今年9月、指揮者の沖澤のどかさんが、第56回ブザンソン国際指揮者コンクールで優勝したことは大きなニュースになりました。沖澤さんは東京藝術大学で指揮を学んだ後、ベルリンのハンス・アイスラー音楽大学に留学し、2017年に卒業しています。
12月2日、その沖澤さんがコンツェルトハウスで行われたハンス・アイスラー音大のシンフォニーコンサートに出演するというので足を運んでみました。前半の演目は、マーラーの「さすらう若人の歌」(バリトン独唱は汪昌博さん)とコルンゴルトのヴァイオリン協奏曲。コルンゴルトで独奏を務めた韓国出身のヴァイオリニストのイ・ジユンさんは、同大学在籍中にシュターツカペレ・ベルリンの第1コンサートマスターのオーディションに合格した逸材。沖澤さんが指揮する、音大で学ぶ若いメンバーで構成されたオーケストラと自由闊達なヴァイオリンとの間で、エネルギッシュな演奏が展開されます。
後半は、ブラームスの交響曲第3番。この作曲家の交響曲の中でも、とりわけ秋の気配が濃厚な渋い作品です。しかし、沖澤さんが指揮するブラームスは、何と清新に鳴り響いたことでしょう。折り目正しくありながらも、奏者の自発性を自然に引き出す見事な指揮ぶり。第2楽章で音楽がゆらめきながら転換するところでは、秋というより春の訪れの喜びが歌われているようで、幸せな気持ちがこみ上げてきました。終演後に聴衆からはもちろん、楽団のメンバーから指揮者に熱い喝采が送られたのも納得です。
沖澤さんは今後もベルリンに拠点を置きながら、欧州と日本との間を行き来する生活を続けるとのこと。この街に住むことについて、こう語ってくれました。「自分が外国人であることを忘れられる、多様で自由な空気がベルリンの魅力です。コンサートやオペラなど、最高水準の公演が毎日のようにあることと、自然や公園などの静かな環境が共存していることも素晴らしいと感じます」。
巨匠リッカルド・ムーティにイタリアオペラの薫陶(くんとう)を受けるなど、これから多方面での活躍が期待される彼女ですが、ドイツ音楽への理解と情熱は今回のブラームスからもうかがえました。「ブザンソンのコンクールのファイナルではR・シュトラウスの交響詩『死と変容』が課題だったのですが、ザールブリュッケン・カイザースラウテルン・ドイツ放送フィルハーモニー管弦楽団が素晴らしい演奏をしてくださいました。シュトラウスのオペラをドイツで振ることが、私の大きな目標の1つです」。
その日はいつか訪れるでしょう。新しい才能に出会い、興奮冷めやらぬ夜となりました。
(ドイツニュースダイジェスト 2019年12月20日)