ウクライナ紀行(4) 列車に乗って首都キエフへ

(前回の続き)
10月11日、朝の7時半。リヴィウ中央駅の長いホームに、キエフへ向かう列車が横たわっていた。ブルーの車体、明らかにソ連製だ。旧ソ連の鉄道の線路幅は広軌と呼ばれるもので、1524ミリあり、これは欧米の大部分や日本の新幹線などが採用している標準軌(1435ミリ)よりも幅がある。ホームが低いこともあって、前に立つと列車は一際大きく見える。

この列車はリヴィウ始発で、行き先はなんとモスクワ。キエフで降りず、そのままこの列車に乗り続けたら翌朝モスクワに着くのかと思うと、なかなか感慨深いものがある(もちろんロシアはビザがないと入れないが)。

列車は7時54分に発車。リヴィウの町を大きく周回して一路西へと進む。キエフまでは約10時間の長丁場である。旧ソ連の鉄道に乗るのは初めてだが、昔読んだ宮脇俊三さんの「シベリア鉄道9400キロ」で予備知識は少し持っていた。列車に乗り込む際は、車両の入り口ごとに立っている女性の車掌さんから検札を受ける。切符は車掌さんが預かり、目的の駅に着く寸前に返してくれる仕組みだ。2等車両は4人用のコンパートメントで、完全指定席。日本のB寝台に作りが似ていると言っていい。長時間の移動だけに、昼間から布団を敷いて、ごろごろ横になっている乗客が多かった。私たちの部屋の相客は、ロシア人のおばあちゃんと中年の婦人。2人ともモスクワまで行くという。

このような平原地帯が延々と続く。ウクライナは「ヨーロッパの穀倉」と呼ばれていて、世界の黒土地帯の30%を占めているというのだから驚く。21世紀に世界で食糧危機が起きるとすれば、それを救う可能性のある国とまで言われているらしい。

それにしてもよく揺れる列車だった。おそらく保線整備が行き届いていないのだろう。帰りにキエフから別の幹線ルートでワルシャワに抜けた時は、ここまでひどくなかった。

大きな駅に停車すると、物売りの人たちが続々と車両の入り口近くにやって来る。売られているのは、パンやピロシキ、魚の干物、雑誌など。

お腹がすいてきたので、食堂車に移動しサラダとボルシチを頼む。飲み物は、こーどーくんがコーヒー、私はコーラ。ところがスープを飲み終わって、最初に出されるはずの飲み物がいまだに出て来ない。おかしいなと思った頃、こわそうなおばさんのウェイターがやって来て、骨付きチキンの盛り合わせを無造作にどかんと置いた。唖然として顔を見合わせる私たち。「私たちが頼んだのはコーヒーとコーラだ」とこーどーくんがロシア語で説明すると、「だから私はクーラを持って来たのよ」とおばさん。

どうやらロシア語ではチキンのことをクーラ(Kyla)と言うらしい。なるほど、確かに響きは似ているが、食後にコーラか骨付きチキンかでは雲泥の差がある。こんなもの出されても今さら食べられるわけがない。こーどーくんは確かに「コカ・コーラ」と言って注文していたのでそう主張するが、対するおばさんもなかなか引き下がらない。私はロシア語がわからないので「コカ・コーラ!」とひたすら連呼。それが効いたのかはわからないが、ようやくおばさんはむっとした表情でチキンの皿を持って引き下がって行った。2人ともほっとする。

しかし、その後彼女が持って来たのは、コーラではなくなぜか2カップのコーヒーだった。ひょっとしたらこのおばさんは、コカ・コーラという飲み物の存在を本当に知らなかったのかもしれない。

陽が傾いてきた。郊外電車が見えてきて、キエフの町がいよいよ近付いて来たことが実感される。

キエフ中央駅には約30分遅れの18時40分頃到着。ありがたいことに、私の友達が紹介してくれた、キエフ在住のカーチャさんがホームに迎えに来てくれていた。

ところで、前日リヴィウの町のチケットセンターで買ったキエフまでの切符は、ユーロ換算するとわずか約6,2ユーロ。つまり、前にお話したベルリンからリヴィウまでの29ユーロと合わせて、約35ユーロでベルリンからキエフまで来れたことになる。これは、ベルリンからキエフまで直通列車の切符を買う場合の約3分の1の値段で、正直ここまで安く来れるとは思っていなかった。

(次回はキエフの町の様子をお届けします。何とか再び10位以内をキープ中。よかったらワンクリックお願いします)



