Berliner Zeitung(2006年10月21日の紙面より)
しばらく前の話になるが、ある日新聞の文芸欄を見ていたら1枚の写真が私の目に留まった。それがベルリンの地下鉄だということは、内装から一目でわかった。だが、よく見ると何かが微妙に違う。まず、ベルリンの地下鉄には必ずある、語学学校や家具屋の広告がここでは一切見られない。また、これもベルリンの地下鉄でしょっちゅう見かける落書きやガラス窓の引っかき傷がないのも不思議だ。いぶかしげな目でこちらを見つめる少女を始めとして、乗客は全員アジア人。国際色豊かなベルリンでも、こういう場面にはそうそう出くわさない。さらに向こうの車両を覗き見てもわかるが、車内はかなり閑散としている。ここは一体どこだろうと思いながら、正面のドアの上に掲げられているその国の歴代の支配者の写真が目に入った瞬間、私は「あー!」と思った。
これはベルリンの地下鉄ではなかった。何と北朝鮮の首都の下を走る地下鉄なのである。この記事は、フランスの写真家Philippe Chancelがまとめた”Nordkorea“という写真集の紹介文である。それにしても、ベルリンの地下鉄が、一体なぜピョンヤンを走っているのだろう? その記事によるとこういうことだった。1999年に、”Dora”と呼ばれるタイプの西ベルリン製の使い古された車両108両が、北朝鮮に売られたのだという。なぜ西ドイツの地下鉄が選ばれたのかはわからないが、使い古された車両とはいえ、例えばソ連製のものよりはずっと物持ちがいいであろうことは想像がつく。
外観の写真を見ると塗装は変わっているものの、内装はほぼそのままの状態だ(写真はWikipediaより)。ただ、両者の間には違いもある。例えば、ベルリンの地下鉄は極めて浅い深さの中を走っているが、平壌の地下鉄は核シェルターの目的も兼ねているため、地下100メートルの深さの所に作られているという。これはモスクワやキエフなど、旧共産圏の地下鉄と共通するものだろう。
それにしても、普段ベルリンの地下鉄を利用している人間にとっては奇妙なこの写真を見ていると、いろいろな空想が湧いてくる。例えば・・・
ベルリンのある週末の夜、パーティーでぐでんぐでんに酔っぱらった「私」は、いつものように地下鉄に乗って家に帰ろうとしていた。車内は閑散としている。そろそろ降りる駅だと思った頃、知らぬ間に2人の男に両脇を取り囲まれ、「私」はいつの間にか眠り込んでしまった。
目が覚めると、「私」は同じ地下鉄に乗っていた。だが、何かおかしい。同じ列車のはずなのに、周りの顔ぶれがいつもと違うのだ。列車がある駅に到着する。さて、降りようと「私」は立ち上がったが、そこはいつも利用するベルリンの○○駅ではなくて、平壌の「楽園駅」だった・・・(「楽園駅」は平壌に実際にある駅名)。
「私」は注射を打たれ、昏睡状態のまま北朝鮮に拉致されていたのだった。
ベルリンの地下鉄はお世辞にもきれいとはいえない。車両によっては落書きもひどいし、ガラス窓への引っかき傷のような悪質なイタズラは、何とかならないものかと思う。だが、金正日の写真が全車両に掲げられている地下鉄に、毎回乗らなければならない人々のことを思うと、このくらいは我慢すべきか・・・
こちらはベルリンの地下鉄。広告や窓の引っかき傷にご注目を。
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トラムも、「それはそれで」、ですけど、地下鉄も惹かれるところあります。
駅の表示なんかはあるけど、もしかして実際それが正しくないとしたら?
地図に載ってる線路の図が、うそだったとしても、
あまりだれも気づきませんよね。
と空想しちゃいます。
こわいような、でもどこでもドアのようなところに惹かれます。
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こんばんわ。
最近 「将軍様の鉄道」なる本(新潮社)が発刊されたのですが、それによると、この車両の前には東ベルリンの中古車が走っていたそうです。なにかとベルリンと平壌の地下は繋がっている様で・・・。
なお、同じ本では、チューリッヒの路面電車や、スイスの私鉄の客車などの中古車も紹介されていました。
北朝鮮と国交を持つ旧西側諸国は、それなりに存在するんですね。
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すごい空想ですね~っ!!
ほんとにあったら、いやだな~。
もう一回じっくりと見てみたら、上の方に写真がこっそり貼ってありますね。あれがキムなんかな。あ、もう一回よく読んでみたらちゃんとまさとさん書いてありましたね・・・。
核シェルターを兼ねて地下100メートル・・・
いったいどれだけ階段を降りなくてはいけないのだろう。東京駅の京葉線より深いのかな?
