「ベルリンを観る」の第2回目は、舞台が戦前から一気に現代へと飛ぶ。Andreas Dresen監督の最新作で、現在上映中の”Sommer vorm Balkon“である。1月6日の封切から早くも500万人の動員を数えたそうで、ベルリンを舞台にした新たなヒット作になりそうな気配だ。昨日のニュースでは、この映画が今年のErnst-Lubitsch-Preisという映画賞を受賞したことが伝えられていた。
さて、この映画の主人公は、ベルリンのプレンツラウアーベルク(Prenzlauer Berg)に住む30代シングルの女性2人。写真右側のニケ(Nadja Uhl)はもともとベルリーナーで(東出身)、まだ十分若々しくてセクシーだ。彼女は1人暮らしの老人を介護する仕事をしている。対するフライブルク出身のカトリーン(Inka Friedrich)は、壁崩壊後にベルリンに引越して来た(映画の中では確か39歳となっていた)。現在のベルリンの社会状況を反映してか、彼女は現在失業中。離婚経験があり、1人息子のマックスと一緒に住んでいる。それに絡んでくるのが、右端に小さく写っているトラック運転手のロナルド(Andreas Schmidt)。女たらしなのだが、どこか憎めないところもあるキャラクターだ。話し方がすごいベルリン訛りで、彼が最初に登場する衝突事故のシーンでは、後ろの車の運転手と罵り合いが始まるのだが、そのやり取りを聞いているだけで楽しくなってしまう(でも、何を言っているのかほとんどわからない)。
ジャンルとしてはコメディーに入る作品かもしれないが、1人暮らしの老人や酒に走ってしまうカトリーンの「孤独」というテーマも描かれており、意外に余韻の残るいい映画だった(もう少し詳しいストーリーをという方は、「ベルリン、りんりん♪」さんのこちらの記事をご覧ください)。
この映画を、まさにベルリンそのものにたらしめていると思わせたパーツを2つほど挙げてみたい。
1つは映画のタイトルにもなっている夏の季節のバルコニーだ。この映画では、カトリーンが日当たりの悪く、バルコニーなしの(日本でいう)1階に住んでいるのに対し、ニケは4階の日当たり良好でしかもバルコニー付きの部屋に住んでいる。普段気が沈みがちなカトリーンがニケを訪ねると、2人が飲み語り合う舞台がこのバルコニーというわけだ。ベルリンの人たちにとって、夏のバルコニーというのは何か特別な空間だという気がしてならない。バルコニーは全てのアパートに付いているというわけではない。私がベルリンに来て最初に住んだ家はバルコニー付きだったのでよくわかるが、ただでさえ短い夏の夕暮れ時を、ほんのりと風がそよぐバルコニーで過ごすひとときは本当に気持ちがいいものだ。人々はここを色とりどりの花で飾ったり、ちょっとした野菜を植えたりと、庭のようでもあり、きっとそれ以上に大切な空間なのだろう。この映画は2人がバルコニーでこのように語らうところで終わる。「人生なんてこういうものよ」「本当ね」(So ist das Leben. Aber wirklich!)
そしてもう1つの影の脇役は、映画にしばしばさりげなく登場する、黄色い車体の地下鉄(U-Bahn)。地下鉄といってもプレンツラウアーベルクのこの界隈では、列車は高架線上を走る。確かカトリーンだったと思うが、列車を降りて、勢いよく出口に下って来るのはEberswalder Str. の駅だった(ホームから”Einsteigen, bitte!”と聞こえてくるのがまたいい)。また、ニケが介護で訪ねる老人の家は、部屋の窓から地下鉄が見える場所をわざわざ選んでおり、監督のちょっとしたこだわりが感じられる。この映画を一緒に観た友人が、「画面に地下鉄が出てくると、何となく親しみが涌いてくる」と言っていたが、全くの同感だ。ベルリンの風景を彩るのに、黄色い車体の地下鉄はもはや欠かせないパーツになっていると言えるのかもしれない。
何はともあれ、ベルリンの夏の日常が垣間見れるこの”Sommer vorm Balkon”、なかなかのおすすめです。ローカル色が強いので、日本で公開されることはおそらくないと思いますが。
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TBありがとうございました!
私にとって、高架の上を走る地下鉄といえば渋谷の銀座線。
子供のころから何度となく見てきた懐かしい風景です。
東急文化会館がなくなり(あそこにあったパンテオンという映画館にも
よく行きました)渋谷もだいぶ様変わりしているようですが、
銀座線のオレンジならぬベルリンの黄色い地下鉄が高架の上を行く
エリアは奇妙に私の郷愁を誘います(^^)。
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ベルリンの地下鉄は小さくてかわいいですね。黄色いボディーもステンレスやアルミでできた車体よりも断然いいですねー。何より昔の名古屋の地下鉄の色に近くて親近感があります。もちろんベルリンのUバーンやSバーンと違ってそれが街の風景だったとはいえませんが。話は変わりますがベルリンの中古車両が北朝鮮で走っているそうですね。ピョンヤンの地下鉄は地下深くを走っているそうなので、電車に感情があったならば陽のあたるベルリンで過ごした日々が恋しいでしょうね。まあ大切に扱われるでしょうけど・・。
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ホームページすごくかわいい!映画、是非に行ってみます。そろそろベルリナーレ始まりますね。情報待ってます。
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>akberlinさん
>銀座線のオレンジならぬベルリンの黄色い地下鉄が高架の上を行く
>エリアは奇妙に私の郷愁を誘います。
なんだかいいお話ですね~。ベルリンは地盤が弱いから、地下鉄でもああやって高架の上を走らせるのだと聞いたことがあります。それはともかく、あの風景は確かに情緒ありますよね。
>ジュリオさん
ベルリンの地下鉄は本当に小さいです。なのに、ドイツ人はみんなでかいし、自転車は乗るし、犬も乗るしでもう大変^^;)。ラッシュアワーがないのがせめてもの救いです。しかし、中古車両が北朝鮮に飛ばされるとは・・私が地下鉄だったら、最期をあそこで終えたくはないですが。
>KSさん
ベルリナーレまで手が回るか心もとないですが、まああまり期待せずにお待ちください。いい映画を観たらぜひ教えてね!
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Sommer vorm Balkonのサントラ買っちゃった♪
だってだって、HP見たら音楽もすっごくかわいくて。ちなみにまだ映画は見てません。
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確か全部70年代の曲のようですよ。"Guten Morgen"で始まる曲が、何回か映画で流れてきて、わりと印象に残っています。ぜひ映画も観てみてね!