映画「ベルリン・フィル 最高のハーモニーを求めて」

ベルリン・フィルのメンバーが今週韓国から日本入りしたそうだ。いよいよ明日から始まる3年ぶりの来日公演は、今クラシック音楽ファンの間で大きな話題になっているのではないだろうか。とはいえ、日本でベルリン・フィルを幸運にも生で聴ける人など、結局ごくわずかでしかない。今回は、このツアーに合わせて現在東京で上映中の新作映画をご紹介したいと思う(全国順次公開予定だとか)。先日紹介した「帝国オーケストラ」と並んで、ベルリン・フィル125周年に合わせて製作された「ベルリン・フィル 最高のハーモニーを求めて」(原題:Trip to Asia)がそれだ。
「帝国オーケストラ」は時代背景についての知識があるとより興味深い映画だが、こちらは説明不要というか、音楽が好きな方にまずはともあれ観ていただきたい。2005年秋のベルリン・フィルのアジアツアーに密着したドキュメンタリーで、北京、ソウル、上海、香港、台北、東京へと移動する過程で、この名門オケの内部事情が克明に描かれる。まずびっくりするのは、慌しいツアーの中、ラトルや有名な音楽家から驚くほど本音のコメントを引き出していること。これはやはり実際に見ていただくほかないと思う。
ベルリン・フィルのすごい演奏を目の当たりにする時、「ここまで個々の技術が卓越しているオーケストラが、決して個を埋没させることなく、なぜかくも美しいハーモニーを奏でられるのか」といつも不思議に思うのだが、個人として、同時に集団(オケ)の一員としての彼らの心のせめぎあいをここでは垣間見ることができる。音楽界ではエリート中のエリートのベルリン・フィルの団員も(そしてラトルも)、どこかで悩み、心の葛藤があり、それでも日々成長しようと努力している。そのことがわかっただけでも、この映画を見る価値はあった。「オケで演奏することは本当に楽しい。だがそれは、個の人間として機能できての話だ」(ゲッツ・トイチュ)。音楽に限らず、組織の中で働いている人は誰でも、共感できる言葉に出会えるのではないだろうか。
もともとベルリン・フィルのファンだという人は、おなじみの奏者が次々に出てくるのでときめきを感じるはず。R.シュトラウスの《英雄の生涯》、ベートーヴェンの《英雄》、アデスの《アサイラ》などの演奏シーンも迫力十分。インタビューに答える女性奏者はなぜか美しい方ばかりで、そういう意味でも楽しめるかと^^;)。
渋谷ユーロスペースでのこの連休中の上映には、ベルリン・フィルのメンバーも舞台挨拶に見えるそう。足を運ばれてみてはいかがでしょうか。
ベルリン国際映画祭での記者会見より(2月12日)。右よりラトル、グルベ(監督)、マニンガー(BPOソロ・チェリスト)ら。
ベルリン・フィル 最高のハーモニーを求めて公式サイト
東京・渋谷ユーロスペース
11/15(土)~
☆ベルリン・フィルメンバーによる舞台挨拶あり(予定)
11月23日(日)・24日(月/祝)両日ともに 16:20の回上映終了後、18:45の回上映前



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26 Responses

  1. la_vera_storia
    la_vera_storia at · Reply

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    マサトさん、現在川崎に来ています。あと30分ほどでBPOのコンサートが始まります。本心から言えば実は今回はあまり期待していないんですよ(笑)。見事な秋晴れの青空の川崎です。

  2. la_vera_storia
    la_vera_storia at · Reply

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    今は休憩時間ですが、いやびっくりしました。ラトルって何故あんなに急に背中が曲がってしまったのでしょうか? あれじゃまるで70過ぎの老人ですよ。困ったなあこれは…(苦笑)。

  3. la_vera_storia
    la_vera_storia at · Reply

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    マサトさん、田園交響曲は素晴らしかったです! 全体に一筋縄ではいかない演奏にもかかわらず最後は高揚感がありました。ラトル自身の変化か、彼のBPOの体質への妥協なのかは難しいですが、後者のような気もします。

  4. la_vera_storia
    la_vera_storia at · Reply

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    カラヤン時代からの団員さんの顔も懐かしかったですね。スタブラヴァさん、シュトレーレさん、シュターデルマンさん、シュトールさん、その他何人も。さて、また来年は仕事抜きでベルリンに行ってたっぷりと音楽を聴くこととしたいです(笑)。

