地下鉄のフランツェージッシェ・シュトラーセ駅から地上に出て、クリスマスのイルミネーションを横目にベーレン通りを東に急ぐ。再オープン以来、自分にとって初めてベルリン国立歌劇場の中に入る待望の夜。ナチス時代に焚書が行われたベーベル広場に着くと、暗闇の中から劇場の側面が浮かび上がる。もう何年も工事現場の混沌とした姿しか見ていなかったので、それだけで嬉しくなった。
久々に劇場正面から中に入ろうとするが、チケットは左脇にある仮設コンテナの窓口まで行って受け取らなければならず、まだすべてが完成したわけではないようだ。いよいよ建物の中へ。廊下の煌びやかなシャンデリア、フリードリヒ2世の時代を彷彿とさせるロココ調の曲線の装飾……。すべてが綺麗に新しくなっているが、基本的に昔の構造のままである。最後にここでオペラを観たのは2010年の春だから、もう7年半が経過したことになる。まだ東日本大震災が起きる前のことだ。その間あっという間だった気もするし、2010年が遠い昔のようにも感じられてくる。
木の新しいにおいを感じながら、右手のドアから平土間に入る。天井を見上げると、赤を基調とする内装にブルーが加わって、モダンなテイストが加味された印象を受けた。この6月に内部を見学した時は、椅子も設置されておらず、秋のオープンに間に合うのだろうかと心配した。まだ夢の中にいるかのよう。
この夜行われたのはオペラ公演ではなく、オーケストラのコンサート。それも、ちょうどアジアツアーから帰ってきたばかりのベルリン・フィルが登場して、オペラ座の再館を祝福したのだった。サイモン・ラトルの指揮により、おもちゃ箱をひっくり返したようなストラヴィンスキー作曲のバレエ音楽《ペトルーシュカ》の活気あふれる音楽が響き渡った。音響効果を改善するために天井を4メートルかさ上げした成果は十分出ているようだ。ラフマニノフの交響曲第3番では、チェロを始めとする弦楽器のしっとりとした音色が聴き手を包み込む。アンコールに演奏されたプッチーニの歌劇《マノン・レスコー》の間奏曲は、とりわけオペラファンが多い聴衆を喜ばせた。
唯一不満に感じたのは、終演後、手狭な地下のクロークが大混雑に陥ったことだろうか。もともと18世紀に造られた劇場であることを考えると致し方ないのかもしれないが。実は10年ほど前、劇場を完全に現代的な内装に造り変えるプランがあった。芸術監督のダニエル・バレンボイムは当初この案を支持していたが、反対意見も多く、中でも音楽愛好家で知られたヴァイツゼッカー元大統領は「ダニエル、それはやめてほしい。ここはかつて破壊された都市だったのだから」と直々に電話をかけてきたという。「廃墟からよみがえった劇場」。この言葉に動かされたバレンボイムは、できるだけオリジナルを残し、「今後100年は持ちこたえられる市民のための建物を造ることに力を注いだ」と最近地元紙に語っている。
幕は再び上がった。ベルリン国立歌劇場は今宵も聴き手を夢見る世界へと誘う。
(ドイツニュースダイジェスト 1月5日)
Information
ベルリン国立歌劇場
Staatsoper Berlin
1742年、プロイセン王フリードリヒ2世の命により、王立の宮廷歌劇場としてオープンしたドイツ屈指のオペラ劇場。1843年の火災、1945年の空爆によりこれまで2回破壊されており、現在の劇場は1955年に再建されたもの。今回の大改装中は、西側のシラー劇場を代替地として公演が行われ、当初の予定より4年遅れの2017年12月7日(歌劇場275周年の日)に本格的な再オープンを迎えた。目抜き通りのウンター・デン・リンデン(「菩提樹の下」の意)に位置することから、シンボルマークには菩提樹の葉があしらわれている。
チケットオフィス:月〜日11:00〜19:00
住所:Unter den Linden 7, 10117 Berlin
電話番号:030-20354555
URL:www.staatsoper-berlin.de