アウシュヴィッツ強制収容所が解放された1月27日は、国際ホロコースト記念日に指定され、ベルリンのドイツ連邦議会では追悼式典が行われます。私は毎年この模様をテレビ中継で見ていますが、今年は一時帰国でたまたま広島県福山市に滞在していました。この町の郊外にホロコースト記念館があると聞いていたのを思い出し、足を運んでみようと思い立ちました。
福山駅から福塩線に乗って二つ目の横尾駅という無人駅で降り、のどかな田園風景の中を歩くこと15分、川辺にモダンな記念館の建物が見えてきました。壁にはアンネ・フランクの写真が掲げられています。それにしても、欧州から遠く離れた日本のそれも地方に、なぜホロコースト記念館があるのか、不思議に思われるかもしれません。
話は1971年にさかのぼります。地元の教会の牧師、大塚信さんは、この年の4月に合唱団とともにイスラエルを訪問中、偶然アンネ・フランクの父オットー・フランクさん(1889〜1980)と出会います。その後10年近くに渡って交流が続き、「アンネをはじめ150万の子どもたちにただ同情するだけではなく、平和をつくるために何かをする人になってください」というオットーさんの願いに応えて、1995年に日本で最初のホロコースト教育センターを開館。2007年には現在の新館がオープンしました。
館内には、ユダヤ人やホロコーストについてのパネル展示とともに、オットーさんから寄贈されたタイプライターやアウシュヴィッツで着用していた囚人服、さらにアンネの隠れ家を再現した部屋まで展示。小さな記念室にはマイダネク収容所で犠牲になった子どもの靴が置かれ、訪問者に静かに語りかけてきます。
この日はホロコースト記念日の前日。午後に行われた映画『戦場のピアニスト』上映会の挨拶のため来館していた大塚館長と言葉を交わすことができました。
「ベルリンにあるような立派な記念館に比べるとマッチ箱のようでしょう」と微笑みながら、こう続けます。「建物の規模で悲劇の大きさを伝えるのではなく、この記念館には日本文化の粋を集めた茶室の理念が取り入れられています。訪れた人は記念室の15センチの小さな靴へと導かれ、皆さん忘れられない印象を持って帰られるようです」
入館は無料。私費で運営するゆえの苦労も伺いましたが、広島と長崎の原爆投下と並ぶ20世紀の悲劇、ホロコーストを歴史の教訓として今に伝えるこの小さな記念館に感銘を受けました。広島訪問の折にはぜひお立ち寄りください。
ホロコースト記念館:www.hecjpn.org
(ドイツニュースダイジェスト 2月15日)