ドイツニュースダイジェストでこの9月から、「ベルリン 音のある街」という新連載を月1で持たせていただくことになりました。紙面のスペースから掲載できなかった写真も含めて、ここに転載します。「音のある街」というちょっと不思議なタイトルにしたのは、ホールや劇場で奏でられる音楽だけでなく、ひょっとしたら音楽とは言えないかもしれない音も含めて、もうひとつのベルリンを描いてみたいと思ったからです。
ヨーロッパの響きというと、私はまず教会の鐘の音を思い浮かべる。それは除夜の鐘に代表されるようなお寺の単音の鐘と決定的に異なり、音の高さの異なる複数の鐘が同時に鳴り響く本質的にポリフォニック(多声的)な世界である。初めてヨーロッパを訪れた際、知らない街で聞いた教会の鐘の音は、自分がいま異文化の地にいることを心から実感させてくれた。
さて、ベルリンに数ある教会の中で私の最も好きな鐘の音は、カイザー・ヴィルヘルム記念教会のものである。にぎやかなクーダムの通りを歩いていて、ふとあの壮大ともいえるハーモニーが聞こえてくると、ときには立ち止まって聞き入ってしまう。戦争の惨禍を今に伝えるこの教会の鐘の響きは、私にはベルリンという街の音を何か象徴しているように思われてならない。「ベルリンと音、あるいは音楽」をテーマにしたこの新しい連載は、まずここから始めることにしたい。簡単にこの教会の鐘の歴史をひも解いてみよう。1895年の教会設立当時のオリジナルの鐘は、実はプロイセンがその前の普仏戦争で戦利品として獲得した大砲を溶かして作ったものだった。5つの鐘の中には当時ドイツで最大の鐘もあったというから、一体どんな響きがしたのだろうか。しかし、第2次世界大戦がこの教会の運命を根こそぎ変えてしまう。当時ほかの多くの教会でそうであったように、銅の鐘は武器に作り変えるため再び溶かされ、教会自体も1943年11月23日の連合軍の爆撃によって、一夜にして廃墟と化してしまったのだ。
戦後、破壊された教会を取り壊すか保存するかで激しい議論が繰り広げられた結果、エゴン・アイアマンの案が採用されることになった。戦争への警告碑として残された廃墟の塔屋部を囲むようにして、八角形の教会堂と六角形の幾何学的な塔が新たに建てられた。6つの新しい鐘は、この細長い塔の上部3段に分けて吊り下げられている。中でも5600キロの最大の鐘には、「街は焼け落ちた。だが、私の救いはいつまでもすたらない。私の正義が終わりを迎えることはないだろう」という旧約聖書のイザヤ書の一節が刻まれているのが象徴的だ。
同教会のマルティン・ゲルマー牧師によると、この鐘の響きから受けた感銘を伝えてくる人は少なくないという。また毎週金曜日13時からの和解の祈りは、「今お聞きになったあの鐘の音が平和の祈りへと誘います」と、訪れた人々に語りかけてから始めるのだそうだ。
記念教会の鐘が鳴るのは、毎日13時、17時半、18時のそれぞれ約8分前から。日曜日は礼拝の始まる10時と18時の2回。通常は5つの鐘のみで、6つ全部が鳴らされるのはクリスマスや復活祭など特別な祝日に限られるのだという。実際に鐘を鳴らすところも見せていただいたが、壁に設置された6つのスイッチを順々に押していくだけだったのは少々意外だった。ベルリンを訪れる際は、平和への願いが込められたこの遥かなる響きにしばし耳を傾けてはいかがだろう。
(ドイツニュースダイジェスト 9月7日)
この記事を読んで、記念教会の鐘を聞いてみたいと思った方へ:
こちらの教会のHPにアクセスしてください。”Glockengeläut der alten Kirche”の傍線の箇所をクリックすると戦前の鐘の音が、そして”Glockengeläut der neuen Kirche”をクリックすると、現在の鐘の音を一部聞くことができます。
SECRET: 0
PASS:
フライブルクからの夜行列車でツォー駅に着いて、
最初に見に行ったのがこの教会でした。教会内部の青い光と
Spendeのための赤いリンゴのことを思い出しました。
「青い空間に赤いもの」というのが印象的だったのです。
