BVG(ベルリン交通局)のインフォメーションセンターに行くと、無料で配布されているパンフレットの中に、「Berlin. Landpartie」というシリーズがある。BVGの路線に乗って行ける郊外へのピクニックコースを紹介したものだ。これを眺めていると、週末にどこかに行ってみたくなる。4月のある日、水辺の風景を求めて、Sバーンに乗って家族で東に向かった。
Sバーンのグリューナウ駅からトラム68番に乗って一駅、ヴァッサーシュポルトアレーという停留所で降りる。交差する通りの名前は、レガッタ通り。目の前には、広々としたダーメ川が見える。これらの通り名からうかがえるように、この辺りは昔から水上スポーツのメッカで、1936年のベルリン五輪では、ボート競技の舞台にもなった。
フェリーF12の乗り場はこんなところにあった。BVGが運営する公共フェリーは以前ヴァンゼーを縦断するF10をご紹介したことがあるが、あちらが20分かけて大きな湖を渡るのに対して、こちらは対岸がもう向こうに見えており、地元民の渡し船といった趣き。わずか数分の船旅だが、それでも水上の移動では気分が晴れ晴れとしてくる。フェリーは完全バリアフリーで、自転車やベビーカーを持ち込んでいる人もいた。BVGのチケットを持っていれば追加料金を払う必要はなく、トクした気分にもなる。
先に紹介したパンフレットにはフェリーを降りたミュッゲルベルクアレーから岸辺を歩くコースが推奨されているが、子供連れには少々大変だ。幸い、近くのWendenschloßという停留所からトラム62番が出ている。これに揺られて北上すると、水辺に囲まれたケーペニックの旧市街に入る。そろそろお腹が空いてきた。
フートラン広場に面したところに、本格的なトルコ料理を食べられるレストラン「Lehmofen」があるのを思い出して、足を運んでみた。粘土のかまどを使ったグリルに食欲をそそられ、お腹がいっぱいになったところで、広場の公園に行く。
ケーペニックは、すでに7世紀頃からスラブ人が要塞を構えていたというベルリンよりも古い歴史を持つ街だ。長方形の緑地帯のフートラン広場は1700年頃に造られ、19世紀初頭までは教会の墓地として使われていたという。遊び場の後ろに構える住居は、1683年に建てられたこの広場最古のもの。中心部から水辺をつたってここまで来ると、いつもと同じように子供と遊んでいても気分が違う。都心での普段の生活では見えにくくなっている、水運と共に発達してきた都市ベルリンの深奥に触れる感覚だ。
半日の郊外散歩でバス、地下鉄、Sバーン、フェリー、トラムとベルリンの公共交通のすべてに乗り、乗り物好きの息子も大満足の様子だった。これだけ乗ってもまだABゾーンの枠内。この連載はもうすぐ100回を迎えるが、ベルリンの未知の地平はまだまだ奥に広がっているようだ。
(ドイツニュースダイジェスト 2018年6月1日)
Information
フェリーF12
Fähre F12
ヴァッサーシュポルトアレーと対岸のミュッゲルベルクアレーを結ぶベルリン交通局(BVG)が運営するフェリー。年間を通して10〜20分ごとに運行しており、ABゾーンの1回券(2.80ユーロ)で利用することができる。BVGが運行するフェリーは計6つの航路があるが、その中でも最短距離の航路の一つ。
URL:www.bvg.de
フェリーF11
Fähre F11
F12の北側、バウムシューレンヴェークとヴィルヘルムシュトラントというシュプレー川の両岸を結ぶフェリー。1896年に開業したベルリンでもっとも古いフェリー路線だが、昨年末近くに新しい橋が完成したことで、存続が危ぶまれている。市民の反対の声を受けて、市当局は2018年末までの営業を確約したものの、利用者数によっては廃止も見込まれる状況にある。