  5. HUH
    HUH at · Reply

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    「ここまで個々の技術が卓越しているオーケストラが、決して個を埋没させることなく、なぜかくも美しいハーモニーを奏でられるのか」・・・・仰ることが本当に心から理解できました。素晴らしいコンサートでした。
    映画も是非観たいと思います。ご紹介を有難うございました。

  6. berlinHbf
    berlinHbf at · Reply

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    >Kaorintanさん
    >あっ、映画もう来てました。。。でも地元にはきてないみたい
    それは残念ですね・・・。でも、そのうちDVDになると思いますので、何らかの形でぜひ見ていただきたいです。

  7. berlinHbf
    berlinHbf at · Reply

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    >Tsu-buさん
    >戦争が、ナチスが残した心の傷は、時を経ても癒されることはなく、
    >奥底で疼き続けているのでしょう。残酷ですね。
    あの映画に出てくる人たちの心境をうまく表現されているなと思いました。新しい方の映画の感想も、もし気が向いたらお聞かせください。

  8. berlinHbf
    berlinHbf at · Reply

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    >la_vera_storiaさん
    川崎公演の実況中継、ありがとうございました(笑)。
    簡潔ながら様子がよく伝わってきました。
    >本心から言えば実は今回はあまり期待していないんですよ
    これは何となくわかります。la_vera_storiaさんのように昔のBPOを知っている方にとって、ラトルのブラームスがどう響くか興味があるところです。

    >田園交響曲は素晴らしかったです! 
    これを聞いてほっとしました。「田園」はラトル自身が相当自信を持っているレパートリーなので(実際すばらしいです)、今回の日本公演をこの曲で始めたのもそれゆえでしょう。明日からのブラームスで真価が問われます。

    コンバスのシュトールさんは、確かもう定年で後任も決まったはずです。日本公演はまず今回が最後でしょうね・・・。

  9. ima-s
    ima-s at · Reply

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    こんにちは。8月はご案内ありがとうございました、お世話になりました(分かります…よね?(^-^;;)。ご結婚おめでとうございます!末永くお幸せに!

    昨日(11/23)観て参りました。舞台挨拶はホルンのサラ・ウィルス!映画にもたくさん映ってましたね。とってもチャーミングで明るくて楽しい方でした。こんな小柄で細い女性なのにどうしてあんな素晴らしいホルンが演奏できるのかと、尊敬に値する音楽家です。
    「私達は映画スターじゃないから撮られることに最初は戸惑ったけど、カメラマンが4人いてツアー中ずっと一緒だったから、次第に慣れてしまい、ツアーが終わってベルリンで演奏会をしてる時に、あれ?カメラマンはどこ?って探しちゃったわ(笑)」とか、話してました。移動中の飛行機で疲れて寝ていて、はっと目覚めたら目の前にカメラがあったとか…。(^-^;;

  10. ima-s
    ima-s at · Reply

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    映画については、音楽はもちろん素晴らしいのですが、団員達が自分自身のこと、ベルリンフィルの一員としてそして一人の音楽家としての葛藤や想い、それらを飾らずに本音で語っていた言葉が心に響きました。特に「オケの伝統を守っていく」ことについてのそれぞれのコメントはとても興味深いものがありました。本当に観てよかった!
    (サラは「映画を楽しんでもらったら、DVDもちゃんと買って観てね!」と宣伝してました。)

    「田園」は2月にベルリンで聴きまして(お話ししましたよね)、心底感動してしまい、より一層「田園好き」になってしまいました。次回ベルリンに行く時もまた、フィルハーモニーで聴かなくてはならないでしょうね。

  11. la_vera_storia
    la_vera_storia at · Reply

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    マサトさん
    ラトル指揮の2番は以前、80~90年代にロンドンとロッテルダムで計3回も聴きましたが、流れの良さとメリハリの効いた極め付きのすばらしい演奏で大変に見事でした。しかし今回は3、4番を聴く予定です。

  12. la_vera_storia
    la_vera_storia at · Reply

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    なかなか興味深い映画ですね! といいますのも、私がこの眼で見たカラヤン時代のBPOの演奏旅行中の団員の様子と、ご紹介の映画における様子とは大きく異なるからです。毎年8月末ザルツブルク祝祭最後でのコンサートの翌日ルツェルンに移動する際、ザルツブルク空港からチューリヒ行きの便で彼らとよく同じ便に乗り合わせました。彼らは、「これがあの天下のBPO5の団員なのか!」というほど、集団行動心理による逸楽的な態度に満ち溢れていました。それを見ていて正直言って私は苦痛を感じましたね。彼らと同じ便は避けたいと思いましたが他に適当な便はなく、我慢して乗っていたわけです、彼らの何人かは私の顔を知っていたはずですが、そういうことは彼らにとっては無関係のようでした。でも今にして思えば、それだけカラヤンとの演奏を極度の集中力で行っていたために、緊張から一時解放された安堵感に仲間との集団心理が加わり、あのように「過度なリラックス状態」になったのだと思うようにしています。早朝の上野駅18番ホームに降り立ったクループ集団…そういう感じでした(笑)。

