『おとうさんのポストカード』(講談社)が刊行

この6月末、監修者として関わった『おとうさんのポストカード』(講談社)が刊行されました。私が10年ほど前に出会った、「いのちの列車」と呼ばれるキンダートラスポート(ドイツ語で「子どもの輸送」)をテーマにした本です。

主人公のヘンリー・フォーナーさん(もとの名はハインツ・リヒトヴィッツ)は、1932年ベルリン生まれ。ヒトラー政権によるユダヤ人迫害が強まる中、ユダヤ人の子どもたちだけでも安全な場所に避難させようと、彼らをイギリスに運ぶキンダートランスポートの計画が持ち上がります。第二次世界大戦直前の1939年2月、当時6歳のヘンリーさんもこうしてイギリスに渡って命が救われた約1万人の子どもの一人です。

ヘンリーさんのことは数年前に岩波書店の「世界」に寄稿しているのですが、日本の若い人たちに向けても伝えたいと思っていたところ、ベルリン在住作家の那須田淳さんに新たに物語として書き下ろしていただく機会にめぐまれました。フィクションの形を取っていますが、歴史的背景については極力忠実であろうと務め、最近93歳になられたエルサレム在住のヘンリーさんと何度もやり取りしながら進められたのは、私にとって本当に貴重な時間でした。

小学5年生以上を対象にした児童書ですが、挿絵も含めて絵は一切ありません。代わりに、ベルリンに残った父親が息子のヘンリーさんに宛てた数々のかわいらしいポストカードが彩ります。丁寧な筆致でつづられた、簡潔な中にも息子を案ずる愛情のこもった文章をぜひ味わっていただけたらと思います。

本書の制作中、過去の歴史だけでなく、ガザやウクライナの子どもたちに何度も思いを馳せました。どんな大義名分があろうと、人種主義やその行き着く先の戦争が親子を引き裂く悲しみには、どの時代も違いはありません。手に取っていただけると幸いです。



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