オーク材を組んで作った防御柵から中に入ると、わらぶき屋根の家々が見えてきた。中央の広場には二人の男がバグパイプと太鼓の陽気な音楽を奏で、親子連れが集まっている……。
ここはベルリンの西の郊外、ツェーレンドルフ地区にあるデュッペル村。村といっても、中世の村を再現した野外博物館である。いくつも建ち並ぶわらぶき屋根の家々は、「発掘」の喜びとともに、幼い頃に日本で見たことのある風景と重なって、懐かしい気持ちにもさせてくれた。それにしても、大都市ベルリンの中でなぜここに中世の村が?
まだ都市ベルリンの萌芽さえ見られなかった12世紀後半にさかのぼる。当時、アスカーニエン家のアルブレヒト1世によってドイツの東方植民が進んでいた。1157年、彼がブランデンブルク辺境伯領を創設したのは、ベルリンとブランデンブルクの歴史において重要な一歩であった。このデュッペルに村が作られたと推定されているのは、その少し後の1170年頃。辺境伯領の城塞があった南のザールムントとシュパンダウのほぼ中間地点に位置するここは、宿場町のような役割を果たしていたという。当時の旅人と彼らを運んでいた牛たちは、柵に囲まれたこの地でほっと一息ついたのだろう。
実際ここに集落があったのは1220年頃までの50年ほどだったというが(なぜ村人が別の場所に越したのかは分かっていない)、ずっと後の1965年になって発掘調査が始まり、当時の生活の痕跡が大量に見つかった。結果、生きた野外博物館として保存されることになる。
広場の周りに建ち並ぶ13の家屋は、一見似ているようで、少しずつ異なったスタイルと用途を持っている。製粉所、倉庫、パン焼き場、人々の住居、加えて二つの井戸もある。いずれもここで見つかった考古学上の発見にできるだけ忠実に再現されたものだそうだ。それぞれの場所に13世紀当時の衣装を着たボランティアの人たちがいて、当時の手編みの作業やはちみつ作りの様子まで見せてくれるのが楽しい。とはいえ、家族を養うために粉挽きの作業だけで1日2時間かけていたことなどを知ると、当時の彼らが置かれた過酷な環境を思う。とりわけ興味深かったのは、先に入植したスラヴ人とドイツ人、それぞれ違うスタイルの住居が2軒並んでいたことだ。13世紀初頭、彼らは平和に共存し合っていたという。
この日は2017年シーズン開幕を祝う博物館村のお祭りだった。二人の男たちの周りに人々が集まると、「これからみんなで冬を追い払おう!」と言って、子供たちを引き連れて村を練り歩いた。途中、放牧している羊の群れに出会い、広場に戻ると、子供たちが作ったわら人形を火に放り込む。マルク地方に古くから伝わる冬を追い払うための風習だそうだ。800年前の冬の闇がどれほど濃いものだったのか想像しにくいが、その後に訪れる春のまぶしさは、昔の人とも喜び合える気がする。
結局この4月は肌寒い日が続いたけれど、デュッペル村にも間もなく本格的な春が到来するはずだ。
(ドイツニュースダイジェスト 5月5日)
Information
デュッペル博物館村
Museumsdorf Düppel
ツェーレンドルフ地区にある野外博物館。1965年にこの地で発掘作業が始まった後、1975年に博物館としてオープンした。Sバーンのツェーレンドルフ駅から115番バスに乗ってLudwigsfelder Str.で下車、徒歩5分ほど。村内には手作りの工芸品が販売されているほか、食事ができるコーナーもある。入場料は3.5ユーロ(割引2.5ユーロ)。18歳以下は無料。
オープン:土日祝10:00〜18:00(冬期休業。2017年は10月22日まで)
住所:Clauertstr. 11, 14163 Berlin
電話番号:030-8026671
URL:www.dueppel.de
ドメーネ・ダーレム
Domäne Dahlem
博物館村と同じく、ベルリンで農村生活を味わえる希少な場所。かつてのプロイセンの王立御料地だった場所が、農業と食文化をテーマにした広大な野外ミュージアムとして保存されている。地下鉄U3のダーレム・ドルフ駅を降りてすぐ。毎週土曜の8時から13時までエコマーケットが開催される。当連載の第9回(2011年4月)で紹介済み。
オープン:水〜日10:00〜17:00(博物館)
住所:Königin-Luise-Str. 49, 14195 Berlin
電話番号:030-6663000
URL:www.domaene-dahlem.de