「ベルリン・シャミッソー広場」(1980)を観る 

今年に入ってからずっと観たいと思っていた映画をついに昨夜観ることができた。ルドルフ・トーメ(Rudolf Thome)監督の「ベルリン・シャミッソー広場」(1980年)である。
ソニーセンター内にあるKino Arsenalは私がベルリンで一番好きな映画館かもしれない。地域、時代、ジャンルにとらわれない、興味深いプログラムが毎月組まれている。日本映画の紹介にも積極的で、3年前に小津安二郎監督の全作品を上演したのもここだった。今月は西ベルリンの80年代の映画を特集しており、そのおかげでベルリンの映画館でもめったに上演されることのない、この知られざる作品を観ることができたわけだ。
クロイツベルク西側のシャミッソー広場(Chamissoplatz)は、まさに現在私が住んでいる界隈である。町のほぼ中心部に位置しながら第二次世界大戦の爆撃を受けることなく、19世紀末の町並みがほとんどそのまま残っているという貴重な場所だ(こちらで一度紹介したことがあります)。今は文化財保護地域にも指定されている美しい界隈だが、25年前はどうなっていたのか。当時の広場周辺の映像が無数に出てくるこの映画は、私にとってこの上なく興味深いものだった。
主人公は43歳のマルティンと24歳の学生アンナ。25年前のシャミッソー広場周辺の様子は今とほとんど変わっていないものの、建物はかなりくたびれた印象を受ける。それは内部にも表れていて、例えばアンナの部屋にはトイレがなく、階段の踊り場にある共同のトイレしかない(こういうアパートは今でもたまに見かける)。実は当時、この周辺を含めたクロイツベルクは左翼系の学生や若者がたむろする「住宅占拠運動」の中心で、古い地区を再開発しようとする当局と対立していたのだった。その再開発プログラムに関わっている建築家のマルティンが、若くて活動的なアンナと仕事を通じて関わるうちに恋に落ちるというストーリーだ。
恋愛物としては特別新鮮な内容ではないかもしれないが、不思議と余韻の残る作品だった。話の展開からしてもっとどろどろした内容になってもおかしくないのだが、そうなる前に画面はすぐ次の展開へ変わるという手法が取られており、背後に流れ続けるニュージャズの響きと相まって、乾いたタッチの好感の持てる映画だった。
家に戻る際、私はわざと一つ手前の地下鉄の駅で降り、映画の中でアンナが住んでいたアルント通りの15番地に立ち寄ってみた。この広場では今も地域独自のお祭りがあったり、週末ごとに市場が立っていたりと、地域コミュニティーが色濃く残っているように思う。映画を見終わった後にここを歩いたことで、私は普段とはまた違った気分になることができた。もちろん周囲は暗闇に包まれていたが、25年前と基本的には何も変わっていないこの風景の中に身を置いていると、はかない恋愛劇と自分との(大げさに言えば)歴史の連続性を実感できたというか、とにかく今ここで生活している日々を大切にしようという気持ちになった。
「ベルリン・シャミッソー広場」は「ベルリン・天使の詩」のように世界的にヒットした映画ではないし、今後もDVD化すらされないかもしれないが(80年代の映画にしては画面がかなり傷んでいた)、私にとっては忘れられない映画となった。

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2 Responses

  1. Kaninchen
    Kaninchen at · Reply

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    この映画見たことありません。今度是非ドイツで見てみたいです。でも、プライベートでドイツに行けるのはいつになることやら・・・
    3年前ちょうどベルリンで小津作品を見ました。当時のことを思い出し、時って過ぎていくのだなー、と実感。
    ベルリンでも共同トイレの建物がまだ実在するのですね!

  2. berlinHbf
    berlinHbf at · Reply

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    >Kaninchenさん
    通訳その他でご活躍のようですね!お忙しいとは思いますが、ぜひプライベートでもベルリンにいらしてください。

    この映画ですが、残念ながらなかなか上演される機会がなく、私も半年以上映画館のプログラムをチェックし続けてようやく見ることができました。いつかDVD化されるといいのですが・・Kaninchenさんも3年前にあそこで小津作品をご覧になったのですか。毎日盛況でしたよね。

    >ベルリンでも共同トイレの建物がまだ実在するのですね!
    一度訪ねた友達の家がそれで、冬の寒い日に鍵を持って廊下に出るのはなかなか身にしみるものがありました。

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