天使の降りた場所(3) – ベルリン国立図書館 –

Staatsbibliothek zu Berlin(9月4日)
「ベルリン・天使の詩」を見て、図書館のシーンを覚えていない人はいないと思う。荘厳な雰囲気と神秘的な音楽によって、「ベルリン・天使の詩」という映画に一種独自の効果を与えていた。
今回はその舞台、ポツダマー・シュトラーセにある国立図書館を取り上げてみよう。私がこの図書館の中に入るのは久々だった。といっても今回は勉強目的ではなく、どちらかというと不純な動機によるものだから、怪しまれないように細心の注意を払いつつ(笑)中に入る。
ベルリン国立図書館はハンス・シャロウンによって設計され、1978年にオープンした。シャロウンはこのすぐ向かいに建っているフィルハーモニーを設計をした人でもあるゆえ、内部の雰囲気や柱や階段の作りなど、フィルハーモニーと非常によく似ている。私が初めてベルリンに来た時のことだが、運河沿いの通りを歩いていて黄金色に輝くこの図書館が遠くから視界に入った瞬間、あれこそがフィルハーモニーに違いないと勝手に思い込んだものだ。ウンター・デン・リンデンにあるもう一つの国立図書館と並んで、ベルリンの人には”Stabi”(シュタービ)の愛称で親しまれている。
ここからのカットは、「ベルリン・天使の詩」の後半、天使たちがたむろう図書館の夜のシーンで出てくる。あのシーンは神秘的でちょっとこわかったけれど。
図書館の中は、当然ながらというべきか、20年前と基本的に何も変わっていなかった。撮影に使われた場所も比較的簡単に見つかり、それらのシーンの雰囲気に浸ることができた。
天使ダミアン(ブルーノ・ガンツ)とカシエル(オットー・ザンダー)は人々の声に耳を傾けるべく、国立図書館に現れる。というよりも、天使たちはこの図書館を住処にしているという設定らしい。いろいろな天使が出てくる。
国立図書館はもともとヴェンダースのお気に入りで、この中で撮影することを前提に映画のコンセプトを考えていたらしい。ところが、撮影許可がどうしても下りない。とうとうベルリン市長まで介入した結果、閉館日である日曜日に撮影できることになったのだとか。「毎週日曜日に撮った、この図書館でのシーンは忘れられない」と、ヴェンダースと映画の脚本を書いたペーター・ハントケは語る。
机に向かう人々の様子を覗き込むこのおっさんも、実は天使。
ほぼ同じ場所から。
この手すりに手をかけて、瞑想に浸るダミアンの表情が実に印象的だった。
数年前、私の古くからの友達で、やはり「ベルリン・天使の詩」が好きな友達(かなりの読書家)がベルリンを訪ねてきたことがあった。彼がこの図書館の中を見学した後、ため息混じりに私に言ったことを思い出す。
「こんな場所でベンヤミンやゲーテを読んだら最高だろうなあ」
同じようなことはヴェンダース自身も語っている。
「本を借りるためだけに図書館に駆け込むということがよくあるが、この図書館ではゆっくり座って本を読みたいと思うことができる。本を愛する者によって設計されたすばらしい建築だ」
私のブログもこの中で書いたら、また違ったものが生まれるかもしれない。
なんて・・
これはダミアンと詩人ホメロスがすれ違う階段。
詩人ホメロス(クルト・ボイス)はここに腰掛けて、人生について語る。クルト・ボイスは名脇役だった俳優で、1941年の映画「カサブランカ」にもわずか10秒ほどだが登場するらしい。「この映画を撮影した時、クルトは90歳を超えていた」とヴェンダースは語るが、1901年生まれらしいので、これはおそらく間違いだろう。クルト・ボイスは1991年にベルリンで亡くなっている。この人については、ポツダム広場のところでまた触れることになるだろう。
それにしても何と絵になる空間だろうか。机に向かっている一人一人が俳優に見えてきてしまうほどだ。この図書館がヴェンダースの想像力を刺激したのも納得できる。

図書館の外に出ると美しい夕暮れが広がっていた。正面の建物はマタイ教会。
Staatsbibliothek (Haus Potsdamer Straße)
Mo-Fr 9-21 Uhr
Sa 9-19 Uhr
1ヶ月パス 10 EUR, 年間パス 25 EUR
昔は1日券もありましたが、去年なくなってしまったようです。



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12 Responses

  1. mchn22lecker
    mchn22lecker at · Reply

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    こんにちは!また遊びに来ました。

    ちょっと気付いた事を・・・・・
    5枚目と6枚目に映っている女性、それぞれ違う人だとは思うのですが、Kopftuchをしていて風貌がとても似ているので、最初に見たときにドキッとしてしまいました(笑
    こんな偶然も含め、映画は今でも生きているんだな、と今日の記事で改めて思うことが出来ました。

  2. 焼きそうせいじ
    焼きそうせいじ at · Reply

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    この映画、私にとっても思い出深いです。92年ごろに今はなきリブロポートから『ベルリン・壁のあとに』という写真集が出ました。ヴェンダースが序文を書いています。英・独・日併記という翻訳者にとって針の筵のような本でしたが、友人が作った本だったので、どさくさにまぎれて私が訳してしまいました。ヴェンダースの文章はなかなか印象的でした。もう手には入らないと思いますが。

