ベルリン史の宝庫、メルキッシュ(辺境)博物館

ベルリンにこだわるこのブログとして、欠かすことのできない博物館を今回はご紹介してみたいと思う。
Märkisches Museum“、直訳すると「辺境博物館」。ベルリンの歴史を専門に扱った博物館なのだが、なぜ「辺境」なのか?
13世紀に起源を持つベルリンは、「ブランデンブルク辺境伯領(Mark Brandenburg)」の管轄化にある町のひとつだった。ベルリンは長い間、「辺境(Mark)」の地にある、マイナーな一都市に過ぎなかったのである。
しかし19世紀後半になると、ベルリンはパリやロンドンをも脅かす大都市に変貌していく。工業化が進み、人口は倍増、それゆえ行政の充実が求められていく中で、その中心となる新しい市庁舎が1869年に完成した。これが現在の「赤の市庁舎(Rotes Rathaus)」である。
急激な発展で町が変貌していく状況下においてはまた、ベルリンの過去を記録に留めておきたいという欲求が人々の間から生まれていく。こうして1874年に前身の「辺境州博物館」ができると、着工から12年の歳月を経て、1908年に現在の建物が完成した。
まず何といっても建物が立派。何も知らないでこの前に立ったら、教会かと見間違えてしまうほどだ。ルートヴィッヒ・ホフマンの設計によるこの建築物においては、北ドイツのゴシック、ルネサンス様式が結び付き、またブランデンブルクのカトリック教会からの引用も見られるという。当時の意気込みが伝わってくる。
内部がまたものすごく広いのでびっくりする。地下を含めて、全部で3階。先史時代から始まり、ベルリンがまだ川沿いの集落だった頃の展示物、中世の武具、教会の彫刻作品、貴重な地図や絵画から、手回しオルゴールの数々に至るまで、幅広くいろいろなものが集められている。1937年の市制700年に作られたという、1750年頃のベルリンの模型は面白かった。19世紀以降の町の発展の様子もよくわかるし、ベルリンの生活史や風俗史に関心のある人にとっては、特に興味深いだろう(残念ながら、20世紀の部門は大部分に渡って改装中)。
私がこの博物館でとりわけ見てみたかったのはこれ。一体何だと思いますか?
通称、皇帝パノラマ館(Kaiser Panorama)。
ウンター・デン・リンデンとフリードリヒ・シュトラーセの角の「皇帝パサージュ」の中にあったので、この名前が付いたのだが、ヴァルター・ベンヤミンの「1900年頃のベルリンの幼年時代」でこのパノラマのことを知っていた私は、それが一体どういうものだったのか見てみたかったのだ。
椅子に腰掛けて双眼鏡のような小窓を覗くと、ベルリンの風景写真が見える(これは立体写真なので、なかなかの臨場感がある)。しばらくそれを眺めていると、「チーン」という愛らしいベルが鳴って、「ジー、ガシャ」と音を立てながら一斉に次の写真に変わる。言ってみればそれだけのもの。時間を計ってみたところ、ある写真が現われて次の写真に変わるまでに約18秒かかる。ワンクリックするだけで一瞬にして世界中の画像(映像)が得られるネット時代の人間には、なんとものんびりしたものに感じられる。
ここで見たのはヴィルヘルム2世時代のベルリンの写真だけだったが、当時は外国の風景も映し出されたという。映画もテレビもインターネットもなく、写真さえもがまだ一般には普及していない19世紀末から20世紀初頭にかけて、人々は想像力を膨らませながら外国の様子をこんな風に眺めていたのか。そう思うと、感慨深いものがあった。
どの部屋も終始無音、がらがらな館内の中で、このパノラマ館の「チーン」と間延びした音が私には印象的だった。
家に戻り、早速ベンヤミンの「皇帝パノラマ館」のページをめくってみると、この「チーン」について触れられているではないか!(要するに今までちゃんと読んでいなかった・・)

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私の幼年時代の終わり頃には、皇帝パノラマ館が提供するようなパノラマ写真は、すでに流行に背を向けられてしまっており、私たちは半ば空っぽの館内でこの写真画面上の周遊旅行をすることに、慣れっこになっていた。(中略)

