ヤナーチェクと私(1) – 最初の出会い –

例えば、バッハやベートーヴェンの音楽を生まれて初めて聞いたのはいつだっただろうかと振り返ってみても、「いつの間にか出会っていた」としか言いようがない(モーツァルトは少し別なのだが、それはまたいつか)。だが、レオシュ・ヤナーチェクの音楽に関して言えば、間違いなくあれが最初の出会いだったと振り返れる日がある。
1993年の初夏、ベルリン・フィルのコンサートマスターだった安永徹さんが夫人のピアニスト市野あゆみさんと横須賀市の文化会館でデュオリサイタルを開いた。当時高校3年生だった私は、両親と聞きに出かけた。チケットは確か一律1000円だったが、それでもお客さんの入りは6割ぐらいと記憶している。
プログラムは、ベートーヴェン、ヤナーチェク、フランクのヴァイオリンソナタ。いずれも初めて聞く曲だった。ベートーヴェン(確か『春』だったと思う)は、当時すでにベルリン・フィルの大黒柱として活躍されていた安永さんの美しいヴァイオリンの音色にうっとりとさせられた。フランクのヴァイオリンソナタは、第2楽章の情熱的な歌い回しと派手な終わり方がかっこよく、確かプログラムに「曲はここで終わりではないので、うっかり拍手してしまわないように」などと地元のお客さん向けに書かれていた(笑)。それはともかく、フランクのソナタは今でも大好きな音楽で、うまいヴァイオリニストのリサイタルの演目にこの曲が並ぶと、食指が動く。
で、ヤナーチェクなのだが、とにかく不思議な音楽だなあと思った。リズムも節回しも、ベートーヴェンともフランクとも全然違う。(抽象的な言い方だけれど)聞いている間の時間の流れ方さえもが違うように感じられた。中でも印象に残ったのが4楽章。ピアノの旋律をさえぎるかのように何度も出てくるヴァイオリンの鋭い動機は、強く心に刻まれた。全体的に強い緊張感がみなぎっている一方、冒頭のヴァイオリンのむせび泣くようなメロディーなど、どこか東洋的で、なつかしい気持ちにもなった。
初めて聞いたヤナーチェクの音楽、好きとも嫌いとも思わなかったが、私の中で何かが残ったのは確か。とはいえ、それからCDを買ってじっくり聞いてみるようなこともなく、年月が過ぎていった。ヤナーチェクの音楽に再び出会ったのは、その5年後だった。
(つづく)



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