先月の後半は散々な目に遭ってしまった。3週間のうちに2回も盗難に遭ったのである。
1回目は5月半ばのある日、ベビーカーで買い物をしていた妻がスリに遭った。クロイツベルクのベルクマン通りにあるドラッグストアdmにいたときのこと。ベビー用品をかがんで見ていたときに起きたようで、レジで支払をしようとしたときには、ベビーカーに括り付けていたバッグがなかったという。ちょうどお昼時で店内は空いており、「普段行く公園と違って、あのときは人がいないと思っていたから油断していたかも」と本人は振り返るが、アパートの鍵、携帯、財布など、すべてその中に入っていたので大変なことになった。直後に合流した私と、まずはカードとクレジットカードを止め、近くの警察のお世話になることに……。ちょっと面白かったのは(そのときは面白がる余裕などなかったけれど)、かばんの中にアパートの鍵が入っていることを伝えたら、警察の人がすぐに同僚を私のアパートに送ってくれたことだ。自宅に戻ったら、アパートのドアの前の階段に2人の警官が(スマホをいじりながら)座っていた。幸い、かばんの中に住所を特定できるようなものは入っていなかったようだが、この対応はありがたかった。もっとも一度に大事なものを失って、妻が大変なショックを受けたのは言うまでもなかったが……。
2回目は5月最後の土曜日。ベルリン中央駅の10周年の記念イベントに行ったときのこと。駅前の広場の屋台で昼食を食べ、子どもを特設の砂場で少し遊ばせてから、ずっと立ってばかりで疲れたのでどこかで休憩しようということになった。いくつか見て回ったお店はどこも混んでいたので、結局向かったのは地下1階にあるマクドナルド。妻は別の場所で買うものがあるというので、私がベビーカーを押して先に店に入った。店内はそこそこ混んでいたが、ここは席が多いので余裕がある。冷たいドリンクを飲みながら一息つき、約10分後に妻がやって来た。息子にチューブ入りの野菜ジュースをあげたときにこぼしてしまい、「あーあ」と言いながらティッシュで拭く一幕があり、それが終わって妻が自分の飲み物を買いに行くというので、私も一度立ち上がった。「あれ」と異変を感じて下を見たら、両足に挟んでいたリュックが消えていた。自分としては注意を払っていたつもりだったが、ほんの一瞬の隙にやられたようだった。妻の盗難事件があって他の人よりはより一層警戒していたはずなのに……。
こんなことはそれまで経験したことがなかったので、私も半ばパニックになっていたと思う。そこから遠くない駅構内の連邦警察Bundespolizeiの事務所に駆け込んで、届け出Anzeigeを出す。Canonの一眼レフは肩にかけていたし、スマホや鍵はポケットに入れていたので無事だったが、リュックの中の財布、SIGMAの30mmのレンズ、手帳などは失った。現金は大した額ではないが、日頃の予定を管理していた手帳や10年以上使っていた革のカバーなど、愛着のあるものとあっけなく別れなければならないことはショックだった。
数日間はどんよりした気持ちを引きずったままだったが、失ったもののことでくよくよしていても仕方がない。銀行に行って再発行の手続きをして(3週間前に妻のカードを再発行したときと同じ担当者で、最初は「もうカード(妻の分)は送ったよ」と言われた^^;私が督促に来たのだと思ったらしい。まさか夫婦でこんな短期間に銀行カードを盗まれるとはこの人も思わなかったのだろう)、新しいリュックを買った。手帳は1日1ページのものを愛用していたので、Moleskine製の似たようなものを見つけ、オンラインで購入……。
その翌日、見知らぬ人からポストカードが届いた。
手に取ってみたものの、かなり読みにくい字で書かれていたので、私はしばらく机の上にほったらかしにしていた。すると妻がそれを見つけて、「ちょ、ちょっと、『あなたのリュックサックを』と書いてあるわよ!」。慌てて読み直したら、確かにこう書いてあった。
「私の犬と私が、ある緑地帯であなたのリュックサックを見つけました!受け取りに関してご連絡ください」
早速書かれてあった電話番号に電話したところ、ちょうどその方は旅行中だというので、翌週の半ばにお会いすることになった。
そして先週水曜日のお昼、中央駅のインフォメーションの前でその方に会う約束をした。本当に自分のリュックを再び手にすることができるのか、実際に会うまでは一抹の不安が拭えなかったのだが、約束の時間にKさんというドイツ人男性は現われた。確かに私のリュックを手に持って。彼によると、中央駅から徒歩10分ぐらいのところにある公園を犬と散歩しているときに、私のリュックを見つけたらしい。中に私の名刺と別の知人の手紙の住所があったので、その両方に同じ内容のポストカードを書いて送ってくださったとのこと。心からのお礼を伝えると、少々はにかみ屋と思われるKさんは、「そんな大したことじゃないから」というような微笑みを浮かべてその場を去って行った。
中を開けてみると、現金やカメラのレンズなど金目のものは残念ながらなかったが、それ以外のもの(愛着のある手帳やノートを含め)はそのままの状態で中に入っていた。それだけでももう十分である(クレジットカード、銀行カードも財布の中にそのまま収まっていた)。
それにしても、3週間の間に2回もスリに遭ったことは何を意味しているのか。ベルリンも徐々に治安が悪くなってきたのか、子連れで狙われやすくなっているのか、残念ながらその両方なのかもしれない。「貴重品はできるだけ分散させ、できれば常に肌身離さず持っていた方が良い。手帳など大事なものにはやはり名前と連絡先を書いていた方が良い」などがわれわれが痛感したことだろうか(当たり前のことではあるけれど)。今回は犯人にとって一番価値のないものが、私にとって一番価値のあるものだったことが幸いした。そして何より、Kさんという親切な方に拾われ、わざわざ何とかして私にコンタクトを取ろうと試みてくださったこと。
10年前の開業前から様子を追いかけ、このブログのタイトルにもなっているベルリン中央駅。盗まれただけで終わっていたら、ここを通る度に嫌な記憶がよみがえっていたかもしれないが、思わぬ形でKさん(+ワンちゃん)により救われた形となった。皆さんもどうぞお気をつけくださいませ。
Masato 様
無沙汰して居ります。今更の亀レスにて、失礼します。
このカバン・ザック盗難事件とは無関係な話で恐縮です。
以前、こちらのブログにて、ベルリン市内の銀行支店に対し、その外部から相当な長期間を掛けて地下トンネルを掘った犯罪組織が、銀行の営業休日を狙って地下金庫を襲撃。まんまと大金と重要書類を盗み出した—-と云う事件が報告されていました。
申し訳ないことに、そのブログ記事の期日を忘れてしまったのですが、その盗掘事件のその後の捜査情況は、どうなっていますか? 何か御存じでしたら、お報せ下さい。
Yozakuraさん
いただいたコメントのお返事がすっかり遅くなり、申し訳ありません。
http://berlinhbf.com/2013/02/25/2862/
2013年2月に書いたこの記事のことでしょうか。
あの後犯人が捕まったという話は、少なくとも私は聞いていませんが、一体どうなったのでしょうね。
今年も1年ブログにお付き合いくださり、どうもありがとうございました。どうぞ良い年末年始をお迎えください。