私には、本来は雑音と言うべきある小さな合図の音のほうが、あのような音楽(後の映画の音楽を指す)よりもまさっていると思われた。それはベルの音だった。画面ががくんと動く数秒前にこれが鳴って、まず隙間が現われ、それから次の風景が現われた。そしてその音が鳴り出すたびに、山々はその麓まで、町々はその鏡のように澄んだ窓という窓が、黄色い煙ともども駅が、葡萄山は最も小さな葉に至るまで、別れの悲しさに浸されるのだった。そのとき私は、そこに写っている地方のすばらしい光景を充分に味わい尽くすことは、今日一度だけではとてもできやしない、という確信を抱いた。

皆さんももし機会があったら、この「チーン」体験をしてみてください。
メルキッシュ博物館は、シュプレー川の本流と運河がぶつかる地点のすぐ近くにある。ここはいわばベルリン発祥の地とも言える界隈で、独特の情緒がまだいくばくか残っている。写真左の2本の尖塔は、ベルリン最古のニコライ教会。この辺りは、また別の機会に歩いてみることにしよう。
Märkisches Museum
Am Köllnischen Park 5
10179 Berlin – Mitte
Tel. (030) 308 66 215
最寄り駅: U2 Märkisches Museum
開館時間:10時~18時(水曜日は12時~20時。月曜閉館)
料金:4ユーロ/学割2ユーロ(水曜日は入場無料)

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6 Responses

  1. まりりん
    まりりん at · Reply

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    すごく楽しく読ませて頂きました!
    この勢いで、コメントまで、お邪魔します!笑。

    パノラマ写真って素敵ですね♪
    昔の人々の時間の流れ方は、優雅だなぁ~、と羨ましく思いました。
    (今の時代だと、確実にウラシマタロウになってしまいそうですが。。)
    また、ベンヤミンの文章が、なんとも情景が目に浮かぶかんじですね!
    私も、ちゃんと読んでいない本だらけ…なので、読み返しします。。笑。

    今度ベルリンに行ったら、「チ~ン」を聞きに、行きます!!

  2. nozomu
    nozomu at · Reply

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    皇帝パノラマ館、なんとものんびりと面白いですね!
    この時代は映画は未だ発明されていなかったのでしょうか。
    だとすると10~20年後の映画の衝撃たるやすごかったのでしょうね。

    ぜひ行って見たい博物館です。でも、ドイツ通向けの博物館のようですので英語解説が少なそう。私には厳しい (^^;

    ここには行った記憶がありませんが、ベルリン最古のレストランがこの近くにあって食事に行ったような記憶がよみがえってきました。(食べ物の記憶は鮮明です)

  3. Shuji Kamano
    Shuji Kamano at · Reply

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    7月17日にBerlinへ行くことを決めたので,楽しく読ませて頂いています.Anhalter駅のRuinを今度こそ見ようと思っています.勿論Berlin Hbfもです.

  4. berlinHbf
    berlinHbf at · Reply

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    >まりりんさん
    >ベンヤミンの文章が、なんとも情景が目に浮かぶかんじですね!
    美しい文章ですよね。ベンヤミンは40歳を越えてから、少年時代を回顧してこのエッセーを綴っているのですが、よほどあのベルの音が印象的だったのでしょうね。今回パノラマ館を体験できたことももちろんですが、あの一節を見つけたときは感激しましたよ。

  5. berlinHbf
    berlinHbf at · Reply

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    >nozomuさん
    >この時代は映画は未だ発明されていなかったのでしょうか。
    おそらくまだだと思います。あののんびりしたパノラマと、活動写真(映画)とのギャップはそれはすさまじいものがあったはずです。
    >英語解説が少なそう
    言い忘れていましたが、英語表記はちゃんとありますので、ご安心ください^^;)それにも関わらず、日本のガイドブックにはほとんど無視されているのが、とても残念な博物館です。

    >ベルリン最古のレストランがこの近くに
    "Zur letzten Instanz"ですね。1621年創業とかで、なかなか雰囲気があります。

  6. berlinHbf
    berlinHbf at · Reply

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    >Kamanoさん
    コメントありがとうございます。ベルリンにいらっしゃるのですね。
    >Anhalter駅のRuin
    最近改修されて、きれいになりました。
    中央駅の開業もいよいよ迫ってきましたね。5月27日には、南北に結ぶ線が無料で体験できるそうで、こちらも楽しみです。

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