カール・マルクス大通りを歩くと、やがてそれは見えてきました。幅1メートル、奥行き2メートルの構造体。木製のボディーはどこかベルリンの黄色いバスを思い起こさせますが、内部には大人一人が作業できる机があるだけです。「ムービング・マイクロ・オフィス」(通称mmo)という名の移動オフィスを造ったティトゥス・スプリー(シュプレー)さんが迎えてくれました。
南ドイツのウルム生まれのスプリーさんは、ベルリン芸術大学で建築を学んだ後、東京に留学。2005 年から琉球大学教育学部の准教授を務める一方で、時々作家活動も行っています。
そもそもスプリーさんがmmoのアイデアを最初に考えたのは、1999年の東京でした。「当時、PHSによるデータ通信サービスが始まり、インターネットに接続してどこでも仕事ができる状況が生まれました。一方で、東京は家賃が高く、若い人が何か創造的なことをしようと思ってもお金がないと始まらない。そのような状況への問いかけとしてmmoを始めました」。
2000年に造った最初の移動オフィスは、中に畳を敷き、すだれを取り付けた日本仕様。当時住んでいた墨田区の下町を移動しながら、今で言うモバイル・ボヘミアンの先駆け的な活動を行ったわけです。移動先では物珍しそうに覗いてくる地元の子供やホームレスの人達と交流が生まれ、「もともと日本には屋台文化があるので、あまり違和感なく受け入れられました」とスプリーさんは語ります。
約17年の時を経て、ベルリンでmmoのプロジェクトをやろうと思ったのは、「家賃が急騰して、自由なスペースが少なくなり、残念ながら当時の東京と似たような状況になってきたため」。この9月、スプリーさんはベルリンのさまざまな場所を移動しながら、mmoを展示して回りました。約350ユーロで自作したというmmoには取っ手が付けられており、まさに屋台と同じように手で引いて動かします。
「実際に移動しながらPCで仕事をしましたが、道行く人から頻繁に声をかけられるので、あまり仕事にならなかったというか。でも、そこで彼らと議論が生まれたり、『ここはこうした方が良いんじゃないか』という提言をいただいたりと、私自身得ることは多かったです。ドイツでは公共空間での規則が非常に多い。アジアでのように、プライベートな部分をもう少し自由に持ち込めても良いのではないかと思うのです」
スプリーさんは自身の専門である都市環境の問題を、mmoを通して提言しているかのようです。実際に小型オフィスの中を見せてもらいましたが、フリーランスで働く私も、一台欲しくなりました。
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(ドイツニュースダイジェスト 10月20日)