  13. la_vera_storia
    la_vera_storia at · Reply

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    サントリーホールでラトルとBPOのブラームス(第3,4交響曲)を聴いてきました。なかなか熱演でした(特に第4番)。一言でいえば「尖がった演奏」という感じでしたね。各パートがくっきりと鳴らされ、そして明るくメリハリが利いていたのは昔聴いた第2番の記憶を呼び起こしました。聞き手がブラームスの第3、4番に何を求めるかということにもよるのですが、私の好みの演奏ではないように感じましたが、やはり一晩の楽しみとしては素晴らしい耳のご馳走でした。ヴァイオリンの第1プルトはスタブラヴァさん(表)と安永さん(裏)だったのに安心しました。先日の川崎ではBとかいうのが表に座っていましたが、彼は正直言って私のあまり好きになれないコンサートマスターでしたから。

  14. la_vera_storia
    la_vera_storia at · Reply

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    演奏技術やアンサンブルは以前と比較してまったく劣っていないと思いました。強い表情で歌う高弦の粘りと輝きは以前通りでした。木管は、フルートがブラウさんがトップを吹くかパユさんが吹くかによってかなり印象が違ってきますね。先日はパユさん、今夜はブラウさん...これならなかなか曲目に合致していることになりますね。ホルンのバボラクだけとればかつてのハウプトマンやザイフェルトよりはうまいと思いますが、ホルンセクション全体の響きでは以前のほうが洗練された中に野趣があってよかったように思います。80年代のBPOと現在のBPOを比較してみますと、コントラバスは以前はもっとオーケストラ全体の土台を支える響きでしたが現在ではもっと軽く聞こえ、曲想によっては時として「疾走するバス」とでも言いたくなるような響きも出しますね。

    ....と、こんな感じでしたよ、これでよろしいでしょうかマサトさん(笑)。

  15. Ksuzuki
    Ksuzuki at · Reply

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    お久しぶりです!wie geht es Ihnen? 今月と来月、ベルリンに滞在しており、久しぶりにお邪魔いたしました(^ ^。 Bph、ちょうど日本公演中なのですね! 私はまだBphの知識や体験は殆どないのですが、彼らがベルリンに戻った後の、12月13日と22日でチケットを用意してます(指揮はラトルではないですが)。初めて聴きに行くので、緊張しますがワクワクしてます。それでは今後もブログ楽しみにしてます!ベルリンも雪で寒いですが、ご自愛ください。

  16. berlinHbf
    berlinHbf at · Reply

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    興味深いコメントをたくさんいただき、感激しています。すみませんが、お返事にはもう少しお時間をいただけたらと思います。

  17. la_vera_storia
    la_vera_storia at · Reply

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    マサトさん
    お返事に関しては決して無理なさらないで下さい。私のは勝手な押しかけコメントですので、お返事はいっさい不要です。そのうち別の場所で字数を費やして、BPOの70年代初頭から現在に至るまでの変遷の印象(私の感じた限りで)をまとめたいと思います。マサトさんは意外に思われるかもしれませんが、その際には以下の「テーゼ」(といったら大仰ですが)を確認いたしたいと考えます。これはBPOを聞き続けてきた私自身の印象を「変遷」という点から以下の観点でまとめた内容になるでしょう。

    「70年代初頭のBPOと80年代末のBPOとの変化(差)は、90年代初頭のBPOと現在のBPOとの変化(差)よりも大きかった。」

    つまり「カラヤン時代」などと一くくりにはできないわけです。(もしご覧になっていたら焼きそうせいじさん、どうでしょうか、そう感じられないでしょうか?)

    ベルリンも東京もこれから一層寒くなります。お元気で!

  18. berlinHbf
    berlinHbf at · Reply

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    >ima-sさん
    お久しぶりです。8月はどうもありがとうございました!
    舞台レポート、大変楽しく読ませていただきました。サラさんとは直接お話したことはないのですが(近所のカフェで見かけたことはあります・・・)、本当に素敵な方ですよね。ドイツ語もネイティブ並に流暢で、コンサートでの司会もこなれたものでした。

    確かにあそこまで奏者の本音を引き出したカメラチームは、グッジョブでしたね。またいつかベルリンでお会いできますことを!

