世代にもよると思うが、多くの日本人が初めて手にする楽器はリコーダーではないだろうか。私はこのリコーダーという楽器が今でも大好きだ。小学生時代、自分にとって音楽界のアイドルといったら、チェッカーズでも中森明菜でもなく、NHK「ふえはうたう」の吉沢実先生だった(こんなこと言ってわかってもらえる人がどれくらいいるかわからないが)。私の小学校には、リコーダーのアンサンブルで有名な音楽クラブがあって、上級生が奏でるリコーダーの美しい響きには本当にしびれていた。
今では私はフルートを吹くのだが、初対面のドイツ人に「私はフルート(Floete)を吹きます」と言うと、「横笛(Querfloete)、それとも縦笛(Blockfloete)?」とほぼ必ずといっていいほど聞かれる。18世紀の前半ぐらいまでだろうか、ヨーロッパではフルートといったら横笛ではなく、縦笛を指す時期があった。音域や音量に制約があることから、やがて主流は横笛へと移っていくのだが、今でもドイツでは横笛も縦笛も同じく「フルート」なのだ。
それに比べると、日本でのリコーダーは、なんとひどい仕打ちを受けていることだろう。初等教育に導入されたおかげでポピュラーになったのはいいが、横笛のフルートに比べると、どうも安っぽいイメージがつきまとう。小学校では、運指を覚えるなりチャルメラを吹き出す小学生が続出し、時には彼らのいたずら道具として使われる始末。これではきらびやかな横笛のフルートに太刀打ちできるはずもない。嗚呼、かわいそうなリコーダー・・・
そんな「どうせタテブエなんて」と思っている人にこそ聴かせたい、すごい演奏を私は昨夜生で聴いてしまった。コンツェルトハウス小ホールで行われた、ベルリン古楽アカデミーのオール・テレマンプログラムのコンサートがそれである。
コンサートの冒頭、モーリス・シュテーガー(Maurice Steger)という1972年生まれのさわやかな風貌のおにいさんが、アルトリコーダーを持って舞台に登場したのだが、その演奏のものすごいこと。リコーダーでこんな演奏が可能なのか、というくらいの恐ろしいテクニック。この人は小さなリコーダーに吹き込みすぎでは、というくらい息を入れる。それゆえ、「きれいな音」とはちょっと違うのかもしれないが、好みの違いを超えて、その表現力もすばらしいものがある。テレマンは18世紀ドイツの作曲家なのだが、18世紀の馬車というよりは、21世紀のF1とか新幹線を連想させる、スタイリッシュでかっこいい演奏。リコーダー好きにはたまらないというか、しびれました。終演後は、聴衆も大興奮でした。
ベルリン古楽アカデミー(Akademie fuer alte Musik Berlin)のコンサートを聴くのは、まだこれが2回目なのだが、本当にすばらしいグループだと感じた。彼らが演奏するのは主に18世紀までの「古い」音楽。マーラーやリゲティに比べたら、譜面は単純にできているし、サボろうと思えばサボれそうなはずだが、彼らの演奏にはおよそルーティーンというものがない。常に生き生きとしていて、「古い」どころか、たった今生まれてきた音楽であるかのようなみずみずしさに溢れている。コンサートの後は、一週間分の活力をもらったような気分だった。ちなみにチケットは立見席でわずか6ユーロほど。
Akademie für Alte Musik Berlin
Maurice Steger Blockflöte
Christoph Huntgeburth Traversflöte
Xenia Löffler Oboe
Sabine Fehlandt Viola d’amore
Georg Philipp Telemann Ouvertüre für zwei Flöten, Streicher und Basso continuo e-Moll (aus “Tafelmusik”, 1. Produktion)
Georg Philipp Telemann Ouvertüre für Blockflöte, Streicher und Basso continuo a-Moll
Georg Philipp Telemann Konzert für Traversflöte, Oboe d’amore, Viola d’amore, Streicher und Basso continuo E-Dur
Georg Philipp Telemann Ouvertüre C-Dur (“Hamburger Ebb’ und Flut”)
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はじめまして。ブログランキングからたどってきました。アマオケで打楽器をしています。4年前にMagdeburgに3ヶ月ほど留学していました(オケの仲間にドイツに行くというと「タイコで?」と勘違いされました)。テレマンが当地出身だとそのとき知りました。再訪したいと思いつつだいぶ経ってしまいました。いろいろな話題を楽しく拝見したいと思います。
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お越しいただきありがとうございます。Magdeburgはベルリンからそう離れていない旧東の町ですよね。私はまだ行ったことがありませんが。しかし、テレマンがこの町出身だとは実は私も知りませんでした。今でこそ地味ですが、生前はバッハよりも人気があったそうです。
ブログ拝見しましたがお医者さんでいらっしゃるのですね!
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ドイツ人にとってはナチの街というイメージだとか。今年で1200年だとか(京都みたい)Domが有名だとか、こじんまりしていて良いところだという印象があります。Trp吹きの友人にもブロックフレーテ好きがいます。それにしても安く演奏会に行ける環境がうらやましい。もう2006シーズンは始まっているんですか?
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ベルリンは町ができてまだ800年も経っていませんから、マグデブルクの方がよっぽど古いのですね。あの近辺ではハレとヴィッテンベルクには行ったことがありますが、かれこれもう5年経ちます。当時は旧東のうらぶれた雰囲気が色濃かったですね。あれからどう変わったか、またあの地域を訪ねたいと思っています。
2006年シーズンはもうほとんどのところで始まっているようです。その日に思い立って演奏会に行けるのは、ありがたいことです。日本だと、安い券は数ヶ月前に買わないと売り切れてしまうことも多いですから。