ハイドンの音楽はある意味ポップだと思います。
極端なところがなく、音楽はいつも快活で大らか。モーツァルトのように時に美に溺れることもなく、いつもいい意味での常識の範囲内にとどまっています。それでいて、人を驚かそうとする意外性とユーモアに満ちていて、ハイドンと一緒にお酒を飲んだら楽しそうです。
今月フィルハーモニーではハイドンの音楽が集中的に取り上げられ、私はサイモン・ラトル指揮ベルリン・フィルの演奏で、オラトリオ「天地創造」と88番から90番までのシンフォニー3曲をまとめた演奏会の2晩を聴くことができました。今回はその後者を取り上げます。ラトルが指揮するハイドンは何回か聴いたことがありますが、なぜかハイドンに限ってはこれまで一度もハズレがありません。複雑な現代音楽も得意とするこのイギリス人がハイドンを振ると、本当に明晰で生き生きとした音楽になるんです。
まずは88番ト長調。「V字」という変てこな愛称が付いていますが、これは私の大好きな曲のひとつ。非常に素朴でシンプルなシンフォニーですが、音楽としての質が高く、何回聴いても飽きません。私はちょっと気分が優れない時にこの曲を聴くと、心なしか気分がすっとします。この日の演奏の中ではこれが一番よかったかも。古楽器奏法も取り入れた3楽章の中間部は、クールかつ立体的に音が重なっていましたし、続く2人が追いかけごっこをしているようなフィナーレもめくるめく音楽になっていました。
次の89番へ長調はどちらかというと地味な印象が拭えませんが、舞踏風のフィナーレは楽しい。ラトルは弦楽器にグリッサンドをかけさせた上に独特の間合いを付けて、その部分をかなり強調していました。
さて、メインの90番ハ長調。これまた素敵な曲です。主役はフルートとオーボエでしょうか。弦楽器の上を駆け巡るパッセージが多く出てくるんですが、ブラウとケリーという2人の名手はそこに自由に装飾を加え、生き生きと表現していました。この曲は、実は終楽章にちょっとした仕掛けがあります。普通は曲の最後にしかでてこない終結音を途中で2回も使っているため、ハイドンの企みにひっかかったお客さんは曲が終わったと思い込んで、そこで拍手をしてしまうんです(笑)。ラトルも指揮棒を一旦は下ろすのですが、ニコッと笑いながら、ひょうひょうと曲を再開。お客さんは爆笑です。こんなことが2回も続いて今度こそ曲が終わると、もちろん大喝采に包まれました。いやー、ハイドンだけのプログラムでここまで沸くなんて。
何かと主義主張に凝り固まって極端に走りがちな世界の政治指導者には、パパ・ハイドンの精神を見習ってほしいものです。
Berliner Philharmoniker
Sir Simon Rattle Dirigent
Joseph Haydn
Symphonie Nr. 88 G-Dur
Symphonie Nr. 89 F-Dur
Symphonie Nr. 90 C-Dur
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洗練度でどうしても古楽器の場合は、ハイドンの手練手管をなかなか味わえないのですが、中庸と云う意味でもこうした機能的なオーケストラでないと表現出来ないかもしれませんね。だからかノーリントンがハイドンを上手に演奏したとは聞かない。近くにいれば聞きたかった演奏会です。
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4月20日にはアダム・フィッシャー指揮、ハイドンフィルハーモニーによる交響曲88番、101番、モーツァルトオーボエ協奏曲の演奏会が、ベルリンフィルハーモニーの室内楽ホールであります。是非聞き比べてみてください。
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>pfaelzerweinさん
コメントありがとうございます。
ラトルの演奏は、現代オケの機能性を生かした見事なものだったと思います。でも、一昨年、ラトルはイギリスの古楽オケともハイドンをやったのですが、そちらもすばらしい演奏でした。媒体が何であれ、ラトルとハイドンとの相性はそれだけいいということなのでしょうね。
大分前、ノリントンがやはりこのオケとハイドンの「オックスフォード」を演奏するのを聴いたことがありますが、こちらはこちらで実にスリリングな演奏でした。
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>Haydnphilさん
情報ありがとうございました。いつもブログ拝見しています。
時間が取れたらぜひ聞きに行きたいコンサートです。
もう大分前になりますが、88番はイヴァン・フィッシャー指揮のベルリン・フィルで聞いたことがあります。
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今、9月の定期演奏会でのベートーヴェン5番(ラトル指揮)の録音(ハンガリーのバルトークラジオのネット放送のオンデマンド)を聴いている最中です。このベートーヴェンを聞くと、彼がハイドンの直接の後継者だということが如実に伝わります。なぜでしょうね?フルトヴェングラーで聴こうものなら、ベートーヴェンは音楽史上唯一無二の高峰になってしまうのですが…。
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もう6年も前のことですが、ラトルがアムステルダムで「トリスタン…」を振ったときに、並行してハイドンの「四季」を上演しました。たんにプレミエを出した後は時間ができるけれどオランダにいないといけないから、間を埋めるためにこのコンサートを入れたものか、それとも何か彼の中で連関がある(ワーグナー漬けの数週間のあとにバランスをとるとか)ものか、ご本人にぜひ伺いたいなどと思ったものでした。
このときは、クリスマスオラトリオ(これも彼にやってもらいたいです)のような清明なハイドンを聞いた記憶があります。
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>焼きそうせいじさん
コメントありがとうございます。
ラトルのベートーヴェンを聴いて、ハイドンをお感じになったというのは面白いですね。その演奏会、私は会場で聴きました。いつもながらのいい演奏だなとは思いましたが、正直そこに「熱狂」はなかったですね。私は彼のエロイカの方に、むしろベートーヴェンらしさを感じました。
「トリスタン」と「四季」の組み合わせは、一見突飛に見えますがいかにもラトルらしいですね。明日からは、ドボルザークとヤナーチェク、その間にトーマス・アデスの新作という、これまた彼の持ち味が出そうなプログラムです。よかったらまた感想書きますね。