よみがえった1913年録音のニキシュの「運命」

昨年3月、ベルリンで行われた貴志康一の生誕100周年の行事で、東京大学先端科学技術研究センターの村岡輝雄先生と知り合う機会があった。村岡先生は音響工学を専門とされ、武蔵工業大学教授を退任後、現在は東大の研究センターで古いSPレコードのように損傷した音楽のコンピューターによる修復の研究をされている方。
村岡先生と知り合ってからというもの、ご自身が製作されたGHAノイズ・リダクションによる復刻CDを送ってくださるようになった。毎回楽しませていただいているのだが、このラインナップがなかなか興味深い。例えば、アルトゥーロ・ニキシュ指揮ベルリン・フィルのベートーヴェン「運命」(1913年録音)、ジネット・ヌヴーのシベリウスとブラームスのヴァイオリン協奏曲(オケはフィルハーモニア管)、貴志康一がベルリン・フィルを相手に自作を指揮した貴重な録音(1935年)、他にもカザルス、シゲティといった具合だ。
特にニキシュの「運命」は、第一次世界大戦の1年前という時期の録音にも関わらず、かなり普通に鑑賞できるレベルの音質に修復されていた。聴き進むうちに、100年前の「骨董品」に触れているという意識が薄れ、音楽そのものに引き込まれてしまった。ベルリン・フィルのコンサートマスターだった安永徹さんも、この録音の音楽的・歴史的価値は高く評価されたそうだ。
先月末、ロンドンでの学会の帰りにベルリンに寄られた村岡先生と、久々にお会いした。ベルリン・フィルの資料室長のヘルゲ・グルーネヴァルトさんと昼食をご一緒し、ベルリン・フィルの地下のアーカイブまで見せていただいたのは、予想外のことで楽しかった。
ブルーノ・ワルターがBBCのオーケストラを指揮したモーツァルトの交響曲の録音は、CDを贈ったBBCから「ぜひ今の楽団員にも聞かせたい」という熱い返事が届いたそうだし、グルーネヴァルトさんも村岡先生の研究に十分興味を持ってくれたようだ。とはいえ、日本でもドイツでも、モノラルの時代の古い録音は、どうしても一般的な関心を集めるのが難しい。「後世のために音楽の世界遺産を作りたい」という村岡先生の熱心な活動を少しでも応援できればと、ここで紹介させていただくことにした。

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2 Responses

  1. うのっち
    うのっち at · Reply

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    ニキシュの録音については、いろんなところで見聞きしてはいましたが、まだ触れたことはありません。いずれも「資料的価値はあるが、とても聴けた代物ではない」というのが一致したコメントだったんで・・・。でもニキシュの指揮そのものは伝説になっていますよね。いいなぁ、いつか聴いてみたいみたい!!「録音」がなかった時代の演奏と言うのは、今とかなり違っていたと思うんです。それが、最新技術で聴けるようになるとは!

  2. berlinHbf
    berlinHbf at · Reply

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    うのっちさん
    興味を持ってくれてうれしいです。1913年の録音なので、音が痩せているのはいかんともしがたいのですが、段々それが気にならなくなり、3、4楽章は普通に感動しました。今度機会があったらお貸ししますね。

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