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これは面白いね。とても興味深く読みました。北朝鮮の地下鉄も豪華なんだね。びっくりしました。
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ひぇー平嬢で走ってるんですかーっ!すごい(爆)でもホント、写真なのに微妙に空気が違うのが伝わって来ますね・・・。私以前ベルリンで北朝鮮の方と話したんですよ。もちろん知らずに話してたら、胸にバッチ。すっごい焦りましたが、勧誘(?)されず終わりました(笑)
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空想だと解ってるからいるからいいですが、恐ろしい夢ですね。
ベルリンの地下鉄や壁の落書きは何とかして欲しいものですね。ほかがきれいなだけに尚更、ありゃあ目立ちます。
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>Kenさん
>こわいような、でもどこでもドアのようなところに惹かれます。
それはありますね。
小学校の時、教室にホラー漫画が置いてあって、地下鉄が異次元の世界とつながっているという話だったんですが、それはそれは恐かったのを覚えています(>_<)
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>hiro_hrkzさん
「将軍様の鉄道」という本が出たことは知っていましたが、一体どうやって調べて書いたんだろうと思っていました。そのうちぜひ読んでみたいですね。
>この車両の前には東ベルリンの中古車が走っていたそうです。
そうだったんですか。結局それが使い物にならなくて、西ベルリン製に切り替えたという可能性は大いにあり得ますね。しかし、スイス製の列車があの国で走っていたとは驚きです。
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>shinnoさん
今回はちょっとミステリー風に仕立ててみました(笑)
1枚目の北朝鮮の地下鉄に乗っている自分を想像したら、あの話が浮かんできたんです。コワイよね^^;)。
>核シェルターを兼ねて地下100メートル・・・
ベルリンから近いところだと、例えばプラハの地下鉄に乗れば様子がわかると思いますよ。京葉線のホームはそこまで深かったかな?
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>zaichikさん
平壌のこの立派な駅は、ベルリンの地下鉄には明らかに不似合いですね(笑)。しかし北朝鮮も昔はこんな駅を作る財力があったんですね。今だったら、さすがにこんなところにお金をかける余裕はないでしょう。
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>berlin_deさん
数は少ないですが、ベルリンにも北朝鮮の人は住んでいますね。ミッテに大使館もありますし、先月はここでアメリカとの2カ国会談が行われたくらいですから。私はまだあの国の人と直接話したことはないです。
地下鉄の写真の使用はOKですが、こういう内容の時は、ご自分のメールアドレスをお書き添えになるか、私に直接メールをくださいね。
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>gramophonさん
ベルリンから北朝鮮に拉致されるなんてあり得ない話だと思ってしまいますが、隣国のデンマークから拉致された日本人の方がいましたよね。数年前コペンハーゲンの日本食屋で食事していたら、店のご主人がその拉致被害者の方が近くに住んでいたのだと教えてくれました。ヨーロッパの北国で、そんなことが起こり得るのかと信じられない気分でしたが。
>ほかがきれいなだけに尚更、ありゃあ目立ちます。
本当にそうですね。きれいに改装したアルトバウのアパートへの落書きも悲しくなります。いい対策法はないのですかね。
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中央駅さん、こりゃまた怖い国の話題ですね(笑)。DDR時代に私は東ベルリンで、この国から来た人々と話をしたことがありました。4~5人の「学生のグループ」でしたが、奇妙なことに話したのはそのうちの一人のみ。あとのメンバーは無言でした(この「無言」は、あることを意味するに違いありません)。 かつてこの国の首都と(東)ベルリンを結ぶ定期便が運航されていました(現在はECの安全基準を満たさないという理由で運航が禁止となっています)。この国の諜報機関の東ベルリンにおける活動を比較的詳しく書いた本が2冊ほどあります(題名は伏せておきます)。拉致ですか.....。 東ベルリンもその舞台装置の一部として機能していました。以下、ご参照下さい。
http://boboro-web.hp.infoseek.co.jp/bd203histry.htm
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かつて、この場所にあるオフィスがありました。
http://www.berlin.de/stadtplan/map.asp?sid=ed0c588a027f7eb051f3f10900fcc3a0&id=13172&num=3
その後、ここに移ったようです。比較的最近まであったようです。今もあるかもしれません。
http://www.berlin.de/stadtplan/map.asp?sid=793e871ae09c6a8666d0732d02246309&id=4241&num=126
あまり近づかないほうがよろしいかと存じます(ちなみに、もちろん大使館ではありません)。 えっ? じゃあそこには何があるかですって? 「楽園駅」への片道切符売り場かな(笑)。
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>la_vera_storiaさん
貴重な情報をありがとうございます。la_vera_storiaさんは、本当にいろいろなことをご存知ですね(笑)。
「拉致事件関連年表」を拝見しましたが、東ベルリンという地名が何回か出てきますね。「あるオフィス」というのが一体何なのか、とっても気になります。しかも場所がブランデンブルク門のまさに目の前。こんなところに北朝鮮関係のオフィスが?そこから遠くない大使館なら前を通ったことがありますが・・・
>「楽園駅」への片道切符
ブラックユーモアの漂う締めですね(笑)。私が創作したストーリーのタイトルにもなりそうです。
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すいません、あのURLで「あの場所」の地図上の正確な表示はできないようです。(「あの場所」はブランデンブルク門からは遠いです。)
Warschauer Str.5 → Gruenbergallee 2
と移動したようです。この場所に行ってガラス越しに中を見ますと、立派な額縁に入れられたある人物の写真がありました。2人の写真があった時期もあったようです。DDR時代、好奇心をもって中を覗いていると、不意に背後から声をかけられました。ドイツ語でではありません。心臓が止まりそうなくらいびっくりしました。 いやはや、それからが大変でした(笑)。これ以上書くと怖しいのでやめます。中央駅さん、このコメントにはレスしないで下さいね(笑)。
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拉致で思い出しましたが、88年に盗聴されたことがあります。私のブログ、2006年2月22日 (水)をご覧下さい。
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>gramohphonさん
1988年の時点で、まだそんなことが行われていたとはびっくりです。
当時、DDRと北朝鮮はやはり相当密な関係にあったのですね。
>la_vera_storiaさん
正確な情報をありがとうございます、と言うに留めておきますね(笑)