代役マルタ・アルゲリッチ!

つい先日、Berliner Zeitung紙の文芸欄をざっと眺めていたら、小さな記事が目に止まりました。「DSO(ベルリン・ドイツ響)のコンサートで、プロコフィエフのピアノ協奏曲を弾く予定だったキーシンがキャンセルのため、アルゲリッチが代役を務める。デュトワとアルゲリッチは最近ツアーで共演したばかりだった」という内容でした。それを読んで「ウソだろ?」と思った人は少なくなかったのでは。現在最高のカリスマピアニストの1人、マルタ・アルゲリッチが直前でキャンセルすることはあっても、代役で登場するなんてまずないはずですから。とにかく、何とか都合を付けて聴いてきました。5月のベルリン・フィルとのラベルに続く、2度目の生アルゲリッチです。
あの新聞記事その他で聞き知ったベルリンの音楽ファンがフィルハーモニーに殺到して、2公演とも完売に違いないと思っていましたが、実際は意外にも空席が目立っていました。なんともったいない・・・
アルゲリッチは1941年生まれだそうですから、今年で66歳。大分太っているように見えたし、ゆっくりと舞台に登場する姿を遠くから眺めて、若い頃の写真のイメージが強かった私としてはある種の感慨を禁じ得ませんでした(それにしても、演奏前なのに拍手がなかなか止みません)。しかし、なんと見事な演奏だったことでしょう。無類のパッションと大胆不適な精神の飛翔!冒頭から息つく暇もなく、あっという間に別世界へと連れて行かれました。どんな早いパッセージでも1つ1つの音がクリスタルのように明瞭で、叙情的な部分では青白い炎のように冷く輝いていながら、同時にほのかに暖かい。最近CDでよく聴く、フリードリヒ・グルダの弾く平均律のすばらしいフーガを思い出しました。なるほど、音楽は全く違いますが、あの2人は確かに師弟関係にあったのだと思いました。こんな魔法のようなプロコフィエフが生まれたのも、信頼するデュトワのサポートがあったからこそかもしれません(5月のラベルはその点でやや不満が残ったのです)。ところで、アンコールに弾かれた早い曲のタイトル、どなたかご存じないでしょうか?
メインのベルリオーズの「幻想」はデュトワの自家薬籠中のレパートリーなので、悪かろうはずがなく、オケは高い集中力のもとに一丸となった演奏を聴かせました。この曲、実演で聴く機会が今までほとんどなかったのですが、嵐の場面の4人のティンパニとか、他の木管は2本なのになぜか4本のファゴット、コールアングレと舞台裏のオーボエの掛け合い、5楽章の鐘など、視覚的にも相当見ごたえがあります。DSOはメッツマッハーの監督就任後、プログラムが凝り過ぎて客足が遠のきがちと聞いていましたが、彼らにとっても久々に会心の演奏だったのではないでしょうか。
こういうコンサートだっただけに、終演後の舞台裏は熱気でムンムンしておりました。
Deutsches Symphonie-Orchester Berlin
Charles Dutoit Dirigent
Martha Argerich (für den erkrankten Evgeny Kissin) Klavier
Hector Berlioz
Ouvertüre zur Oper Béatrice et Bénédict op. 27
Sergej Prokofjew
Klavierkonzert Nr. 3 C-Dur op. 26
Hector Berlioz
Symphonie fantastique op. 14

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9 Responses

  1. seoni
    seoni at · Reply

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    Evaも今シーズン最高って言ってましたよ。
    ドゥトワはとても気さくな人でした。ブログ参照。w

  2. akberlin
    akberlin at · Reply

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    クラシックに疎い私でも聞いたことのある名前の指揮者と
    ピアニストです。素晴らしい演奏だったとのこと、うーん、
    うらやましい!

