イギリス人のロジャー・ノリントンが久々にベルリン・フィルの指揮台に立つ、しかも曲はバッハの大作「ロ短調ミサ曲」ということで、前から楽しみにしていたコンサート(13日。フィルハーモニー)。私がこの曲を生で聴くのは、ちょうど10年前の秋、ガーディナー指揮イギリス・バロック管の来日公演をつくばのノバホールで聴いて以来だ。ちょうど私がバッハの宗教曲に興味を持ち始めた頃で、それを知った茨城在住の叔父がチケットをプレゼントしてくれたのだった。
まず舞台を見て少しびっくり。オケの編成がとても小さい。コントラバスは2本という、おそらくこの曲を演奏する上で最小限の編成ではないだろうか。弦楽器は指揮者を囲むように半円形に並べられる。ノリントンは合唱主体の曲では立って指揮するが、それ以外のアリアは楽団員と同じタイプの椅子に座って指揮。「バッハのハ短調ミサ」という西洋音楽屈指の傑作を聞く覚悟を決めてやって来た聞き手としては、少々肩透かしをくらってしまうような、そんな親密な雰囲気が舞台上にはあった。
この日のコンサート、私が一番感動したのは後半のクレドだった。クレドの中心には、キリストの生誕-磔刑-復活を表現した3曲が置かれているのだが、キリストの死の苦悩とその後の爆発的な歓喜との対照は真に鮮やかだった。そして、サンクトゥスからは合唱が2部に分かれ、次のホザンナからは何と8声の超技巧的なフーガになる。バッハといえどもこんなにも輝かしくて、心躍る音楽が他にあるだろうか、とさえ思ってしまったほど。合唱(リアス室内合唱団)は文句なしの出来だったのではないだろうか(逆に4人の歌のソロがあまり印象に残らなかった)。また、ソロが多いこの曲でベルリン・フィルの奏者はさすがの名人芸を聴かせてくれたが、とりわけトランペットのソロ(タマシュ・ヴァレンツァイ)が合奏に交わる時の、音のシャワーを浴びるかのような心地よさと言ったらなかった。また、オーボエ・ダモーレ(マイヤー)の甘美な響きと、全体で一曲しかないホルンソロ(バボラク)の名人芸も忘れがたい。
久々に見たノリントンの指揮振りは眺めているだけでおもしろかったが、特に今挙げたような合唱部分での全身を使っての歓喜の表現の仕方は尋常ではなかった。長い腕を存分に使った身振りの他、いきなりタップを踏み始めたり、客席の方を向いて意味深な表情を浮かべたりと、何だか子供がはしゃいでいるみたい(笑)。
バッハの偉大な作品に触れたというよりはむしろ、この音楽が内包するエネルギーやリズムの豊かさ、輝かしさに触れたという感の強い演奏会だった。いつか別の機会に、今度は違うタイプの演奏でロ短調ミサ曲を聴いてみたいと思ったけれど、久々にこの偉大な音楽に触れることができてうれしかった。
PHILHARMONIE
Fr 13. Okt 2006 20 Uhr
Berliner Philharmoniker
Sir Roger Norrington DIRIGENT
Susan Gritton SOPRAN
David Daniels COUNTERTENOR
John Mark Ainsley TENOR
Detlef Roth BARITON
RIAS Kammerchor
Hans-Christoph Rademann EINSTUDIERUNG
Johann Sebastian Bach Messe h-Moll BWV 232
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あ~いいですね!
フィルでの光景が頭の中に広がりました。
ちょっぴり現実に味わったかのような気持ち。
ごちそうさまでした~(笑)
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>Sacmacさん
>ちょっぴり現実に味わったかのような気持ち。
そう言ってもらえるとうれしいですが、聴いた音楽の印象を伝えるというのは、本当に難しい!
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初めまして。6月にベルリンを初訪問いたしまして。
その前後から拝見しております。
ベルリン滞在時は、日程上ガイドツアー参加だけで演奏は聴けませんでした。
私も、自分がその場にいるかのような気持ちで楽しく読ませていただきました。これからもベルリン情報よろしくです。
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>Satoさん
コメントありがとうございます。
ブログ拝見しました。ワールドカップの頃のベルリンの風景がずいぶん昔のことに感じられました。こちらは大分寒くなってきましたからね。Dussmannにも行かれたのですか。何か面白いものが見つかりましたでしょうか。
これからもどうぞよろしくお願いします!
よかったらまた書き込んでくださいね。