  19. berlinHbf
    berlinHbf at · Reply

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    >Ksuzukiさん
    こちらこそご無沙汰しております。ベルリンには割りと頻繁にいらしているのですね。12月のコンサートは、ティーレマンとメータでしょうか。フル編成のオケを堪能できるプログラムだと思います。どうぞ楽しんでください!

  20. berlinHbf
    berlinHbf at · Reply

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    >la_vera_storiaさん
    実に面白いお話ばかりでしたので、さすがに無視するわけには参りません(笑)。いつもながら、こんな狭いスペースに書いてもらうには惜しいものばかりです。3,4番プログラムのご感想ありがとうございます。フルートはブラウさんでしたか。これを読んで、いつかおっしゃっていた「ベルリン・フィルのフルート奏者たち」というテーマのお話を伺ってみたくなりました。いずれ機会がありましたらで結構ですので(笑)、よろしくお願い致します。

    >早朝の上野駅18番ホームに降り立ったクループ集団…
    これにも大変びっくりしました。当時ほとんどのメンバー全員が男性だったので、その影響もあるかもしれませんが、いずれにしろ興味深いです。

    70 年代初頭から80年代後半にかけての響きの変遷。これも興味津々です。つい最近、88年のサントリーホールでのブラームスとモーツァルトのライブ録音を聴きましたが、このコンビの最終章を飾るにふさわしい大熱演で感動しました。70年代のブラームスはまた違った響きだったのでしょうか。次回は久々に共和国宮殿について書くつもりです。

  21. みどりくま
    みどりくま at · Reply

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    こんばんは。

    BPOの日本公演は本当にうれしいですね。わくわくして待っていました。田園は心象風景として表現されており、そこにパッションが込められていたと思いました。ほかの指揮者・オケの演奏とかなり違いますが、ベルリンフィル伝統の、究極のタイミング・フレージングの合わせこみと音程の正確さがなせる業なのだなと改めて思いました。ハイドンの92番も良い曲ですが、難曲ですよね、でも軽々と併せているのが ほんとにすごい。すばらしい演奏でした。

    マーラーのリュッケルトの詩による5つの歌も忘れがたい演奏でした。
    2006年にメータの指揮でフィルハーモニーでマーラーの7番「夜の歌」を聞いたのですが、今回それとは同じマーラーでもだいぶ印象が違いました。

  22. berlinHbf
    berlinHbf at · Reply

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    >みどりくまさん
    コメントありがとうございます。
    ブラームスチクルスは評価が分かれていたようですが、このプログラムは非常に好評だったようですね。私も2月に聴いた田園には本当に感動しました。

  23. ima-s
    ima-s at · Reply

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    遅レスですみません…。

    > サラさんとは直接お話したことはないのですが
    > (近所のカフェで見かけたことはあります・・・)、

    はぁ~、そういうなんかいいですね!(^-^;;うらやましい!もしかして、お近くにお住まい名のでしょうかね。
    サラさんはベルリンフィルの前はシュターツ・オーパーにいたんですもんね。ドイツ語も堪能でしょう。シュターツ・オーパーとベルリンフィルで演奏する違いは?と聞かれて、「オペラで演奏する時は暗いわ(笑)」と答えて場内爆笑でした。「ライトが当たった明るい所で演奏する方が好きだけど、バレンボイムは素晴らしい音楽監督だから、学ぶことが多くて有意義だった」そうです。

    そういえばサラさんが、今後ベルリンフィルがインターネットで演奏会をライブ中継すると言っていましたが、HPに出ている「The Digital Concert Hall」ですかね。凄い時代になったものです!

  24. berlinHbf
    berlinHbf at · Reply

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    >ima-sさん
    なるほど、サラさんはそんなことを言っておられましたか(笑)。
    ベルリン・フィルのホルンセクションといえば、フォンテックからCDが出ていますよね。大変楽しくまた名人芸が堪能できる録音で、おすすめです。「オペラ!」というタイトルだったような。

  25. Shuji Kamano
    Shuji Kamano at · Reply

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    Trip to Asia, 最後が明治神宮の静寂というのは,70年以上も馴染み深いところなので何となく嬉しくなりました。

  26. berlinHbf
    berlinHbf at · Reply

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    >Shuji Kamanoさん
    日本に住んでいても普段なかなか見ない映像でしたよね。あの映画での日本の扱いは小さかったですが、私も印象に残りました。

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