クロイツベルク時空散歩(2) – かつての壁に沿って歩こう –

クロイツベルクの街角にて(1988年夏。メヒティルトさん所蔵の写真より)
この日メヒティルトさんにクロイツベルクを案内してもらう数日前、私は彼女の自宅で1988年に撮ったという壁の写真を何枚か見せてもらった。上の写真はまさにこの辺りで撮ったものだという。歩道にめり込んで壁が無理矢理建てられた状況がよくわかる。過去の写真と現在の様子を見比べて、何が見えてくるだろうか。
ベルリンの代表的な都市文学「ベルリン・アレクサンダー広場」の著者にちなんだA.デーブリン広場には何度か来たことがあるが、この辺りはいつも閑散としている。かつて壁の緩衝地帯だったところもほとんどが空き地のままで、時代の名残を残している。広場の一角に、”Markthalle”と書かれた古いマーケットホールを見つけた。今はもちろん使われていないが、戦前は賑やかな界隈だったのかもしれない。
さて、それでは壁に沿って歩いてみることにしよう。
18年前まで、この歩道の左淵に沿って壁が建っていた。ここを歩きながら、メヒティルトさんが「ちょっと見てごらん」という風に歩道の敷石を指差した。その瞬間私はあっと思った。前回ルッカウアー通りでメヒティルトさんが「100年前の敷石」と教えてくれたものと全く同じ石の並び方だったからだ。戦争で建物が壊滅的な被害を受けても、ここに沿って壁がそびえた分断時代の30年を経ても、路上の敷石は100年前と変わっていなかった。そして石の敷き方から、かつてここが建物の出口付近で、人々の生活が営まれていたことを確かに物語っていた。それはある日突然終わりを迎えたのだ。
この路上が戦争と壁の残酷さを静かに語りかけているような気がして、私は軽い身震いを覚えた。
この先はドレスデン通り。手前が西側で奥が東側になる。
「この前見せた路面電車の線路の上に壁が築かれている写真、覚えている?あれはちょうどここで撮ったのよ」とメヒティルトさん。
その時見せてもらった写真がこれ。繰り返すが、かつてここには生活があったのだ。路面電車は人々の生活を乗せて走っていた。
ところで、左下に写っている階段らしきもの、この写真は何かの高台から撮ったのだろうか?
この写真を見て、私はある映画のワンシーンを思い出した。1986年に撮影された映画「ベルリン・天使の詩」で、人間になった天使ダミアンがA.デーブリン広場の方向を一瞬見るシーンがある。上の写真はこの見晴台から撮られたものに違いない。
ここから先については、「ヴァルデマー通りの壁 - 天使の降りた場所(19) –」で一度書いているので、よかったらご参照ください。
この場所はこれからどうなるのだろうか。戦争と壁の時代が残した空き地を横目に見ながら、私はぼんやりと思いに耽っていた。
(つづく)
参考:
ヴァルデマー通りの壁 - 天使の降りた場所(19) –

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8 Responses

  1. gramophon
    gramophon at · Reply

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    敷石に以前の生活の跡が残っていたとは全く気付きませんでしたね。壁がある日突然できたことがよくわかります。

    敷石はわざと残そうという意図はなかったかも知れませんが、かつての自分の職場近く、カイザー・ヴィルヘルム記念教会にしても、戦争の傷跡を残して教訓とし、常に正面から過去を見据えようという心意気は天晴れとしか言いようがありません。

    空き地の利用は、きっと長い論議の末にいい使われ方をするんだと思います。

  2. kawazukiyoshi
    kawazukiyoshi at · Reply

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    ベルリン
    過ぎ去ったまま残っている影があるんですね。
    貴重なブログです。
    ありがとう。

  3. berlinHbf
    berlinHbf at · Reply

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    >gramophonさん
    >カイザー・ヴィルヘルム記念教会
    次回次々回と、この教会と同じ意図で残されている別の教会が登場します。正面から見ただけでは全くそれとは気が付かなかったのですが・・

    あの空き地はどうなるのでしょうね。まだしばらくは空き地のままでいてほしいなという気もします。

  4. berlinHbf
    berlinHbf at · Reply

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    >kawazukiyoshiさん
    コメントありがとうございます。
    一見何でもないんですが、こういう歴史の痕が残っている場所に私はどうしても惹かれるものを感じてしまうので、今回はちょっと詳しく書いてみました。5年後はどうなっているかわかりませんし、今を記録するという意味でも。

  5. Ken
    Ken at · Reply

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    「壁以前、壁、壁後」を知る石は、中身が詰まってて、「質量」があるのですね。
    石をテーマのひとつとする、知り合いの彫刻家を思い出しまいた。
    http://www.todoweb.jp/index.html
    ↑ベルリンの壁を使った作品もあります。

  6. 鮭
    at · Reply

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    ベルリンには歴史の痕がいっぱい残っていますね。
    それも100年も前のものではなく、つい十数年前のもので。
    壁痕を見ると、なんとなく切なくなってしまうのは何故でしょう。

  7. berlinHbf
    berlinHbf at · Reply

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    >Kenさん
    石がテーマの彫刻作品、興味深いですね。あの路上の石も、私には一つの「作品」にすら見えてきてしまいます。

  8. berlinHbf
    berlinHbf at · Reply

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    >鮭さん
    >壁痕を見ると、なんとなく切なくなってしまうのは何故でしょう。

    私もそういう気分になるときがあります。それはベルリンという街で共通して感じる何かかもしれません。

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