>壁に設置された6つのスイッチを順々に押して
ホントに意外ですね。まさか今日日、人力とは思わなかったけど。。。
でもフライブルクのミュンスターの鐘も自動で鳴ってたなあ。
SECRET: 0
PASS:
「ベルリン 音のある街」 音楽にかかわる私にはとってもとっても楽しみです~~♪ HPから昔と今の鐘の音を聴きました。
昔のひくい落ち着いた音も素敵ですね。
これから私もきっとそれぞれの教会の鐘の音の違いに耳を澄ましそうです。
私も未だに教会の鐘の音は大好きですが、日本からたまに来る母はいつもものすごく感動しています。なじみがないもんね。
SECRET: 0
PASS:
新連載とても楽しみです。そういう切り口もいいですね♪
教会の鐘の音ですが、数年前に訪れた時に偶然聞くことができました。
心が清くなっていくような気がします。
SECRET: 0
PASS:
数日前にミュンヘンのレストランでこの記事の載ったニュースダイジェストを見つけて読んだよ!ニュースダイジェストって初めて見たけど、結構いろいろ載ってておもしろいね。
「音のある街」かー、いいじゃない、いいじゃない。楽しみにしてるよ。
SECRET: 0
PASS:
>Kenさん
新しい教会堂のブルーは本当に印象的ですよね。はじめてだったらなおさら印象も強かったことでしょう。
鐘は毎回手動で鳴らされるのとも思っていませんでしたが、まさかスイッチを下ろすだけだったとは・・・ちょっとばかり夢が打ち砕かれたような気分でした^^;)
SECRET: 0
PASS:
>Pukuさん
ご感想ありがとうございます。これからどういう展開になるか、自分自身この連載をとても楽しみにしています。鐘の音というのは、ちょっと意識して聴くといろいろな発見がありそうですね。自分のアパートにも届く近所の教会の鐘は、単音で素朴な響きがします。日本のお寺の鐘にもまたじっくり耳を澄ましてみたいですね。
SECRET: 0
PASS:
>Kaorintanさん
ありがとうございます。ドイツの街には、他にも荘厳な響きの鐘はいくつもあることでしょうね。知らない街を訪れる際の楽しみのひとつになりそうです。
SECRET: 0
PASS:
>KIKIさん
お仕事お疲れ様です^^)。
ニュースダイジェスト初めてでしたか!最近は全編カラーになり、内容も充実してきているようです。僕もそれにいくらかでも貢献できればと思っていますが。
せっかくなのでミュンヘン生活、楽しんできちゃってください。
SECRET: 0
PASS:
職場の真ん前でしたから、Kantineからもよく聞こえました。しかも、仕事前の挨拶代わりでしたので、賄いの思い出に直結してしまいます。
「音のある街」楽しみです。
SECRET: 0
PASS:
前回行ったときに、偶然聞きました。
Currywurstを食べながら聞き入ってしまいました。
連載も楽しみにしていますね。
SECRET: 0
PASS:
gramophonさんの元職場からは、確かにあの鐘がよく聞こえたでしょうね。あれを日常的にずっと聞いていたら、私だったらいつか夢の中にも出てきそうな気がします。思い出と共に。
SECRET: 0
PASS:
>鮭さん
コメントのお返事遅くなりました。
この連載を始めることで、自分自身ベルリンのもっといろいろな音に耳を傾けられそうな気がします。
SECRET: 0
PASS:
スウェーデンからお帰りなさい!
ベルリンの音ってきっと様々ありますよね。
私が印象に残っている音は、この間泊まったホテルから夜も聞こえるS-Bahnとトラムの音でした。
最初はうるさいな〜って思ってたけど、終わりの方ではあると安心してしまう音になっていましたね。
そういう普段の些細な日常の中にある音も面白いですね。
SECRET: 0
PASS:
>鮭さん
ベルリンの電車の音は、なんか独特ですよね。
特にUバーンは線路も古いので、カーブで「キキキー」とすごい音を立てる箇所がありますが、妙に耳に残ります。
そんな音についても、いずれ取り上げることがあるかもしれません。