クロイツベルク地区にあるベルリン・ユダヤ博物館は、ダニエル・リベスキンドによる斬新な建築の魅力とも相まって、ベルリンでも特に人気の高い博物館の1つです。ドイツ・ユダヤ史をテーマにした常設展のみならず、話題の特別展をいくつも送り出してきました。以前このレポートでもご紹介した、生身のユダヤ人を「展示」した「本当の真実」展(2013年、本誌959号参照)や「エルサレムへようこそ」展(2018〜19年、本誌1066号参照)は、その例です。
今年初め、その「エルサレム」展が思わぬ波紋を引き起こしました。イスラエルのネタニヤフ首相がドイツのメルケル首相に宛てた書簡で、この特別展が「パレスチナ・イスラム側の偏った視点」に立っていると批判し、展示の中止と博物館への補助金打ち切りを要求したのです。
ペーター・シェーファー館長と博物館の財団理事も務めるモニカ・グリュッタース文化メディア担当国務大臣は、この批判を退けましたが、その後も波紋を呼ぶ出来事が続きました。4月にシェーファー館長が、イスラエルと敵対関係にあるイランの文化担当官を博物館に招いたことや、博物館の公式ツイッターがイスラエルへの抗議の不買運動(通称BDS)に関する記事をリツイートしたりしたことが、ドイツのユダヤ人中央評議会の怒りを買うことになったのです。あるジャーナリストは、「この博物館はユダヤ人とユダヤ教を展示の核にするのか、あるいはムスリムとの相互理解への模索もテーマにするのか。両立は無理だ」という記事を新聞に寄稿しました。
高名なユダヤ学者でもあるシェーファー氏は、混乱の責任を取る形で6月に館長を辞任。博物館は今後1年、後任が見つかるまでは当館のディレクターが代理を務め、運営を続けると発表しました。
ユダヤとは何か。ドイツに長く住んでいてもなかなか見えてこない、複雑で多様な概念です。さまざまな見方があることを提示してくれたユダヤ博物館の展示は、私にとっても大きな学びの場となってきました。
「博物館の自律性は守られなければならない」と一貫して主張するグリュッタース氏は、最近ヴェルト紙日曜版のインタビューでこう述べています。「ベルリン・ユダヤ博物館はドイツにおけるユダヤの歴史を扱っています。その趣旨ゆえ、博物館の審議会にイスラエル国の代表者が入るべきではありません。もちろん、多くの相互関係には敬意を払うべきですが」「すべての立場に正しくあることなどできません。そのような野心を1つの博物館が持つべきではありませんし、その必要もないのです」
2年以上に及ぶ改装期間を経て、来年新しい常設展がオープンすることになっています。この博物館のファンの1人として、今後の行方を注視したいと思います。
(ドイツニュースダイジェスト 2019年10月18日)