指揮者フルトヴェングラー(1886-1954)にちなんだ「フルトヴェングラー通り」(1月14日)
2週間ほど前だったか、ベルリンの音楽大学で指揮の勉強をしている友人のT君から、たまたま面白い話を聞いた。ベルリンには音楽に関係した通りの名前が非常に多いというのである。ベートーヴェン通りやモーツァルト通りなら、さして驚くに値しないが、T君が挙げたのはそれだけにとどまらない。ちょうど地下鉄の駅のホームにいたので、2人で壁に掛かっている地図を眺めてみたところ、T君も知らなかった、意外性のある面白い名前の通りが次々と見つかった。
ヨーロッパの他の町もそうだと思うが、ベルリンのほとんどありとあらゆる通りと広場には名前が付けられている。代表的なのは、人名と地名にちなんだものだ。ゲーテ通りやルター通りはドイツ全土でいったいいくつあるだろうか(ベルリンだけでも複数ある)。人物といっても歴史上の偉人にとどまらず、聖書に出てくる聖人や、文学作品上の登場人物(例えば「ファウスト通り」)など多種多様だ。地名だと、パリ通りやミュンヘン通りから、何となく寒そうな(?)アイスランド通り、逆に暑そうなウガンダ通りまでこれもさまざま。
町の中心部は歴史的に名前に因んだ通りが多いのだが、少し郊外に行くとさすがにネタが尽きてくるのか、珍しくて楽しい名前も登場する。変わりどころだと、オレンジ小道、メロン小道、バナナ道といったフルーツ系。
「バナナ道(Bananenweg)というからにはカーブがかかっているのかと思いきや、地図を見たらまっすぐだった(T君)」
それはさておき^^;)、なかなかおもしろいテーマであるし、音楽にちなんだ通りが集中しているベルリン郊外の2つの地区を見て周ることにした。先週の土曜日、このマニアックなツアーに参加したのは私とT君、そしてハンブルク在住のフンメルさんである。フンメルさんは私が今さら紹介するまでもない、「ドイツ音楽紀行」という充実したブログを作られていて、私もブログを通じて知り合った。先週末ベルリンに来られるというので、声を掛けてみたら喜んでのってくださったという経緯である。
ベルリンの西の郊外にあるGrunewaldの駅を降りて、しばらく歩くと、ベルリンでも屈指の高級住宅街が見えてくる。どれも別荘のような家ばかりなので、びっくりしてしまう。
この名前を見てピンとくる方は相当な通であろう。ベンヤミン・ビルゼ(1816-1902)はベルリンの指揮者。彼は自分の名前を冠したビルゼ楽団を主催していたが、その待遇の悪さに反発した若い団員たちが、1882年新しいオーケストラをベルリンで結成した。これが現在のベルリン・フィルハーモニー管弦楽団の出発点だったといわれている。実は今回ご紹介する人たちは、このオーケストラを指揮したり共演したりと、いずれも何らかの形で関わっていることに後から気付いた。
アルトゥール・ニキシュ(1855-1922)は、そのベルリン・フィルの2代目の音楽監督。小さなプレートにその人物の簡単なプロフィールが載せられているので、ちょっとした勉強にもなる。ちなみに、初代指揮者のハンス・フォン・ビューロー通りは、ベルリンの中心部にある。
Klindworthって誰?
