この夏、日本に一時帰国して改めて感じたのが、東京からそれほど離れていない中規模都市の疲弊具合でした。私の出身地の神奈川県横須賀市は、2013年の人口減少数が全国で最も多かったそうで、少年時代に過ごした街角で子どもの姿をほとんど見掛けなくなったのを寂しく感じました。人口減少や高齢化、大都市への人口集中がこのまま続くと、40年には全国の約30%、実に523の地方自治体が消滅する危険があるというショッキングな推計(日本創世会議)も出ており、これから本格的に準備が始まる20年の東京五輪・パラリンピックという国家的行事の陰で、非常に危惧すべき問題です。
9月4日にベルリン日独センターで行われた国際シンポジウム「文化政策による中小都市の再生――ドイツ・中欧と日本の対話」は、共通の問題を抱える日本とドイツ、中欧の各都市からのパネリストや参加者が集まり、「都市の再生のため文化に何ができるか」を議論する意義深い機会となりました。
前半の趣旨説明では、ニッセイ基礎研究所の吉本光宏氏による徳島県神山町の事例報告が大きな注目を集めました。吉本氏によると、古くから林業を主要産業としていた神山町では過疎化や高齢化が急速に進み、人口はかつての3分の1以下の6000人にまで落ち込みました。しかし、1999年にNPO法人主宰の「アーティスト・イン・レジデンス」が始まると、国内外からやって来たアーティストと彼らをサポートする地元の高齢者との間で創造的な気風が生まれます。町の情報発信のサイトを立ち上げたところ、神山への移住需要が顕在化し、古民家や空き店舗を利用した「ワーク・イン・レジデンス」という仕組みにより、今度は働き手や起業家を「逆指名」していきました。すると、商店街の再生が進み、神山町の自然や人の魅力に惹かれてIT企業までもが次々と神山へ進出・起業するようになったというのです。このような地域再生が行政組織ではなく、主に高齢者の住民から成るNPO法人によって推進されていることに驚きました。
関連サイト:
神山町の情報発信サイト「イン神山」
その後のパネルディスカッションでは、同志社大の河島伸子氏が「文化は経済のお荷物ではなく、文化こそが経済を助け、動かす」という文化・創造経済の視点で語り、神戸大の藤野一夫氏は「特に日本の場合、国土の70%を占める森という資源を見直し、文化政策とエネルギー政策を結び付ける形で地域の自立性を養うべきだ。人々が当事者として判断し、問題を解決していく、強くしたたかなコミュニティーを作ることが、日本やドイツの小さな地域や町が生き残っていく上で重要ではないか」と力説しました。
この日のシンポジウムには東大や神戸大、同志社大、獨協大などの学生も多数参加。彼らはその後、ポーランドとの国境の町ゲルリッツに向かい、ツィッタウ・ゲルリッツ大学と共同のワークショップに取り組んだそうです。藤野氏が語るような「強くしたたかなコミュニティーを作る」ための芽がここから育つことを期待したいと思います。
(ドイツニュースダイジェスト 9月19日)