    さて、いくつ目になるか分りませんが、天使が降りた中で一箇所発見がきわめて困難な場所があります。見つかりそうですか?私も正確には知りませんが、あのあたりらしいという見当はつきます…。

  3. akberlin
    akberlin at · Reply

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    すばらしい!同じ場所を探して撮った写真、感動です。
    実は一日券がないので入ったことがないんです。
    相方は年間パス保持者ですが・・・。
    この前、相方が借りっ放しの本を返しに行かされて延滞料を
    払った時も中までは入れず。本当に映画そのままですね。
    心の声を聞くことの出来る天使が集う場所・・・。
    やはりベルリンにいるうちに行っておかなくては。

  4. MOTZ
    MOTZ at · Reply

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    わー素敵。照明の配置が素晴らしいですね。ドイツ語の本を
    すらすら読めるならぜひここでじっくり調べ物などしてみたいです。
    天使に覗きこまれる気分になれるかな?
    映画の世界に浸るため白黒に見えるメガネがあったらかけて入りたいです。

  5. berlinHbf
    berlinHbf at · Reply

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    >mchn22leckerさん
    >5枚目と6枚目に映っている女性、
    おもしろいところに気付かれましたね!これはもちろん偶然ですが、私もカメラを構えた時、おおーって思いました。私の写真に写っているのは、まだ大学生ぐらいの年齢の方でしたが。この映画にはKopftuchをかぶった人が結構と出てきますよね。トルコ語のシーンもあるし。

  6. berlinHbf
    berlinHbf at · Reply

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    >焼きそうせいじさん
    >リブロポートから『ベルリン・壁のあとに』という写真集
    タイトルを検索してみましたが、残念ながらヒットしませんでした。気になる写真集です。焼きそうせいじさんは、いろいろなことをされていますね。

    >天使が降りた中で一箇所発見がきわめて困難な場所があります
    もしよかったら、それがどういう場所なのか教えていただけないでしょうか。主要なシーンはほぼ全部判明しているのですが、短いシーンなどわからない場所はまだ少なからずあります。何らかのお役に立てればいいですが。

  7. berlinHbf
    berlinHbf at · Reply

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    >akberlinさん
    あ、まだベルリンにいらっしゃったんですね!ここは観光名所ではありませんが、わざわざ入る価値のあるところだと思います。昔は1日券が50セントで買えたそうですが、あれがないとちょっとつらいですよね。私のカードを貸したいところですが・・

  8. berlinHbf
    berlinHbf at · Reply

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    >MOTZさん
    >ドイツ語の本をすらすら読めるならぜひここでじっくり調べ物など
    私もせっかくだから、この図書館をもっと活用しようかなと思っています。

    >映画の世界に浸るため白黒に見えるメガネがあったら
    すてきな発想ですね(笑)。あのシーンは本当にモノクロならではですものね。

  9. 焼きそうせいじ
    焼きそうせいじ at · Reply

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    すみません「壁のあとに」ではなく「壁のあとで」でした。今なら「に」とつけるでしょうが、あのころはまだ日本語に疎かったのです(笑)。

    発見困難と思われるのは、「2枚の壁の間」です。ただ、いま手元にDVDがないので、怪しげな記憶が頼りですが、あれは舞い降りた場所ではなく、人間になった場所でしたっけ…。

  10. berlinHbf
    berlinHbf at · Reply

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    >焼きそうせいじさん
    >発見困難と思われるのは、「2枚の壁の間」です
    天使が間に入っている2枚の壁は、ヴェンダース曰く映画用に作ったものだそうです。だからこの場所は西のどこかということになるのでしょうか。その直後、ダミアンは人間になりますが、これはクロイツベルクのWaldemarstraßeですね。

  11. 焼きそうせいじ
    焼きそうせいじ at · Reply

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    86年か87年のことです。テンペルホーフからダーレムへ通っていた友人が、壁際で映画を撮っていたと話をしてくれました。本物の壁とセットを組み合わせて、本物もカメラに収まるように作っていたというのです。数年後にあの映画を見て、このロケだったに違いないと思いました。

    したがって、2枚の壁のシーンは、アンハルター駅近辺の壁沿いのどこかじゃないかと思います。

  12. berlinHbf
    berlinHbf at · Reply

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    >焼きそうせいじさん
    >本物の壁とセットを組み合わせて、本物もカメラに収まるように作って
    なるほど!このシーンはよくできていて、本物の壁(?)からセットの壁に移る境目がよくわからないのです。なので、実際に本物の2枚の壁の間で撮られたかのような印象を受けてしまいます。

    >アンハルター駅近辺の壁沿いのどこか
    どこでしょうね。あとでこのシーンをもう一度よく見てみようと思います。

    考えてみたら、この映画はまさに焼きそうせいじさんがベルリンに滞在されていた時期に撮られたのですよね。街のどこかで撮影現場に遭遇していた、なんてこともありえるわけです。

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