ドイツのアンゲラ・メルケル首相は、毎週土曜日に配信される”Angela Merkel – die Kanzlerin direkt“というポッドキャストを通じて、時事的なテーマについて語ることを以前から行っています。ドイツや欧州の政治から経済、社会、科学技術、文化、環境まで話題は多岐に及ぶのですが、先週末(5月9日)は「コロナと文化」がテーマでした。前回『新型コロナ危機に対するドイツの文化施策』を掲載させていただいた神戸大学大学院国際文化学研究科の藤野一夫教授が、同大学院生の河合温美さん(専門はドイツの文化政策)と一緒に首相のそのスピーチを早速翻訳してくださいました。ここで特に重要なのは、メルケル首相が文化支援を連邦政府の優先順位リストの最上位にあると明言したことです。国境を越えて多くの方と共有したい内容ということで、ここで掲載させていただけることになりました。お読みいただけると幸いです。
「コロナと文化」 メルケル首相の演説 2020.5.9
仮訳:河合温美/藤野一夫
導入: ドイツは文化の国であり、わたしたちは全国に広がる多彩な催し物(展示や公演)に誇りをもっています。ミュージアム、劇場、オペラハウス、文芸クラブ、そのほかにもたくさんあります。文化的催し物が表現しているのは、わたしたちについてであったり、わたしたちの アイデンティティについてだったりします。コロナウイルスによるパンデミックは、わたしたちが共に営む文化的生活の深い中断を意味します。特に影響を受けているのは多くのアーティストたちですが、いっそう深刻なのはフリーランスのアーティストたちです。現在の状況は不確かなままです。だからこそわたしたち連邦政府、なかでも連邦文化大臣モニカ・グリュッタースは、各州とともに関心を寄せていることがあります。わたしたちの文化的生活が将来にもチャンスがあり、そしてアーティストたちに橋が築かれることです。
質問:コロナ時代に文化はどのような役割を果たすのでしょうか?
文化的イベントは、わたしたちの生活にとってこの上なく重要なものです。それはコロナ・パンデミックの時代でも同じです。もしかするとわたしたちは、こうした時代になってやっと、自分たちから失われたものの大切さに気づくようになるのかもしれません。なぜなら、アーティストと観客との相互作用の中で、自分自身の人生に目を向けるという全く新しい視点が生まれるからです。わたしたちは様々な心の動きと向き合うようになり、みずから感情や新しい考えを育み、また興味深い論争や議論を始める心構えをします。わたしたちは (芸術文化によって)過去をよりよく理解し、また全く新しい眼差しで未来へ目を向けることもできるのです。これら全ては、もちろんコロナ時代においては制限された範囲でのみ可能です。これは、アーティストにあてはまることですが、もちろん観客にもあてはまります。それだけにいっそう感謝したいのは、いまやデジタル空間でどれだけたくさんの新しいアイデアが生み出され、どれだけたくさんのアーティストがエキサイティングなプロジェクトに取り組んでいるかです。このような文化的供給をも活用できる方々に特別な敬意を表したいと思います。
とはいえ、当然デジタル空間の可能性は非常に限られていることに変わりはありません。だからこそ今、適切な安全措置のもとでミュージアムや記念館が再開できるようになったことを嬉しく思っています。また今週、文化大臣と共に各州の大臣にお願いしました。どのようにしたら衛生規程と安全規程のもとで、劇場やコンサートホール、オペラハウスやその他の文化施設も再開できるようになるか、計画をまとめてほしいと。もちろんまだ難しい分野もあるでしょう。大規模なコンサートやフェスティバルの開催などはまさにその類ですが、文化の分野でも再び日常への第一歩を踏み出せることを嬉しく思っております。
質問:連邦政府はアーティストに対してどのような支援をするのでしょうか。
ドイツは基本的に各州が文化に対する権限を有しています。全ての州でアーティストのための支援プログラムを開始しています。連邦政府もその支援プログラムにおいてアーティストやクリエイティブ産業のニーズに常に寄り添ってきました。そこで、連邦政府による単身自営業者のためのプログラムでは、仕事場の経費や家賃などの恒常的支出がある人々を支援します。そのほかに、まさに単身自営業者のために基本保障(社会保険)への窓口を拡大し、ずっと簡略化しました。また文化大臣のモニカ・グリュッタースは、文化庁予算の中から、中止になったイベントの報酬などを精算できるように配慮しました。
わたしたちは、次の数ヶ月間で芸術に必要な支援策について引き続き検討してまいります。 というのも、わたしたちの目的は、ドイツの幅広く多彩な文化的環境が、パンデミックを克服したあと、この深い中断を克服したあと、存在し続けられることだからです。これは容易ならざる課題ですが、連邦政府はこの課題を優先順位のリストの一番上に置いています。親愛なる芸術家の皆さん、あなた方にとって今がとても、とても困難な時期であることを承知しています。わたしたちの誰もが寂しい思いをし、どれほど多くの市⺠たちが再びライブであなた方の芸術を体験できることを待ちわびているかを承知しています。そのときまで、 わたしたちはできる限り、あなた方を連邦政府の救援プログラムを通して支援するように努めます。また、どれほどあなた方がわたしたちにとって大切であるかをお伝えすることも支援となりますように。
Podcast der Kanzlerin zur Kulturhilfe in Gebärdensprache (YouTubeのリンク)