この原稿を書いている今、ベルリンは世界陸上の真っ最中です。私は大会2日目に、五輪スタジアムで観戦してきました。興奮が冷めないうちに、その様子をリポートしたいと思います。
この日のハイライトは何といっても男子100メートルの決勝。観客の多くも、この種目がお目当てだったと思いますが、ほかの競技も予想以上に素晴らしいものでした。一流のアスリートが見せる肉体美はもちろん、パフォーマンス直前の極度の集中力とそこから解き放たれた競技中のスピード感、さらに好記録が出た時の爆発的な歓喜のコントラストは鮮やかで、そこにはスポーツ特有のカタルシスがありました。また、スタジアムの雰囲気も最高。地元ドイツの選手が登場すると、ひと際大きな声援が送られていましたし、逆に選手の方から手拍子を呼びかけ、観客がそれに呼応することもありました。アスリートと彼らを盛り立てようとする観客との間に、巨大なハーモニーが生まれる感じなのです。
19時過ぎ、男子100メートルの準決勝に世界記録保持者のウサイン・ボルトが登場。ただ、そのレースでは別の選手によるフライングが2回あり、ボルト自身の走りも最後は流し気味で、準決勝にしてはやや緊張感に欠ける印象でした。
しかしその2時間半後、世界中の人々が注目する決勝は何もかもが特別でした。会場のボルテージは最高潮に達し、身震いするほど。何かとてつもないことが起こりそうな予感がしました。
決勝はきれいなスタートでした。私はゴール正面のかなり上方にいたのですが、選手がこちらに突進してくる様子を肉眼ではっきりと見ることができました。長身のボルトの走法は恐ろしいほどダイナミックで、視覚面でもほかの選手を圧倒していました。結果はご存知の通り、9秒58という驚異的な世界新記録! その瞬間スタジアムを揺るがした地鳴りのような大歓声は忘れられません。偉大な記録が生まれた瞬間に居合わせることのできた感動と興奮は、今後の私の人生の中で色あせることはないでしょう。
とはいえ、ほかの日はもちろん、「陸上の華」男子100メートル決勝の当夜でさえ、スタジアムが満員にならなかったという事実は、どのように説明すれば良いのでしょうか。大会後半になって、「チケットの値段が高過ぎたのではないか?ガラガラのスタンドをさらすのなら、当日余ったチケットを安く販売すべき」「これまでの売れ行きは妥当。バーゲン売りをしたら正規の値段で買った観客に失礼だ」(主催者側)といった議論が地元紙を飛び交っていました。今大会の入場券は30~135ユーロ。この値段設定をどう見るべきか。私が買ったのは50ユーロの席。この日のコスト&パフォーマンスは最高だったのですが……。
(ドイツニュースダイジェスト 9月4日)
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藤山杜人さん
ご紹介いただき、ありがとうございました。
以前に比べて、ブログを更新する時間が取りづらくなっているのが実情ですが、こうして熱心に読んでくださっている方々のことを思うと、やめるわけにはいきません。今後ともよろしくお願いいたします。