ロマン派の交響曲2題 – ラトル指揮ベルリン・フィル –

サイモン・ラトルとベルリン・フィルのコンビによる、意外とお目にかからない、だが素敵なカップリングによるロマン派の交響曲2曲を聴いた
(10月20日。フィルハーモニー)。
前半はシューマンの交響曲第4番で、珍しい初稿版である。コントラバスはわずか4本という中規模の編成。一緒に聴いていた友達の話によると、シューマンのオーケストレーションでは木管楽器が埋もれてしまうことが多いため、響きのバランスを考えての配置ではないかとのことだった。冒頭の一音から、深い呼吸に満たされた実にいい響きがした。ラトルの手綱のかけ具合が絶妙で、オケの自発性にゆだねつつも、要所ではぐいぐい引っ張り、全曲を一気に聴かせたという感じ。この初稿版というのは、後の版に比べるとどうしても響きの薄さが否めないところはあるのだが、それでもこの第4番はシューマンの交響曲の中で私は一番好きな曲かもしれない。抜群の推進力で突き進む4楽章が終わると、心地よい疲労感が残った。
メインはブルックナーの交響曲第4番「ロマンティック」。コントラバスの数は4本から一気に9本、つまり18型の大編成へと変わる。2年前に同じ組み合わせで聴いたときは16型だったが、これがラトルのやりたかった編成のようだ。実を言うと、この「ロマンティック」、後期の交響曲に比べて私は昔からそれほど好きな曲ではない。だが、曲に対する評価が変わってしまうほどすばらしかったのがこの夜の演奏だった。1楽章の冒頭、シュテファン・ドールによるため息が出るような完璧無比なソロの後、弦が重なり合い最初のクライマックスに達するところで、私の心はもう完全に掴まれた。2楽章では「こんなにも魅力的な音楽だったのか」と気付かされたし(あの美しいビオラとチェロ!)、続く3楽章では何回も押し寄せる弦楽器のさざなみに心が涌き踊る。私は後ろの方で立って聴いたのだが、楽章ごとに大変な重量感があるので、楽章が終わる度にその場で軽くストレッチ体操をしたりと、聴く側も体力勝負になってくる。だが、重量感といえば、4楽章に勝るものはないだろう。あくまでも悠然とした歩みで、しかし確実に一歩ずつ山を上り詰めていく。最後、頂上から仰ぎ見たその音風景の神々しいまでに壮観だったこと。
村上春樹のエッセーで「ときどき無性にステーキが食べたくなる」という文章があるが(村上朝日堂)、この夜のコンサートを聴き終えた私はまさにそのような気分だった。ブルックナーといいワーグナーといい、米やそばが主食の文化からは絶対生まれ得ない音楽だなと、そんなカルチャーショック(?)まで感じてしまった。私は立って聴いたが、おそらく座って聴いているだけでもかなりのエネルギーが消費される音楽だろう。それでいて一方では、すがすがしい気分にもなった。
久々にブルックナーを満喫した一夜。すばらしかった。
Berliner Philharmoniker
Sir Simon Rattle DIRIGENT
Robert Schumann Symphonie Nr. 4 d-Moll op. 120
(1. Fassung)
Anton Bruckner Symphonie Nr. 4 Es-Dur »Romantische« (Fassung von 1878/80)



Facebook にシェア
LINEで送る
Pocket



4 Responses

  1. pfaelzerwein
    pfaelzerwein at · Reply

    SECRET: 0
    PASS:
    私は二年前?の演奏をバーデンバーデンの授賞式で四年前ほどに聞いていますが、このオーケストラとしては半世紀に数回ほどの名演であったのを覚えています。この組み合わせの演奏は、カラヤン時代を完全に乗り越える音楽性に立ち戻ることがあるようです。どちらかと云えば室内楽的な知的な演奏でしたが、今回はまた違うようですね。

  2. mecien
    mecien at · Reply

    SECRET: 0
    PASS:
    ベルリン滞在を終える日から始まるので、聴きそこねたラトルのベルリンフィル、残念でしたが感想が読めてうれしい。それで、ステーキは食べたんですか?

  3. berlinHbf
    berlinHbf at · Reply

    SECRET: 0
    PASS:
    >pfaelzerweinさん
    >このオーケストラとしては半世紀に数回ほどの名演
    pfaelzerweinさんにこのように言わしめるとは、本当にすごかったのですね。私は残念ながらカラヤン時代のこのオケは生で聴いたことはありませんが、このコンビは確実に成果を上げてきていると思います。

    >どちらかと云えば室内楽的な知的な演奏でしたが、今回はまた違うよう>ですね

    そうですね。いわゆる巨匠風のうねるような演奏とでも言えましょうか。ラトルのドイツ・レパートリーとしては、ピカイチの成果だったと思います。今回のブルックナーはレコーディングもされたようです。

  4. berlinHbf
    berlinHbf at · Reply

    SECRET: 0
    PASS:
    >mecienさん
    帰国早々のコメントありがとうございます!今回は日程が合わずに残念でしたが、またきっと機会があると思います。

    >それで、ステーキは食べたんですか?
    ポツダム広場のファミレス風のレストランで食べましたよ!
    ちなみにmecienさんにベルリンでいただいた「柿の種」は、いまだにおいしくいただいております^^)。

Leave a Reply to mecien Click here to cancel reply.

CAPTCHA