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7 Responses

  1. しゅり
    しゅり at · Reply

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    マサトさん、こんばんは。
    とうとうキエフに行くのですね。
    なんだか一緒に旅行をしているような臨場感に
    ドキドキしています。
    さて、食堂車で食べたボルシチの上にくねくねと
    何かマヨネーズ調のものが乗っかっていますが
    これはなんなのですか?
    本当にマヨネーズなのかしら?
    しかし、ポーランドを縦断して35ユーロ・・・。
    凄いです。
    これは各所各所でチケットを買ったほうが安いということ
    なのでしょうか?
    質問ばかりでごめんなさい。

  2. berlinHbf
    berlinHbf at · Reply

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    しゅりさん、こんばんは。まずボルシチの上に乗っかっているものですが、これはマヨネーズではなく、サワークリームです。ウクライナ滞在中はよく飲みました。10月とはいえそれなりに寒い地域なので、スープがよく飲みたくなるんですよね。

    次に切符についてですが、長距離切符は日本だと普通通して買う方が割安ですよね。でも、ベルリンからキエフまで行く場合は、物価の高いドイツでまとめて買うよりも、まずポーランドに入って、乗り継ぐ場所ごとに買う方が安く上がるようです。ただし、英語が通じないことが多いので、切符一枚買うだけでも苦労することは、ある程度覚悟する必要がありますけど^^;)。

  3. Kaninchen
    Kaninchen at · Reply

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    はじめまして!私自身はロシアにはペレストロイカ直後に1度伺ったことがあるだけなのですが、主人がよくロシア・ウクライナへ出張しています。私がシベリア鉄道に乗ったときは、シートがぼこぼこだったんですけれど、今は綺麗になったのかしら?
    しかし、このコカ・コーラおばさんすごいですね。うーん、さすが欧米人。間違っていても、絶対に謝らない。もし、ロシア語がわからなかったら、どうなっていたんでしょうかね?でも、とりあえずberlinHbf さん達の勝利(引き分けだろうか・・・)に拍手!

  4. foggykaoru
    foggykaoru at · Reply

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    かおるです。
    あのおばさんが今もフロントに健在だとうかがって嬉しく思いました。
    ウクライナの列車は激安ですよね。寝台車をとって一晩乗っても10ドル程度だったと思います。
    「ホテルはけっこう高いから、全部車中泊にするのが一番安く旅する方法だ」と友人と言い合ってました。・・・ほんとうにそんなことをしたら疲れるだろうけれど。

    ところで、こちらのブログ、私のブログからリンクを貼らせていただきたいのですが、よろしいでしょうか。
    メインサイトと違って、旅とは関係ないブログなのですが。。。

  5. しゅり
    しゅり at · Reply

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    マサトさん、こんにちは。
    あのクネクネはサワークリームなのですか。
    そうですよね。
    実は何故聞いたかというと、私もボルシチの上には
    サワークリームがのっているものと、ずーっと思っていたのですが
    地元のロシア料理店のボルシチはマサトさんの写真そのまんまの
    ボルシチが出てくるのですが、あのクネクネがなんと!!
    マヨネーズなのですよ。
    驚きました。
    で、まさかまさか・・・マサトさんのあの写真のもマヨネーズだったら
    ボルシチの上にはマヨネーズもありなのか!と思ったもので
    お聞きした次第です。

    さて、そうですよね。
    物価の違う国ではそのほうが切符を買うのには
    お得なのですよね。
    納得です。

  6. berlinHbf
    berlinHbf at · Reply

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    >Kaninchenさん
    こちらこそはじめまして!Kaninchenさんのブログは少し前から拝見しているのですが、ドイツ語学習のためのいいサイトを見つけたと喜んでいました。訪ねて来てくださってうれしいです。シベリア鉄道に乗られたことがあるのですか!私も一度乗ってみたいですが、実現するかどうか。今回の列車は、シートはそこまでひどくはありませんでしたが、コーラおばさんには、本当に参りました(苦笑)。ああいう態度で迫られてしまうと、ロシア語がわからなかったらおそらく勝ち目はなかったことでしょうね。

  7. berlinHbf
    berlinHbf at · Reply

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    >かおるさん
    列車と違って、ホテルは大分高いようですよね(特にキエフは)。そう考えると、Hotel Georgeは本当によかった。リンクはもちろん大歓迎です。

    >しゅりさん
    ボルシチにマヨネーズ!少々奇妙な組み合わせですが、意外にいけるのかもしれませんね。日本のマヨネーズはいろいろなものに合いますから。

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