ルストガルテンのバス停で降りると、行列はシュプレー川を超えて、その先のカール・リープクネヒト通りにまで続いている。その長さにはさすがに驚いた。
8月最後の週末、再建中のベルリン王宮の一般公開が行われた。工事中の様子を市民に公開するイベントは毎年開催されてきたが、2019年末のオープンが近づき、工事中の一般公開は今回が最後になるという。
2006年に解体された東独時代の共和国宮殿から、この場所の変遷をずっと見てきた私としては、やはり感慨深いものがある。幸いにも行列の進みは早く、土曜のお昼前に王宮の敷地内に入ることができた。
3年ぶりに中に入ると、目の前のパサージュが奥へと伸びている。左右には食べ物の屋台が並び、お昼時で賑わっていた。左に曲がると、名高いシュリューターホーフという中庭があるのだが、夕方に行われるベルリン・フィルの野外コンサートの設営のため、残念ながら閉鎖中。代わりに右に進むと、エントランスホールが見えた。将来ここには西側のエオザンダー門側からも入れるようになる。これまでのように壁はコンクリートむき出しではなく、一部では彫刻も施され、完成後の様子がだいぶ具体的にイメージできるようになっていた。
階段を上がって3階を一周する。この階はアジア美術館と民族学博物館のコレクションが、西側と東側にそれぞれ配置される予定だ。当然まだ何も展示物は置かれていないが、がらんとした状態の博物館を歩けるのも貴重な機会なのかもしれない。
窓越しに中庭を覗くと、シュリューターホーフの様子がよく見える。もともとは17世紀初頭にアンドレアス・シュリューターの設計により造られた中庭で、バロック様式の円柱や立像が並び、遠くから眺めるだけでも壮観だ。その日、ここで行われたのは、キリル・ペトレンコ指揮ベルリン・フィルによる王宮再建のためのチャリティーコンサート。チケット代は250〜320ユーロと高額だが、完売だったという。
ちなみに、ベルリン・フィルはこのシュリューターホーフとは縁があり、ナチス時代の1933年から1940年まで毎夏ここで公演を行っていたそうだ。コンサート一つとっても過去と結びつく。ここはプロイセン、そしてドイツの歴史が凝縮された場所なのだ。
それを実感したのは、見学を終えて外に出てきたとき。多くの人が写真を撮っている先を見上げると、そこには第4門と呼ばれる華麗な門があった。1918年11月9日、カール・リープクネヒトはこのバルコニーから社会主義共和国の誕生を宣言した。同日、皇帝ヴィルヘルム2世は退位し、逃げるようにオランダへと亡命した……。
あの日からまもなく100年。幸いこの場所は文字通りの王宮として復古するのではなく、世界の諸文化の対話の場として用いられる。不穏な動きが広がる今の世界に対してどんなメッセージを発せられるだろうか。
(ドイツニュースダイジェスト 2018年9月7日)
Information
フンボルト・フォーラム
Humboldt Forum
旧プロイセン時代の王宮に造られる複合文化施設。19世紀のヴィルヘルム&アレクサンダー・フォン・フンボルト兄弟の理念を引き継ぎ、世界のさまざまな文化の対話の場となることを目指している。現時点の予定では、アレクサンダーの生誕250年の2019年9月14日にオープニング式典が行われ、同年末から一般公開が始まる。(※その予定でしたが、現在のところ「早くて2020年オープン」ということになっています)
住所:Schloßplatz 7, 10178 Berlin
電話番号:030-265950521
URL:www.humboldtforum.com
フンボルト・ボックス
Humboldt-Box(※2018年末をもって取り壊されました)
王宮の歴史やフンボルト・フォーラムの展示を紹介する情報センター。展望台兼レストランになっている最上階からは、中心部を一望できる。入場無料。2011年のオープンから多くの来場者を集めてきたが、フンボルト・フォーラムの完成に合わせて、今年の12月31日をもって解体されることになっている。
オープン:月〜日曜10:00〜19:00(3~11月)/18:00(12~2月)
住所:Schloßplatz 5, 10178 Berlin
電話番号:030-290278248
URL:https://humboldt-box.com