「ベルリンの新空港はいつ開業するのですか?」「ベルリン国立歌劇場の工事はいつ終わるのですか?」
ここ数年、ベルリンを訪れる人々からもっとも頻繁に聞かれる質問が、この2つかもしれない。そのたびに私は「さあ、どうなんでしょうね」と言葉を濁す。正直、それ以外に答えようがないからだ。もっとも、空港に関しては「このまま、中心部から近くて便利なテーゲル空港でも良いですよね」という展開になることがあるが、歌劇場に関しては今の代替公演地のシラー劇場のままで良いと考える音楽ファンはごくわずかだろう。
2010年秋、当初は3年間の予定で始まった大規模な改修工事。2015年現在も終わりが見えていない国立歌劇場の建物は今どういう状況なのか。昨年から定期的に開催されている「工事現場ツアー」に参加してみることにした。
3月上旬の日曜日、ウンター・デン・リンデンの劇場の前で待っていると、指定時間にガイドの男性が現れ、参加者一行を劇場の反対側にあるプレハブ小屋に連れて行った。ここでヘルメットと長靴を借りて、いざ出発。
最初に見学したのは、新しく建設中のリハーサルセンター。オーケストラ、合唱、バレエのそれぞれのリハーサル室のほか、劇場本体の舞台と同じスケールの総合練習用の舞台がここに作られる。このリハーサルセンターは、劇場より一足先にオープンする予定だ。
いったん外に出て、足の踏み場もないほどの工事現場を通過して(リハーサルセンターと劇場は地下トンネルで結ばれる)、いよいよ歌劇場の中に入る。無数の配線や柱を越えて客席の真ん中に来た。それが平土間と分かったのは、馬蹄形のカーブに沿った、見覚えのあるロココ風の優美な装飾を持つ屋根が目に入ったからだった。しかし、それ以外に、この劇場に通っていた頃をしのばせるものはほとんど見付けられなかった。東独時代の建物の改装というよりは、ほぼ作り直す形に近いのではないかと思ったほどの混沌ぶりである。
不安定な地盤から溢れ出る地下水との闘い、18世紀の要塞部分の出土、工事に携わっていた事務所の倒産など、予想外の出来事が重なったとはいえ、修復費は当初の2億4000万ユーロから3億9000万ユーロへと大幅に膨れ上がり、野党の批判も高まっている。つい最近、今度は現場からアスベストが見付かったというニュースが飛び込んできた。
歌劇場で働く知人がこんなことを話していた。「定年が近い東独出身の団員は『このまま東(の本拠地)に戻ることはないのかな』と悲しがっていますね。一方、この5年の間に、元の劇場を知らない若い団員も入って来ました」
桟敷席の最上階に行き、天井を見上げた。この改装では天井を5メートルかさ上げすることで、音響効果が改善される予定だ。がらんとした工事現場で、ここに響き渡る音を想像したが、「芸術は長く人生は短し」。現時点で完成予定とされている2017年を、大幅に越えないことを願う。
(ドイツニュースダイジェスト 4月3日)
Information
ベルリン国立歌劇場
Staatsoper Berlin
1742年、フリードリヒ大王の命により、王立の宮廷歌劇場としてオープンしたドイツでも屈指のオペラ劇場。1992年からダニエル・バレンボイムが終身音楽監督を務めている。2010年秋からの大規模な改修工事に伴い、現在はシャルロッテンブルク区のシラー劇場で公演が行われている。U2のErnst-Reuter-Platz駅から徒歩5分。
チケットオフィス:月~日12:00~19:00(当日券は公演の1時間前より)
住所:Bismarckstr. 110, 10625 Berlin
電話番号:030-20354555
URL:www.staatsoper-berlin.de
国立歌劇場・工事現場ツアー
Baustellenführung
2014年5月から開催されているベルリン国立歌劇場の工事現場の見学ツアー。人気は高く、1回のツアーの参加人数は20人と限られているため、歌劇場のホームページかチケットオフィスでの予約は必須。参加費は一般15ユーロ(割引10ユーロ。ただし14歳以下は参加不可)。所要時間は約2時間。
開催:毎週日曜と祝日の10:00~18:00にかけて計4回ほど
住所:Unter den Linden, 10117 Berlin
電話番号:030-20354555
URL:www.staatsoper-berlin.de