繰り広げられている宴の様子がやはり気になる。2歳半の息子を連れて、「誰か地元の人に話を聞けないだろうか」と半ばリポーターの気分で歩いていると、年配のご婦人2人に声を掛けられた。
「あら、可愛い坊やね。いちごをあげるからこちらにいらっしゃい」
この近くに住むというアンドレアさんが話してくれた。
「ここには毎週のように来ているわ。ワインのメニューは定期的に変わるし、食べ物を持ち込めるのがいいわね。見知らぬ人と自然に会話が始まるような、特別な雰囲気が大好き」
いつの間にかアンドレアさんは昔日本に行った時の思い出を話し始め、長い立ち話になってきた。一緒に来ていたカトリンさんが、「私が飲んでいるこのロゼ、とても美味しいわよ。よかったらどう?ご馳走するわ」と言う。そろそろ帰ろうかと思っていたのだが、「Ja oder Ja? (Yes or yes?)」の一言に押し切られ、妻や一緒に来ていた友人も加わることに。こんな出会いもまた楽しい。これまた絶品のロゼを飲みながら、後日またここで会いましょうと2人と約束した。
ビアガーデンは夏の風物詩としてよく見かけるが、ワイン片手の夜も良いものだ。賑やかな声に囲まれて、テラスの上のワインの女王像は今日も微笑んでいる。
(ドイツニュースダイジェスト 7月7日)
Information
リューデスハイマー広場
Rüdesheimer Platz
ヴィルマースドルフ地区にある広場。1911年から15年にかけて、英国の「田園都市」の理念に基づいて建設された。ラインガウ地方に因んだ広場のコンセプトは、1913年に完成した地下鉄の駅にまで貫かれ、ワインやぶどうをモチーフにした装飾が見られる。2015年には『ニューヨーク・タイムズ』紙により、この広場を含めたリューデスハイマー通りが、「欧州でもっとも美しい通り12選」に選ばれた。
住所:Rüdesheimer Platz, 14197 Berlin
ラインガウのワインの泉
Rheingauer Weinbrunnen
リューデスハイマー広場のテラスで毎夏行われているワイン祭り。歴史は意外と古く、1967年にさかのぼる。ラインガウ地方のワイン醸造業者が定期的に替わるので、様々なワインを楽しめる。近隣住民への配慮から期間中は毎日15:00から21:30までオープン。21:45までにはディポジットのワイングラスを返却するルールになっている。
開催:2017年は5月19日(金)から9月3日(日)まで
住所:Rüdesheimer Platz, 14197 Berlin