岩波書店の月刊誌『世界』3月号に「生への列車・キンダートランスポート ――クエーカーが救った子供たち」という12ページのルポルタージュを書かせていただく機会がありました。『世界』に寄稿するのは3回目になりますが、今回のテーマは1938年から39年にかけて、ナチス支配下のドイツ、オーストリア、チェコ、ポーランドで行き場を失ったユダヤ人の子供たち約1万人が、主にイギリスに運ばれて救出されたいわゆる「キンダートランスポート」です。話はベルリンのフリードリヒシュトラーセ駅前に設置された記念碑(上の写真)から始まります。私自身、この記念碑の前をよく通るのですが、「なぜ子供たちだけが助かったのか?」「なぜ行き先がイギリスだったのか?」「一体だれがどのようにしてこの救出作戦を組織したのか?」など、多くの疑問を抱きつつも、それについて特に深く考えることはありませんでした。それが昨年、知人を通じてクエーカー教徒の一人のおばあさんと出会い、それまでまったく知らなかった歴史の奥に立ち入ることになりました。
この記事は当初、昨年末に掲載される予定だったのですが、アメリカ大統領選などの影響で、2ヶ月遅れることになりました。ですが、ここ数週間のアメリカのイスラム教徒入国禁止をめぐる混乱を見ても、いろいろなことが当時の状況と重なって写ります。行き場を失った人々。それに対して、彼らの受け入れる姿勢を表明する国、アメリカの政策に反対の意志を示す国、その問題をまるでないかのごとく振る舞う国、それぞれのトップ……。現代を生きる私たちにとっても多くの示唆を含むテーマではないかと思います。ご一読いただけると嬉しいです。