自分1人だったら、間違いなく無視して通り過ぎていただろう。が、「どこかで耳にした名前です。あっ、確かリストの弟子の1人だ」とフンメルさん。さすがにお詳しい。
家に帰って調べたところ、Karl Klindworth(1830-1916)は指揮者兼ピアニストで、ワーグナーのオペラのピアノ版を編纂したことで知られているらしい。
ニキシュの後任、かのフルトヴェングラーとR.シュトラウス(1864-1949)のゴールデンコンビ。この通りの住人になれば、「私の住所はベルリン、フルトヴェングラー通りの何番地」などと名乗れるわけだ。そのすぐそばには、ブラームス通りもあった。
たまに付近の住民が私たちのそばを通り過ぎるのだが、閑静な住宅街で、3人の日本人の男が通りの名前の入ったプレートを写真に収めては興奮している様子を見て、怪訝そうな顔をしている。
こじんまりとしたレオ・ブレヒ広場。Leo Blech(1871-1958)はベルリン出身の指揮者兼作曲家。大戦中はドイツから逃れ(ユダヤ人?)、1949年再びベルリンに戻って指揮活動を再開したという。
今回の終着点はヨーゼフ・ヨアヒム広場。Joseph Joachim(1831-1907)はいわずと知れたヴァイオリンのヴィルトゥオーゾ。ブラームスとは親交が厚く、彼のヴァイオリン協奏曲はこのヨアヒムに捧げられたのは有名な話だ。ベルリンの音楽大学の総長も一時期務めていた。
それにしても、ここにはどんな経緯から、19世紀末から20世紀前半にかけて活躍した音楽家の通りが集中しているのだろう。昔、その中の誰かがこの地区に住んでいた可能性が高いが、そこまではわからなかった。
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うぁ~!クラシック音楽に疎いので、全部見落としそうな名前の
通りばっかりでした。でもこうしてみるとさすが高級住宅街、
文化の香り高いですねぇ。
でもカメラ持った日本人男性三人が住宅街で・・・。
なんかのスパイかと思われてたりして(^^;)。
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リストの弟子Klindworthの名は、ヒットラーの恋人ともいわれたヴィニフレッド・ワーグナーの養父だったので、知っていたのです。以前書いたのをTBしますね。
マサトさん&Tさんのおかげで、とても興味深いツアーに参加でき、楽しかったです!でも近所の人たち、私たちを不審に思ったでしょうね(笑。
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>akberlinさん
確かにこの辺はとっても高級感が漂っていました。普段ほとんど街の中心部にしかいないので、ちょっとしたカルチャーショックを受けたほど。次回ご紹介するのは、また少し違う雰囲気の界隈です。
>なんかのスパイかと思われてたりして
う~ん、これはどうなんでしょう^^;)。自分で言うのも何ですが、相当怪しかったのは事実かもしれません・・
>フンメルさん
TBありがとうございました!こういう形で知識の共有化を図れるのが、ブログのいいところですよね。
>ヒットラーの恋人ともいわれたヴィニフレッド・ワーグナーの養父
歴史の暗闇感が漂っていて、とても興味あります。これからじっくり読ませていただきますね。
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フランスの場合、「ローマ通り」とか「パリ通り」というのは、それぞれ「ローマに通じる道」「パリに通じる道」ということなのだそうです。
ヨーロッパのすべての国でそうなのかどうかはわかりませんが。
去年の夏、私が泊まった安宿は「ハインリッヒ・ハイネ通り」でした。地下鉄の駅名もそれ。
・・・・・・音楽の話からずれてしまってごめんなさい。
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かおるさん、ご無沙汰しております。久しぶりにリヴィウの町を思い出しました(笑)。
「ローマ通り」と「パリ通り」の例、ありがとうございます。ベルリンだと、例えば「ポツダム通り」がそういう意味で名付けられた通りです。かの「ブランデンブルク門」にしても、「ブランデンブルクに通じる門」という意味ですからね。同様に、「ハレ門」や「コトブス門」という地下鉄の駅があります。通りの名前は、調べるとまだまだいろいろ面白い発見がありそうですね。
今年もどうぞよろしくお願いします。
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マサト様、はじめまして。ガーター亭亭主と申します。
いやぁ、素晴らしいです。ベルリン音楽通りツアー。パリでも似たようなことをしておりますが、こちらには演奏者の通りの名前は比較的少なく、作曲家が多いですね。
今後ともよろしくお願い致します。
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ガーター亭亭主さん、ご訪問ありがとうございます!
それにしても全く同じことを(しかもパリで!)やっている方がいらっしゃったことにまずびっくりしています。連載ももう16回目ですか!自分ではあまりに地味過ぎる企画だと思っていたのですが、ちょっと勇気付けられました^^;)。近いうちにまたメンバーに召集をかけたいと思います。
こちらこそ、これからもよろしくお願い致します。
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もともとはこれはおかかダイアリーの坂本くんがブラウティガムのベートーヴェンのピアノソナタのCDの各巻が色々な都市のベートーヴェン通りのプラカードをジャケットとしている、というところから始まったものでした(http://okaka1968.cocolog-nifty.com/1968/2005/07/post_d2cb.html)
その後、そのソナタ全集の進捗状況はフォローしていないのですが、ベルリンのべートーヴェン通りも登場しているかもしれませんね(壊れたプラカードかどうかは分かりませんが(笑))。
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このジャケットの写真を拝見しましたが、おもしろいアイデアですね!
ちなみにベートーヴェン通りですが、ベルリン市内だけで5つもあるようです。