  3. berlinHbf
    berlinHbf at · Reply

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    >seoniさん
    ブログ見ました。デュトワは上機嫌だったんですねえ。僕は後からアルゲリッチのサインをもらっておけばよかったと、ちょっと後悔しました。またいつか聴ける機会があるといいなあ。

  4. berlinHbf
    berlinHbf at · Reply

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    >akberlinさん
    デュトワはN響の指揮者だったから、日本にも馴染みはありますよね。アルゲリッチとは結婚していた時期があり、今でも音楽上は信頼しあえるパートナーのようです。

  5. isaogermany
    isaogermany at · Reply

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    はじめましてです。
    BSO、デュトワ、アルゲリッチの競演とは贅沢な演奏会だったのですね。キーシンも好きなピアニストなので、どっちも聞いてみたいなぁ。
    しかしメッツマッハーはDSOでも人気無いのですね。ハンブルク時代に何度か聞いていますが勘弁してくれっていう演奏でした・・・。北ドイツ放送響のドホナーニも結構ひどくて失望してばかりなのですが。

  6. berlinHbf
    berlinHbf at · Reply

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    >isaogermanyさん
    はじめまして!
    メッツマッハーになってから、DSOのコンサートの客の入りは確かにあまりよくないようです。彼自身がベルリンではまだあまり有名でないのと、プログラミングに聴衆が付いていけてないということに原因がありそうです。その点、前任のケント・ナガノは安定した人気がありました。

    まああれこれ言うよりも、今度メッツマッハーのコンサートを聴きに行こうと思っています。

  7. momidori
    momidori at · Reply

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    こんにちは。私もこのニュース車の中で聞いて、嘘だろう!と一人で叫びましたね。しかし彼女は私にとっても懐かしい人で、ポゴレリッチのような息子に近い弟子とカップルだとか、散々のドタキャンストーリーに、あのピアノ解釈で、それは激しい気性の人で、扱いにくいだろうなという印象だったんですが、それが代役ですよね。文中でも、感慨深いと書いていらっしゃいますが、私もそれは理解できます。
    続く

  8. momidori
    momidori at · Reply

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    続き
    それにしても、音楽批評が、国文学的文章ともいえるほど、洗練されていますね。Feuilletonを読んでいるようで素晴らしいです!グルダはモーツァルトもそうなんですが、本当に解析されたような解釈を見事に芸術として生み出し、素晴らしい演奏をしますね。あの人の演奏を聞くと、いつも音楽にも感動しますが、楽譜が明瞭に浮かび上がり、バッハなどでは、気づかなかった旋律がふつふつと浮かび上がってくるというようなことも起こりますよね。
    しかしながら、アルゲリッチの音楽も、さらに深みを増したようで、やはりすぐに別世界ですか。たまりませんね。
    コンサート会場にいて、実際演奏者を見つめていても、意識がすでに別の扉を開けている感覚を味わえた時には、本当に音楽を聴いた気持ちになりますが、なかなかそこまでの演奏家もざらにいませんね。
    私も、ベルリンにいますが、なかなか子供に追われてコンサートに行かれません。このような情報で、疑似体験。楽しいです。

  9. berlinHbf
    berlinHbf at · Reply

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    >momidoriさん
    ご無沙汰しております。コメントありがとうございました。
    お褒めの言葉をいただきうれしいのですが、聴いた音楽について書くのは実は全然得意ではないのです。他のこと、例えば自分の訪れた場所について書くときは、何をどういう順序で書こうかということが大体すぐに頭に浮かんでくるのですが、音楽の場合は「書き出しをどうするか?どういう表現を使えば音楽の印象が伝わるか?」ということで本当に悩みます。でも、だからこそこういう感想をいただくとうれしいですし、やりがいもあるジャンルなのかもしれません。

    momidoriさんもグルダがお好きですか!最近リマスターされた平均律の特に第1巻は本当にすばらしいと思いました。あと、最近発掘されたモーツァルト、これも絶品なのでよかったらぜひ聴いてみてください。

    また楽しく疑似体験していただけるようにがんばります!?

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